【ITニュース解説】第57回 Linuxカーネルのコンテナ機能 ―cgroup v2から使うメモリコントローラ(2)

2024年12月24日に「Gihyo.jp」が公開したITニュース「第57回 Linuxカーネルのコンテナ機能 ―cgroup v2から使うメモリコントローラ(2)」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

Linuxカーネルのコンテナ機能におけるcgroup v2のメモリコントローラを解説。cgroup v1との変更点やメモリの制限値に加え、cgroup v2で新しく設定できるようになったメモリの保証値がどのように動作するかを紹介する。

ITニュース解説

Linuxカーネルは、コンピュータのハードウェアを制御し、ソフトウェアが動作するための基盤を提供するオペレーティングシステムの中核部分である。現代のITシステムにおいて広く利用されているコンテナ技術は、このLinuxカーネルが持つ特定の機能を活用している。コンテナは、アプリケーションとその実行に必要なライブラリ、設定ファイルなどを一つにまとめ、独立した環境で動作させる技術であり、これによりアプリケーションは開発環境、テスト環境、本番環境のどこでも同じように動作することが保証される。

コンテナの独立性やリソースの隔離を可能にする重要な機能の一つに「cgroup(control group)」がある。cgroupは、サーバー上の複数のプロセスやコンテナが利用できるCPU、メモリ、ディスクI/O、ネットワークなどのシステムリソースを、グループ単位で管理・制限する仕組みである。これにより、あるコンテナが過剰にリソースを消費して他のコンテナやシステム全体に影響を及ぼすことを防ぎ、安定したシステム運用を支援する。cgroupには、初期のバージョンであるv1と、より洗練された管理機能を提供するv2が存在する。

cgroup v1におけるメモリコントローラは、主に各グループ(コンテナ)が使用できるメモリの「上限値(制限値)」を設定する機能を提供していた。このメモリ制限値は、コンテナが利用可能なメモリの最大量を定めるものであり、もしコンテナがこの制限値を超えてメモリを消費しようとすると、Linuxカーネルは「Out Of Memory Killer(OOM Killer)」と呼ばれる仕組みを起動する。OOM Killerは、メモリを過剰に消費しているプロセスを強制的に終了させることで、システム全体のメモリ不足によるクラッシュを防ぎ、安定性を保とうとする。しかし、この仕組みは、予期せぬアプリケーションの停止を引き起こす可能性があり、特に重要なサービスを運用する際には、停止のリスクを管理することが課題であった。

cgroup v2のメモリコントローラでは、従来のメモリ制限値の概念に加え、新たに「メモリ保証値」という機能が導入された。メモリ保証値とは、そのグループ(コンテナ)に対して、システムが最低限利用可能であることを約束するメモリ量のことである。この保証値が設定されたコンテナは、たとえシステム全体のメモリが不足し、逼迫した状況に陥ったとしても、指定された保証値分のメモリを優先的に確保し、利用し続けることができる。これは、複数のコンテナが同じ物理サーバー上で動作している場合に、最も重要なサービスを稼働させるコンテナの安定性を確保するために非常に有効な機能である。

メモリ保証値が実際にどのように機能するかを具体的に説明する。システム全体でメモリが不足し始めると、Linuxカーネルはメモリの解放やスワップ領域への移動(スワップアウト)を試みる。この際、メモリ保証値が設定されていないグループや、保証値よりも多くのメモリを使用しているグループから優先的にメモリが解放される。一方で、メモリ保証値が設定されているグループは、その保証値分のメモリを優先的に保持できるため、OOM Killerの対象となるリスクが大幅に低減される。これにより、システム管理者やアプリケーション開発者は、コンテナの重要度に応じてメモリリソースの優先度を細かく制御し、重要なサービスの可用性を高めることが可能となる。

ただし、メモリ保証値は「絶対的なメモリの確保」を意味するわけではない。もしシステム全体の物理メモリが極端に不足し、設定された保証値すら確保できないような状況に陥った場合、保証値を持つグループであってもメモリ不足の影響を受ける可能性はゼロではない。しかし、その場合でも、保証値を持たない、あるいは保証値が低いグループよりも、メモリが解放されたりOOM Killerの対象となったりする優先順位は低く設定される。つまり、メモリ保証値は、システム全体でメモリを公平に分配するというよりは、設定された優先度に基づいてメモリを分配し、重要なサービスに安定したリソースを提供するメカニズムとして機能する。

メモリ制限値とメモリ保証値を組み合わせて利用することで、より柔軟で高度なリソース管理が可能となる。例えば、あるコンテナには高いメモリ制限値を設定し、さらにメモリ保証値も設定することで、通常時は最大限の性能を発揮させつつ、システム全体がメモリ不足に陥った際にも最低限の動作を保証するといった運用が可能となる。逆に、重要度の低いコンテナには低い制限値を設定し、保証値は設定しないことで、重要なコンテナにリソースを優先的に割り振るような戦略も選択できる。

cgroup v2のメモリコントローラによるメモリ保証値の導入は、コンテナ環境におけるアプリケーションの安定性と信頼性を飛躍的に向上させる。現代のコンテナ環境では、一つの物理サーバー上で多数のコンテナが動作し、それぞれ異なる重要度を持つことが一般的である。この機能は、そうした多様な要求に応え、より堅牢で予測可能なコンテナ運用を実現するための強力なツールである。システムエンジニアを目指す初心者にとって、このようなLinuxカーネルレベルのリソース管理機構を理解することは、安定したITインフラを設計し、運用するために不可欠な知識となるだろう。