【ITニュース解説】第250回 MySQLの統計情報更新

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ITニュース概要

MySQLはデータを探す命令(クエリ)を受け取ると、クエリオプティマイザが動く。これは、テーブルやインデックスの統計情報というデータの傾向をまとめた情報を使って、最も速くデータを見つけるための実行計画を決めている。

出典: 第250回 MySQLの統計情報更新 | Gihyo.jp公開日:

ITニュース解説

データベースは、大量の情報を整理し、必要な時に素早く取り出せるようにするシステムである。システムエンジニアにとって、このデータベースを効率的に扱うことは非常に重要だ。MySQLはその代表的なデータベースの一つであり、ウェブサービスから企業の基幹システムまで幅広く利用されている。私たちがデータベースに「このデータを探してきて」とお願いする時、その命令は「クエリ」という形で送られる。例えば、「顧客リストから20代の男性を探して」といった具体的な指示がクエリにあたる。 このクエリがデータベースに届くと、すぐにデータを取りに行くわけではない。データベースの中には「クエリオプティマイザ」と呼ばれる賢い部分があり、このクエリオプティマイザが「どうすれば最も効率的に、最も速く、必要なデータを取り出せるか」を考える。この「最も効率的な方法」を「実行計画」と呼ぶ。例えるなら、目的地まで行くのに、どの道を通れば一番速いかを地図を見て考えるようなものだ。電車が早いか、車が早いか、どの乗り換えがベストか、といった判断に似ている。 クエリオプティマイザがこの実行計画を立てる際に、非常に重要な情報が「統計情報」である。統計情報とは、テーブルにどれくらいのデータが入っているか、特定の列にどんな種類のデータがどれくらいの割合で含まれているか、インデックス(索引)がどれくらい有効か、といった、データベース内のデータに関する様々な特徴をまとめた情報のことだ。例えば、あるテーブルに顧客が100人しかいないのか、それとも100万人いるのか、20代の顧客は全体の1割なのか9割なのか、といった具体的な数値や傾向が含まれる。これらの情報が地図上の道路状況や交通量、電車の運行状況に相当すると考えれば良い。 もしこの統計情報が古かったり、現実と食い違っていたりしたらどうなるだろうか。クエリオプティマイザは古い情報に基づいて「この道が一番速い」と判断してしまうかもしれない。しかし実際にはその道は大渋滞しており、結果としてデータを取り出すのに非常に時間がかかってしまう。これが「データベースのパフォーマンス低下」として現れる現象だ。例えば、昨日まで100人しかいなかった顧客リストが、今日になって100万人に増えたとしよう。もし統計情報が更新されていなければ、クエリオプティマイザは「100人程度なら全てのデータを順番に調べてもすぐに終わるだろう」と判断し、効率の悪い方法を選んでしまう。しかし実際には100万人ものデータを全て順番に調べるのは膨大な時間がかかり、システム全体の応答速度が著しく低下してしまうのだ。 統計情報が古くなる主な原因は、データベース内のデータが頻繁に更新されることにある。新しいデータが追加されたり、既存のデータが変更されたり、不要なデータが削除されたりするたびに、テーブルの構造やデータの分布は変化する。これらの変化は自動的に統計情報に反映されるわけではない場合が多い。特に大規模なデータの追加や削除が行われた後には、統計情報が現実から大きく乖離しやすくなる。 そこで重要になるのが、統計情報を定期的に、あるいは必要に応じて更新する作業である。MySQLにはこの統計情報を手動で更新するための「`ANALYZE TABLE`」というコマンドが用意されている。このコマンドを実行すると、データベースは対象のテーブルを分析し、最新の統計情報を再生成する。これにより、クエリオプティマイザはより正確な情報に基づいて実行計画を立てられるようになり、クエリの処理速度を向上させることができる。`ANALYZE TABLE`は、データベースのパフォーマンスが低下したと感じた時や、大量のデータ更新を行った後に実行することで、劇的な改善が見られることがある。 ただし、統計情報の更新作業は、少なからずデータベースに負荷をかける作業でもある。特に大規模なテーブルの場合、`ANALYZE TABLE`の実行には時間がかかり、その間、テーブルに対する他の操作が一時的にブロックされる(ロックがかかる)可能性がある。そのため、システム運用中に頻繁に実行しすぎると、かえってシステムの可用性を損なう恐れもある。そこで、システムの利用者が少ない時間帯に実行する、あるいは部分的な更新に留めるなど、適切な運用計画を立てることが重要となる。最近のMySQLのバージョンでは、一部のストレージエンジンで統計情報が自動的に更新される仕組みも導入されているが、それでも手動での管理が全く不要になるわけではない。 システムエンジニアとしてデータベースのパフォーマンスを最適に保つためには、この統計情報の概念と重要性を理解し、適切に管理することが不可欠である。最新かつ正確な統計情報があることで、クエリオプティマイザは常に最適な実行計画を選択し、データベースは高速かつ安定して動作する。これは、ユーザーが快適にサービスを利用できるかどうかを左右する重要な要素の一つだ。データの特性を理解し、統計情報を適切にメンテナンスすることで、データベースの真の力を引き出すことができる。

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