【ITニュース解説】期待外れ? そんなことはない「rabbit r1」レビュー④
ITニュース概要
AIデバイス「rabbit r1」のレビュー記事。今回は第4弾として、使用レポートの詳細を解説する。デバイスの実際の使い勝手や機能について、システムエンジニアを目指す初心者にもわかりやすく伝える。
ITニュース解説
近年、AI技術の進化とともに、その力を最大限に引き出すための新しいデバイスが次々と登場している。その中でも特に注目を集めているのが、AI搭載の専用デバイス「rabbit r1」である。このデバイスは、一見するとスマートフォンのようにも見えるが、その目的や設計思想は大きく異なる。スマートフォンが多種多様なアプリケーションを実行するための汎用的なプラットフォームであるのに対し、r1はAIとの対話を通じて様々なタスクを代行させることに特化した「AIエージェント」のためのコンパニオンデバイスと位置づけられている。 rabbit r1の最大の特徴であり、その核心をなす技術が「LAM(Large Action Model)」と呼ばれるAIモデルである。現在主流となっているChatGPTなどのAIは「LLM(Large Language Model)」、つまり大規模言語モデルと呼ばれ、人間のように自然な文章を生成したり、要約したり、質問に答えたりすることを得意とする。これに対し、LAMは「大規模行動モデル」と訳され、人間の言葉による指示を理解し、それをアプリケーションの具体的な操作、つまり「行動」に変換することを目指している。例えば、「Spotifyで特定のアーティストの曲を再生して」という指示に対し、従来のスマートアシスタントの多くは、Spotifyが提供するAPI(Application Programming Interface)という決められた連携窓口を利用して命令を実行する。しかし、LAMはAPIに依存せず、人間がスマートフォンの画面をタップしたり、スワイプしたりするのと同じように、アプリケーションのGUI(Graphical User Interface)を認識し、目的を達成するための操作手順を自律的に実行する。このアプローチにより、原理的にはAPIが公開されていないサービスやアプリケーションであっても、AIに操作を代行させることが可能になる。 しかし、鳴り物入りで登場したrabbit r1の現状は、この壮大なコンセプトが完全に実現されているとは言い難い状況にある。実際にデバイスを使用してみると、現時点で可能な操作はまだ限定的だ。例えば、音楽ストリーミングサービスのSpotifyや、配車サービスのUberなど、一部の提携サービスについては音声指示で操作が可能である。また、Web検索や翻訳、簡単な計算といったタスクも実行できる。カメラで写したものを認識し、それについて質問できるVision機能も搭載されているが、その性能はまだ発展途上と言える。そして、多くのユーザーが最も期待していたLAMの真価を発揮する機能、つまりユーザーがr1に新しいアプリの操作方法を教える「Teach Mode」は、まだ実装されていない。そのため、現在のr1の動作の多くは、革新的なLAMによるGUI操作というよりは、既存の技術であるAPI連携や、クラウド上のLLMを利用して実現されているのが実情だ。また、日本語への対応も不十分で、現状では英語での指示が基本となるため、日本国内での実用性には課題が残る。 こうした現状から、「期待外れ」という評価も一部で見られる。しかし、それはr1をスマートフォンの代替品として捉えた場合の評価である。r1の本来の価値は、既存のデバイスの置き換えではなく、AIエージェントという新しい存在を、より手軽で直感的に利用するための物理的な入り口を提供することにある。現時点では機能が限定的で未完成な部分が多いものの、今後のソフトウェアアップデートによってLAMが本格的に稼働し、Teach Modeが実装されれば、その評価は一変する可能性がある。ユーザーが自分のよく使うアプリケーションの操作をr1に学習させ、音声一つで複雑なタスクを自動実行させられるようになれば、r1はまさに「自分専用のAIアシスタント」として真価を発揮するだろう。システムエンジニアを目指す者にとって、rabbit r1の動向は非常に示唆に富んでいる。LAMのような技術が普及すれば、アプリケーション開発におけるインターフェースの考え方が根本的に変わる可能性があるからだ。これまでは、システム間の連携にはAPIの設計が不可欠だったが、将来的にはAIが人間のようにGUIを直接操作することが当たり前になるかもしれない。そうなれば、UI/UXの設計思想も、人間だけでなくAIエージェントによる操作を前提としたものへと進化していく可能性がある。rabbit r1は、その未来を予感させる、過渡期ならではの魅力と課題を併せ持ったデバイスであり、今後の進化から目が離せない存在だ。