【ITニュース解説】楽天モバイル、「三菱アウトランダーPHEV」を移動基地局車に--スターリンク搭載 ヘリ輸送可
ITニュース概要
楽天モバイルが、三菱アウトランダーPHEVをベースにした小型移動基地局車を導入すると発表した。スターリンクを搭載し、ヘリ輸送も可能なこのPHEV型SUVは、2026年3月末から順次配備される。
ITニュース解説
楽天モバイルが、三菱自動車のSUV「アウトランダーPHEV」をベースにした新しい小型移動基地局車を導入すると発表した。この取り組みは、災害時やイベント開催時など、通信が困難になる状況下での通信環境を確保するための重要な一歩となる。この移動基地局車には、人工衛星を使ったインターネットサービス「スターリンク」が搭載され、ヘリコプターでの輸送も可能という特徴があり、日本の通信インフラの強靭性を高める技術として注目される。 まず、私たちのスマートフォンが通話やデータ通信を行えるのは、街の至る所に設置された「基地局」というアンテナ設備のおかげである。基地局は、スマートフォンからの電波を受け取り、それを光ファイバーなどの有線ネットワーク網を通じて、通話相手のスマートフォンやインターネットの世界へと繋いでいる。しかし、地震や台風といった大規模災害が発生すると、これらの基地局が停電で停止したり、設備そのものが破損したり、基地局とネットワーク網を繋ぐ光ファイバーが断線したりして、通信ができない状態に陥ることがある。また、音楽フェスティバルや花火大会のように、特定の場所に大勢の人が集まると、一つの基地局にアクセスが集中しすぎて通信が遅くなったり繋がりにくくなったりする。このような問題を解決するために活躍するのが「移動基地局車」である。これは、トラックなどの車両に基地局の機能を一式搭載し、必要な場所へ移動して臨時の通信エリアを構築する仕組みだ。 今回楽天モバイルが導入する移動基地局車は、従来の大型トラックをベースにしたものとは一線を画す。車両には、外部から充電できる大容量バッテリーと発電用のエンジンを併せ持つPHEV(プラグインハイブリッド車)である三菱アウトランダーPHEVが採用された。この車両の最大の利点は、基地局設備を稼働させるための電源を自ら供給できる点にある。車両に蓄えられた電力で基地局を動かし、電力が少なくなればエンジンを回して発電することで、長時間の連続運用が可能となる。これにより、大規模な停電が発生している被災地でも、外部電源に頼ることなく独立して通信サービスを提供できる。 さらに、この移動基地局車の革新性を際立たせているのが、スペースX社が提供する衛星インターネットサービス「スターリンク」の搭載である。前述の通り、基地局はスマートフォンと電波のやり取りをするだけでなく、その通信データをさらに先のインターネット網へ送る必要がある。この基地局から先のネットワークへの接続回線を「バックホール回線」と呼ぶ。通常、このバックホール回線には安定した高速通信が可能な光ファイバーが用いられるが、災害時にはこの光ファイバーケーブルが切断されてしまうリスクが常に存在する。バックホール回線が絶たれると、基地局が正常に稼働していてもスマートフォンとの通信はできても、その先のインターネットには繋がらなくなる。そこでスターリンクが重要な役割を果たす。スターリンクは、地上に張り巡らされた多数の小型衛星と通信することで、場所を問わず高速なインターネット接続を可能にするサービスだ。この移動基地局車は、スターリンクをバックホール回線として利用することで、地上の光ファイバー網が寸断された状況でも、衛星を経由してインターネットへの接続を確保できる。つまり、電源とバックホール回線の両方を車両単独で完結させることができ、災害に対して極めて強い通信インフラとなる。 加えて、SUVベースの小型車両であるため、従来の大型トラック型移動基地局では進入が困難だった道幅の狭い山間部や悪路でも現場に駆けつけることができる。そして、もう一つの大きな特徴が、ヘリコプターによる空輸が可能である点だ。地震による土砂崩れや洪水などで道路が寸断され、陸路でのアクセスが完全に遮断された孤立地域に対しても、空からこの移動基地局車を輸送し、迅速に通信環境を復旧させることが可能になる。これは、被災者の安否確認や救助活動、避難所の情報伝達など、人命に関わる通信をいち早く確保する上で非常に大きな意味を持つ。 この新しい移動基地局車は、PHEVによる自己完結型の電源、スターリンクによる衛星バックホール回線、そしてSUVとヘリ輸送による高い機動力という三つの要素を組み合わせることで、これまでの移動基地局の概念を大きく変えるものだ。楽天モバイルは、この車両を2026年3月末から順次配備する計画であり、日本のどこで災害が発生しても、より迅速かつ確実な通信支援が可能になる体制の構築を目指している。この取り組みは、通信インフラを支える技術が、いかにして社会の安全・安心に貢献していくかを示す好例と言えるだろう。