【ITニュース解説】MCP入門: 簡単なMCPサーバーを作ってMCPのノリを確認してみた

近年、大規模言語モデル（LLM）は目覚ましい進化を遂げ、人間のように自然な文章を生成したり、複雑な質問に答えたりする能力を獲得した。しかし、その能力は基本的に学習したデータの中の世界に限定されている。例えば、LLM単体では今日の最新の天気予報を答えたり、社内のデータベースにアクセスして最新の売上情報を取得したりすることはできない。この限界を突破し、LLMの能力を現実世界のアプリケーションやサービスへと拡張する技術が「ツール連携」である。そして、そのツール連携を標準化し、より簡単に実現するための仕組みとして「MCP（Model Context Protocol）」が注目されている。これは、LLMと外部のプログラムを繋ぐための共通の「お約束事」や「通信ルール」と考えることができる。

MCPは、様々なアプリケーションやサービスを、LLMが利用できる「ツール」として組み込むためのプロトコル、つまり通信規格である。これを利用することで、開発者は自社のサービスやローカル環境で動いているプログラムを、LLMの新しい能力として簡単に追加できるようになる。例えば、「天気予報を取得するツール」「顧客情報を検索するツール」「商品を注文するツール」などをLLMに提供できる。LLMはユーザーとの対話の中で、これらのツールが必要だと判断すると、自律的にツールを呼び出し、その結果を使ってユーザーに回答する。これは、スマートフォンに新しいアプリをインストールして機能を増やす感覚に近い。MCPという共通のルールがあるおかげで、LLMの種類やツールの開発言語に依存せず、様々な組み合わせでシステムを構築することが可能になる。

MCPの仕組みを理解するために、LLMに「天気予報を教えてくれるツール」を追加する例を考えてみる。この連携を実現する中心的な役割を担うのが「MCPサーバー」である。このサーバーは、LLMとツール（天気予報プログラム）の間の橋渡し役となるWebサーバーであり、主に二つの重要な機能を提供する。一つ目は、LLMに対して「自分はどのようなツールを持っているか」を自己紹介する機能だ。LLMがこのサーバーにアクセスすると、サーバーは「『get_weather』という名前のツールがあります。このツールは、場所を指定するとその場所の天気を返します」といった情報を、決められた形式（JSON形式）で応答する。これにより、LLMは初めてこのサーバーにどんな能力があるのかを正確に理解できる。二つ目は、LLMからの依頼に応じて実際にツールを実行する機能である。LLMがユーザーの質問を解釈し、「東京の天気を調べてほしい」と判断した場合、MCPサーバーに対して「『get_weather』ツールを、場所を『東京』という情報付きで実行してください」と具体的なリクエストを送る。サーバーはこのリクエストを受け取ると、内部の天気予報プログラムを起動し、得られた結果（例えば「晴れ、気温25度」）をLLMに返す。この一連のやり取りは、すべてMCPという共通のルールに則って行われる。

この仕組み全体の流れを見てみよう。まず、開発者は天気予報を返す機能を持つMCPサーバーを準備し、そのアドレスをLLM（例えば、ローカルで動作するLM Studioなどの環境）に設定しておく。これで準備は完了だ。ユーザーがチャット画面でLLMに「今日の東京の天気はどう？」と質問する。するとLLMは、この質問に答えるためには外部の天気情報が必要だと判断する。そして、事前に登録されていたMCPサーバーに問い合わせを行い、利用可能なツールの一覧を取得する。その中に「get_weather」ツールを見つけると、ユーザーの質問から「東京」というキーワードを抽出し、これを引数としてMCPサーバーにツールの実行を依頼する。MCPサーバーは依頼通りにツールを実行し、結果をLLMに返す。最後に、LLMはその結果を基に「今日の東京の天気は晴れ、気温は25度です」といった自然な文章を生成し、ユーザーに回答する。このように、ユーザーからはLLMが元々天気予報の能力を持っていたかのように見えるが、その裏ではMCPを通じた外部ツールとの連携が密かに行われているのである。

MCPのようなツール連携の仕組みは、LLMの活用範囲を飛躍的に広げる可能性を秘めている。LLMはもはや単なる対話相手や文章生成ツールではなく、様々なITシステムを操作するための「頭脳」や「司令塔」として機能し始める。開発者は、既存の業務システムやWebサービスにMCPサーバーの機能を追加するだけで、それらをLLMと連携させ、自然言語による操作を可能にできる。例えば、営業担当者が「先月のA社の売上データをグラフにして」とチャットで指示するだけで、LLMが社内データベース検索ツールやグラフ作成ツールを呼び出し、結果を提示するといった応用が考えられる。このように、複雑な操作を必要としていたシステムを、対話という直感的なインターフェースで利用できるようになることは、業務効率の劇的な向上に繋がるだろう。システムエンジニアを目指す者にとって、LLMの言語能力をいかにして既存のシステムと結びつけ、新たな価値を創造するかという視点はますます重要になる。MCPは、そのための強力な手段の一つであり、今後のシステム開発において基本技術となる可能性が高い。ごく簡単なWebサーバーを構築するだけでLLMの能力を拡張できる手軽さは、多くの開発者にとって大きな魅力であり、今後様々な応用事例が登場することが期待される。