【ITニュース解説】第179回 ノーコードのデザインツールは、ウェブサイト制作の世界をどう変えるか
2024年12月18日に「Gihyo.jp」が公開したITニュース「第179回 ノーコードのデザインツールは、ウェブサイト制作の世界をどう変えるか」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
ノーコードのデザインツールがウェブサイト制作の世界を大きく変えている。手軽にサイトを作れるツールの特徴や利用拡大の原因を解説し、内製化が進む制作環境の変化と今後の方向性を探る。プログラミングの知識がなくてもサイトが作れるため、開発のあり方も変化する。
ITニュース解説
ノーコードのデザインツールがウェブサイト制作の世界に与える影響は大きく、システムエンジニアを目指す皆さんにとっても、この変化は将来のキャリアを考える上で非常に重要な要素となる。ノーコードツールとは、プログラミング言語を一切書くことなく、ウェブサイトやアプリケーションを開発できるソフトウェアのことを指す。これまでのウェブサイト制作では、HTML、CSS、JavaScriptといったコードを記述し、複雑な知識と技術が必要だったが、ノーコードツールでは、直感的な操作で、まるでブロックを積み重ねるようにウェブページの要素を配置し、色やフォント、レイアウトなどを設定できる。ドラッグ&ドロップといった視覚的な操作が中心であり、事前に用意されたテンプレートを利用することで、デザインの知識がなくてもプロフェッショナルな見た目のサイトを短時間で構築することが可能だ。
この手軽さと開発の迅速性が、ノーコードツールの利用が急速に拡大している最大の理由である。企業は常に新しいサービスや商品を素早く市場に投入し、顧客に情報を届けたいと願っている。しかし、従来の開発手法では、企画から開発、リリースまでに時間とコストがかかり、ビジネスチャンスを逃すこともあった。ノーコードツールを活用すれば、プログラミングの専門知識を持たないマーケティング担当者や事業企画担当者でも、アイデアを直接ウェブサイトとして形にし、迅速に公開できる。これにより、開発にかかるリードタイムとコストが大幅に削減され、企業は市場の変化に素早く対応し、ビジネスを加速させることが可能になった。社内でウェブサイト制作の多くを完結させる「内製化」の流れを強力に後押ししているとも言える。
このような変化は、ウェブサイト制作の環境そのものに大きな変革をもたらしている。かつてはウェブデザイナーやフロントエンドエンジニアといった専門家が担っていた領域の一部が、ノーコードツールによって非専門家にも開放されたことで、ウェブサイトの制作における敷居は大きく下がった。シンプルな企業の情報サイト、イベントの告知ページ、期間限定のキャンペーンサイトなど、短期間での立ち上げや頻繁な更新が求められるウェブサイトの多くが、今やノーコードツールで制作されている。これは、ウェブサイトが単なる情報発信の媒体から、ビジネス戦略を迅速に実行するためのツールへと、その役割を変化させていることを明確に示している。
しかし、ノーコードツールがすべてのニーズに対応できる万能なソリューションであるわけではない。システムエンジニアを目指す皆さんにとって、ノーコードツールの限界を理解することは非常に重要である。ノーコードツールは、あらかじめ用意された機能やテンプレートの範囲内で効率的にウェブサイトを構築することに優れているが、例えば、複雑なデータベース構造の設計、外部の基幹システムとの高度なAPI連携、特定のビジネスロジックに基づいた複雑な計算処理、大規模なユーザーアクセスに耐えうるパフォーマンスの最適化、あるいは厳格なセキュリティ要件への対応など、高度なカスタマイズや専門的な機能実装が求められる場面では、その能力には限界がある。
このようなノーコードツールでは対応しきれない、複雑で技術的な難易度の高い課題こそが、システムエンジニアの真骨頂であり、今後もその専門性が揺らぐことはないだろう。基幹システムとの連携部分の設計と実装、膨大なデータを効率的に処理するバックエンドシステムの開発、独自のビジネスロジックを満たすためのカスタム機能の開発、そしてウェブサイト全体のセキュリティアーキテクチャの設計や、サービス運用後の保守・改善など、これらは依然として高度なプログラミングスキルとシステム設計能力を必要とする。ノーコードツールで迅速にプロトタイプを作成し、ユーザーからのフィードバックを得た後に、その知見を基に本格的なシステム開発へと移行するといった、ハイブリッドな開発プロセスにおいても、システムエンジニアは全体の設計や技術的な判断を担う中心的な存在であり続ける。
さらに、企業がノーコードツールを導入する際にも、システムエンジニアの専門的な知見は不可欠となる。どのノーコードツールが企業の特定の要件に最も合致しているのか、既存のITインフラや業務プロセスとどのように連携させるか、データフローをどのように設計し管理すべきか、そして導入後の運用体制やセキュリティ対策をどう構築するかといった、技術的な視点からの評価、選定、導入支援が必要とされる。ノーコードツールを使いこなす非技術系の人材が増えることで、知らず知らずのうちにセキュリティリスクが増大したり、データの整合性が損なわれたりする可能性もあるため、これらのリスクを管理し、適切なガバナンスを設計する役割もシステムエンジニアが担うことになるだろう。
したがって、ノーコードツールの登場は、システムエンジニアの仕事を奪うものではなく、むしろその役割を進化させるものと捉えるべきだ。単純なウェブサイト制作のタスクはノーコードツールに任せ、システムエンジニアは、より本質的なビジネス課題の解決、複雑なシステムの設計と構築、高度な技術的課題の解消、そしてビジネス価値の最大化といった、より高度で戦略的な仕事に注力できるようになる。技術の進歩は常に、人間の役割を変化させ、より高度な知的な仕事へとシフトさせてきた歴史がある。ノーコードツールもその一つであり、システムエンジニアには、プログラミングスキルだけでなく、多岐にわたる技術要素を適切に評価し活用する能力、異なる技術を組み合わせて問題を解決する総合的なシステム思考、そしてビジネス側のニーズを深く理解し、それを技術で実現するコミュニケーション能力が、これまで以上に求められるようになるだろう。