【ITニュース解説】Microsoft open-sources its 6502 version of BASIC from 1976
2025年09月04日に「The Verge」が公開したITニュース「Microsoft open-sources its 6502 version of BASIC from 1976」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
Microsoftは、1976年に共同創業者ビル・ゲイツらが開発した初期のプログラミング言語「6502 BASIC」をオープンソースとして公開した。これまで非公式に出回っていたソースコードが、正式なライセンスで利用できるようになった。
ITニュース解説
Microsoftが1976年に開発した6502版BASICのソースコードを、公式にオープンソースライセンスの下で公開したというニュースは、ソフトウェア開発の歴史において非常に大きな意味を持つ出来事だ。この6502版BASICは、まだパーソナルコンピュータ(PC)が一般に普及する前の黎明期に、Microsoftが手がけた初期のソフトウェアの一つであり、共同創業者であるビル・ゲイツと初期の従業員リック・ワイランドによって、特定のCPU(中央演算処理装置)である6502向けに開発されたものだ。長年にわたり、このソフトウェアの非公式なコピーがインターネット上で出回っていたが、今回Microsoftが公式にコードを公開したことで、その歴史的価値と教育的意義が改めて注目されている。
まず、この「6502版BASIC」がどのようなものだったのかを理解する必要がある。BASIC(Beginner's All-purpose Symbolic Instruction Code)は、その名の通り、プログラミング初心者が手軽にコンピュータを操作できるよう設計された言語だ。1960年代に開発され、シンプルな文法と直感的な操作性から、特に初期のPCにおいて広く採用された。当時のPCは現在のように高性能ではなく、メモリやストレージといったリソースが極めて限られていたため、BASICは少ないリソースでも動作し、ユーザーがプログラムを実行したり、簡単なアプリケーションを作成したりするための貴重な手段だった。Microsoftの6502版BASICは、特に人気を博した6502マイクロプロセッサを搭載したコンピュータ、例えばApple IIやCommodore PETといった初期の主要なPCで動作するように最適化されていた。これらのコンピュータは、今日のシステムエンジニアが学ぶような高度なOS(オペレーティングシステム)を持っておらず、起動するとすぐにBASICのプロンプトが表示され、ユーザーは直接コマンドを入力してコンピュータを操作するのが一般的だった。つまり、このBASICが当時のPCの顔であり、ユーザーとコンピュータをつなぐ主要なインターフェースだったと言える。Microsoftにとって、このBASICは同社の礎を築いた最初の製品の一つであり、後のWindowsやOfficeといった巨大なソフトウェア事業へと続く、まさに原点となるものだった。ビル・ゲイツ自身もこのコードの最適化に深く関わり、限られたメモリ空間の中で最大限の性能を引き出すために、アセンブリ言語を駆使して手書きでコードを記述したという逸話は有名だ。
今回の「オープンソース化」とは、そのソースコードが公に利用可能になり、誰でも自由に閲覧、利用、修正、そして再配布できる状態になったことを意味する。これまで非公式なコピーが流通していた状況とは異なり、Microsoftが正式にライセンスを付与して公開したことで、その正当性と信頼性が確保された。これにより、歴史研究者やレトロコンピュータ愛好家だけでなく、システムエンジニアを目指す初心者にとっても、極めて貴重な学習機会が提供される。なぜMicrosoftが今になって、40年以上前の古いソフトウェアをオープンソース化したのか。その背景にはいくつかの理由が考えられる。一つは、ソフトウェアの歴史的価値の保存と共有だ。Microsoftが初期のイノベーションをどのように実現したのか、その技術的背景を後世に伝える役割がある。もう一つは、オープンソースコミュニティへの貢献だ。多くの現代のソフトウェアがオープンソースの恩恵を受けている中で、Microsoft自身も過去の重要な資産を公開することで、コミュニティへの感謝と還元を示す意図があるかもしれない。そして何よりも、このコードは当時のコンピュータサイエンスの知恵と工夫の結晶であり、限られた制約の中でいかに効率的なソフトウェアを開発したかを示す生きた教材となる。
システムエンジニアを目指す初心者にとって、この6502版BASICのコードは、単なる古いプログラム以上の価値を持つ。現代のソフトウェア開発では、多くの場合、高レベルの言語やフレームワークを使い、複雑な抽象化されたレイヤーの上で作業する。しかし、このBASICのコードを読み解くことで、コンピュータがどのように低いレベルで動作しているのか、メモリやCPUといったハードウェアリソースをいかに効率的に管理していたのか、といったソフトウェアの根本原理を垣間見ることができる。例えば、非常に限られたRAM(ランダムアクセスメモリ)の中で、いかにしてプログラムの実行環境を構築し、ユーザーからの入力を処理し、計算結果を表示していたのか、当時のプログラマーたちが直面した課題と、それを解決するための独創的な手法を学ぶことができる。これは、現代の高性能なコンピュータ環境では忘れられがちな、リソースの制約に対する意識や最適化の重要性を再認識する良い機会となる。また、オープンソースという形で公開されたことで、単にコードを読むだけでなく、自分で修正を加えたり、エミュレータ上で動かしたりといった実践的な学習も可能になる。過去の偉大なエンジニアたちが、どのような思考でコードを記述したのかを追体験することは、現代のシステム設計やプログラミングにも応用できる洞察を与えてくれるだろう。
このように、Microsoftによる6502版BASICのオープンソース化は、単なるノスタルジーに終わる話ではない。これは、コンピュータの歴史における重要な一章を解き放ち、次世代のエンジニアたちに、ソフトウェア開発の原点と、限られたリソースの中でいかに創造的なソリューションを生み出してきたかを示す貴重な教材を提供するものだ。この古いコードの中に、現代のテクノロジーの基盤を理解し、未来のイノベーションを創造するためのヒントが隠されているかもしれない。