【ITニュース解説】MastraでもVoltOpsを使いたい

2025年09月02日に「Qiita」が公開したITニュース「MastraでもVoltOpsを使いたい」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

AIエージェントの思考を可視化するツール「VoltOps」を、AI開発フレームワーク「Mastra」でも利用する方法を解説。これにより「Mastra」で開発するAIの動作を詳細に追跡・分析でき、開発効率の向上が期待できる。

出典: MastraでもVoltOpsを使いたい | Qiita公開日:

ITニュース解説

AI、特に人間のように対話できる大規模言語モデルを活用して、特定のタスクを自律的に実行する「AIエージェント」の開発が注目されている。AIエージェントは、日々の情報収集から複雑な業務プロセスの自動化まで、幅広い応用が期待されている。このようなAIエージェントを効率的に開発するため、多くの「フレームワーク」と呼ばれる開発基盤が提供されている。本稿では、その中でも「VoltOps」と「Mastra」という2つのフレームワークに着目し、それぞれの長所を組み合わせて開発効率を向上させる試みについて解説する。

まず、「VoltOps」は、TypeScriptというプログラミング言語を用いてAIエージェントを構築するためのフレームワークである。VoltOpsの最も強力な特徴は、「プレイグラウンド」と呼ばれる開発支援機能にある。このプレイグラウンドは、開発したAIエージェントがどのように動作したかを詳細に追跡し、可視化することができるツールである。例えば、ユーザーからの指示に対してAIがどのような思考プロセスを経て、どのツールをどの順番で呼び出し、最終的な回答を生成したのか、その一連の流れを後から詳しく確認できる。これは、システム開発における「デバッグ」、つまりプログラムの誤りを見つけて修正する作業において非常に有効である。AIの挙動は常に予測可能とは限らないため、その内部的な動きを視覚的に把握できることは、エージェントの品質向上と開発期間の短縮に大きく貢献する。

一方、「Mastra」もAIエージェントを開発するためのフレームワークである。Mastraは、AIアプリケーション開発で広く利用されている「LangChain」というライブラリを基盤としており、その特徴は「宣言的」にエージェントの構造を定義できる点にある。「宣言的」な記述とは、「最終的に何を実現したいか」という目的や構成を記述するスタイルであり、具体的な処理手順を一つ一つ記述する「手続き的」なスタイルと対比される。この宣言的なアプローチにより、開発者はエージェントの全体像をより直感的かつ簡潔にコードで表現できるため、プログラムの可読性やメンテナンス性が向上するという利点がある。

ここで、開発者はある課題に直面する。Mastraの持つ「簡潔な記述でエージェントを定義できる」という利便性は非常に魅力的である。しかし、Mastraには標準でVoltOpsのプレイグラウンドのような、高度な実行トレースやデバッグ機能が備わっていない。そのため、Mastraで開発を進めると、エージェントが複雑な挙動をした際に、なぜそのような結果になったのかを追跡するのが困難になる場合がある。そこで、「Mastraの書きやすさを活かしながら、VoltOpsの強力な可視化・デバッグ機能を使えないか」という、二つのフレームワークの長所を組み合わせる「良いとこ取り」の発想が生まれた。

この課題を解決するため、元記事の筆者は、MastraとVoltOpsという異なる仕組みを持つ2つのフレームワークを接続するための「アダプター」を自作するというアプローチを取った。アダプターとは、互換性のないものを仲介し、連携を可能にする仕組みのことである。具体的には、Mastraで構築されたエージェントの内部的な処理データを、VoltOpsのプレイグラウンドが解釈できる形式に変換する特別なプログラムを開発した。このアダプターを介することで、Mastraで定義されたエージェントを、あたかも最初からVoltOpsのエージェントであったかのようにVoltOps側から扱うことが可能になる。

このアダプターの開発により、理想的な開発環境が実現された。開発者は、まずMastraの宣言的な構文を用いて、直感的かつ簡潔にAIエージェントのロジックを構築する。そして、そのエージェントの動作を詳細に検証したい場面では、自作したアダプターを通じてVoltOpsのプレイグラウンドに接続する。これにより、エージェントの思考プロセス、API呼び出しの履歴、データの流れといった内部的な挙動のすべてが可視化され、問題点の特定や性能改善が格段に容易になる。つまり、Mastraの持つ「開発のしやすさ」と、VoltOpsの持つ「デバッグのしやすさ」という、両方のメリットを同時に享受できるようになったのである。これは、AIエージェントという複雑なシステムの開発において、生産性と品質を大幅に向上させる画期的な試みと言える。

この事例は、システムエンジニアを目指す初心者にとって多くの学びを含んでいる。実際のシステム開発では、単一のツールや技術だけで全ての要件を満たせることは稀である。多くの場合、それぞれに長所と短所を持つ複数のツールやフレームワークを適切に組み合わせ、目的を達成する必要がある。今回のように、既存のツールだけでは解決できない課題に直面した際に、それらを連携させるためのアダプターのような仕組みを自ら考案し、実装する能力は、エンジニアにとって非常に重要なスキルである。特定の技術を深く学ぶことも大切だが、同時に、異なる技術の特性を理解し、それらを組み合わせてより良い解決策を生み出すという視点を持つことが、優れたシステムエンジニアへの道に繋がるだろう。この取り組みは、そうした問題解決の面白さを示す好例である。