【ITニュース解説】Making the most of a dumb fax switcher box in the old days

2025年09月02日に「Hacker News」が公開したITニュース「Making the most of a dumb fax switcher box in the old days」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

昔の単純なFAX切替器の仕組みを解析し、本来の用途を超えてデータ通信などに活用した技術者の工夫。限られた環境でも、機器の動作原理を深く理解すれば、新たな価値を生み出せることを具体例で示している。(118文字)

ITニュース解説

インターネットが常に利用できる現代とは異なり、かつては1本の電話回線を、音声通話、FAX、そしてダイヤルアップ方式によるインターネット接続という複数の目的で共有するのが一般的であった。このような限られた環境の中で、いかにして技術的な課題を解決し、利便性を高めるかという創意工夫が行われていた。ここで解説するのは、古いFAX自動切替器の仕組みを巧みに利用して、1本の電話回線で音声、FAX、モデムへの着信を自動的に振り分けるシステムを構築した事例である。

この話の中心となる装置は「FAX自動切替器」である。これは、かかってきた電話が音声通話なのか、それともFAXなのかを自動で判別し、回線を適切な機器に接続するための装置だ。その判別の仕組みは非常に単純である。電話がかかってくると、まず切替器が応答し、回線上の信号を監視する。もし、FAX機器が通信を開始する際に発する特有の信号音、いわゆるCNGトーンが検出されれば、その着信はFAXであると判断し、回線をFAX機に接続する。一方で、このCNGトーンが検出されなければ、音声通話であると判断し、電話機のベルを鳴らす。このように、切替器はCNGトーンの有無という一つの情報だけを基に動作する、比較的単純な装置であった。

この環境における課題は、電話とFAXの2種類に加えて、3つ目の用途であるモデムへの接続をどうやって自動化するかという点にあった。外部から自宅のコンピュータにダイヤルアップで接続したい場合、その着信を切替器が認識し、回線をモデムに繋ぐ仕組みが必要となる。しかし、切替器には元々、電話とFAXという2つの選択肢しかない。この制約を乗り越えるために、切替器の単純な動作原理を逆手に取った、多段階の解決策が考案された。

第一段階として、モデムへの着信を切替器に「FAXからの着信」であると誤認させる必要があった。そのために、外部からモデムに接続を試みる際に、まずFAXが発するのと同じCNGトーンを送信するという手法が用いられた。この信号を受け取った切替器は、設計通り「FAXが来た」と判断し、回線をFAX機が接続されているポートへと切り替える。これにより、少なくとも着信を電話機から分離し、FAXとモデム用の共通の経路上に誘導することに成功した。

しかし、これだけではまだ不十分である。FAX用のポートには、本来のFAX機とモデムの両方が接続される可能性があり、どちらへの着信なのかを区別できない。そこで第二段階として、FAXとモデムをさらに区別するための仕組みが導入された。ここで活用されたのが、DTMF信号である。DTMF信号とは、電話機の数字ボタンを押した際に鳴る「ピ、ポ、パ」というプッシュホンの音のことで、それぞれのボタンには固有の周波数の組み合わせが割り当てられている。このDTMF信号を、一種の「合言葉」として利用したのである。

具体的な手順はこうだ。まず、外部から接続する側はCNGトーンを送信して切替器を騙し、回線をFAX/モデム用のポートに繋がせる。その後、あらかじめ決めておいた特定のDTMF信号のシーケンスを送信する。このDTMF信号を検知・解読するための小さな電子回路を別途用意し、FAX/モデム用のポートに設置しておく。この回路が設定された「合言葉」となるDTMF信号を検知した場合にのみ、リレーと呼ばれる電気的に動作する物理スイッチを作動させ、回線の接続先をFAX機からモデムへと切り替えるのである。もしCNGトーンの後にこの特定のDTMF信号が送られてこなければ、回路は反応せず、回線はデフォルトの接続先であるFAX機に繋がったままとなる。

この一連の工夫により、最終的に1本の電話回線で3種類の着信を自動的に振り分けるシステムが完成した。かかってきた電話がCNGトーンもDTMF信号も含まない通常の着信であれば、切替器はそれを音声通話と判断し、電話機へと繋ぐ。もしCNGトーンが検出されたものの、その後に特定のDTMF信号が続かなければ、それはFAXへの着信と見なされ、回線はFAX機へと繋がる。そして、CNGトーンの後に「合言葉」となるDTMF信号が送信された場合に限り、それはモデムへの接続要求であると判断され、回線がモデムへと切り替えられる。

この事例は、単純な機器が持つ動作原理や制約を深く理解し、それを創造的に利用することで、本来想定されていなかった高度な機能を実現できるという、エンジニアリングにおける問題解決の好例である。限られたリソースの中で、既存の技術を組み合わせ、目的を達成するためのシステムを構築する過程は、今日の複雑なシステムを扱うエンジニアにとっても、技術の根源的な仕組みを理解し、応用することの重要性を示唆している。

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