【ITニュース解説】Salesforceからのデータ窃取、Google、Cloudflare、Zscalerが被害 原因は連携していたサードパーティアプリの侵害
2025年09月03日に「@IT」が公開したITニュース「Salesforceからのデータ窃取、Google、Cloudflare、Zscalerが被害 原因は連携していたサードパーティアプリの侵害」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
Salesforceから大規模なデータ窃取が発生した。Google、Cloudflare、Zscalerなどの企業が被害に遭った。連携していたサードパーティアプリ「Saleloft Drift」が侵害されたのが原因。GoogleとMandiantが広く注意を呼びかけている。
ITニュース解説
Salesforceからのデータ窃取、Google、Cloudflare、Zscalerが被害というニュースは、システムエンジニアを目指す皆さんにとって、非常に重要な意味を持つ出来事だ。この事件の背景とそこから得られる教訓を詳しく解説しよう。
まず、「Salesforce(セールスフォース)」とは何か。これは、企業が顧客情報を管理し、営業活動やマーケティング、カスタマーサポートなどを効率的に行うためのクラウド型ソフトウェアサービスだ。顧客関係管理(CRM: Customer Relationship Management)の分野では世界的に有名で、非常に多くの大企業から中小企業まで、様々な業界の企業が利用している。企業はSalesforceを使うことで、顧客とのやり取りの履歴、契約内容、個人情報などの重要なデータを一元的に管理し、営業担当者やサポート担当者がいつでもどこからでもこれらの情報にアクセスできるようにしている。そのため、Salesforceには企業の生命線ともいえる機密性の高い情報が大量に蓄積されている。
今回のニュースで報じられたのは、このSalesforceインスタンス、つまりSalesforceの企業ごとの利用環境から、不正にデータが窃取されたという深刻な内容だ。データ窃取とは、攻撃者が企業のシステムに侵入し、許可なく情報を盗み出す行為を指す。盗まれるデータには、顧客の個人情報、企業の営業戦略、技術情報、従業員のデータなど、企業にとって価値の高いあらゆる情報が含まれる可能性がある。このような情報が外部に漏洩すれば、企業の信頼失墜、顧客からの損害賠償請求、競争力の低下、さらには法的制裁といった重大な被害につながる。
今回の事件で特に注目すべきは、被害に遭った企業の中にGoogle、Cloudflare、Zscalerといった、ITセキュリティやインターネットインフラを支える大手企業が含まれていたことだ。これらの企業は、自社のセキュリティ対策に多大な投資を行い、世界でもトップクラスのセキュリティ専門家を抱えていることで知られている。そんな企業ですら被害に遭ったという事実は、今回の攻撃がいかに巧妙で、広範囲に影響を及ぼす可能性があったかを示している。これは、どんなにセキュリティ意識の高い企業であっても、外部連携には常にリスクが伴うという厳しい現実を突きつけている。
では、なぜこのようなデータ窃取が可能になったのだろうか。原因は、Salesforceと連携していた「サードパーティアプリ」の侵害にあったとされている。サードパーティアプリとは、Salesforceのようなプラットフォーム上で動作するように、Salesforce本体とは別の企業(サードパーティ)が開発・提供する追加機能やサービスのことだ。例えば、Salesforceの顧客情報を使ってメールの一斉送信を行ったり、ウェブサイトの訪問者データをSalesforceに自動で連携させたりするアプリなどがこれにあたる。これらのアプリを連携させることで、Salesforceの機能が拡張され、業務効率が大幅に向上する。しかし、その利便性の裏には、セキュリティ上のリスクも潜んでいる。
今回侵害されたのは「Saleloft Drift」というサードパーティアプリだった。Saleloft Driftは、顧客とのエンゲージメントを強化するためのツールで、Salesforceの顧客データにアクセスして、パーソナライズされたメール送信やウェブチャットなどの機能を提供する。つまり、このアプリはSalesforce内の非常に多くの重要なデータに対して、閲覧や操作を行うための権限を持っていたのだ。攻撃者は、このSaleloft Drift自体を標的にし、そのシステムに侵入した。そして、Saleloft Driftが持っていたSalesforceへのアクセス権限を悪用して、Salesforce内の顧客データを窃取したと考えられている。
この攻撃のメカニズムは、「サプライチェーン攻撃」の一種と捉えることができる。サプライチェーン攻撃とは、直接ターゲットとする企業ではなく、その企業が利用しているサービスや製品、あるいは関連企業など、サプライチェーン(供給網)の中の脆弱な部分を攻撃し、そこを足がかりに最終的なターゲットを侵害する手法だ。今回のケースでは、Salesforceという基盤サービス自体が直接侵害されたわけではない。Salesforceという「本流」に接続していた「支流」であるSaleloft Driftが攻撃され、その支流を通じて本流のデータが吸い上げられた形になる。企業はSalesforce自体は安全だと認識していても、連携するサードパーティアプリのセキュリティまで十分に管理できていない場合があり、そこが攻撃者にとって狙い目となる。
システムエンジニアを目指す皆さんにとって、この事件から学ぶべきことは非常に多い。まず、クラウドサービスを利用する際には、提供元サービスのセキュリティだけでなく、そのサービスと連携する外部のアプリケーションやツールについても、常にセキュリティリスクを評価する重要性を理解することだ。どんなに優れたメインシステムも、連携先のセキュリティホールによって容易に突破される可能性がある。
次に、権限管理の重要性だ。サードパーティアプリに与える権限は、必要最小限にとどめるべきだ。今回のSaleloft Driftのように、広範なデータへのアクセス権限を与えてしまうと、そのアプリが侵害された際に被害が甚大になる。システム設計や運用においては、「最小権限の原則」を常に意識し、本当に必要な機能にのみアクセスを許可するような設計を心がける必要がある。
さらに、継続的なセキュリティ監視と脅威インテリジェンスの活用も不可欠だ。Googleの脅威インテリジェンスグループとMandiantが共同で注意喚起を行ったように、常に最新の脅威情報を収集し、自社のシステムや連携サービスに潜在する脆弱性がないかを確認し続ける必要がある。異常なアクセスパターンや予期せぬデータ転送がないかを監視する仕組みも重要だ。
今回のSalesforceからのデータ窃取事件は、クラウドサービスの利便性と引き換えに生じるセキュリティリスク、特にサードパーティ連携における潜在的な脅威を浮き彫りにした。将来システムエンジニアとして働く上で、このような複雑なIT環境におけるセキュリティの確保は、最も重要な課題の一つとなるだろう。技術的な知識だけでなく、リスク評価能力や継続的な学習意欲が求められることを、この事件は強く示唆している。