【ITニュース解説】The newest Samsung SmartThings hub ditches Z-Wave

2025年09月04日に「The Verge」が公開したITニュース「The newest Samsung SmartThings hub ditches Z-Wave」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

サムスンと共同開発された新型スマートホームハブが発表された。これは家電などを連携させる中継装置で、新モデルでは初めて無線通信規格の一つ「Z-Wave」への対応を廃止した。性能は従来の2倍に向上している。

ITニュース解説

近年、私たちの生活に急速に浸透しているスマートホームは、照明、エアコン、鍵、スピーカーといった家庭内の様々な機器をインターネットに接続し、スマートフォンや音声アシスタントで一元的に操作・自動化する技術である。この便利な環境を構築する上で中心的な役割を果たすのが「スマートホームハブ」と呼ばれる装置だ。スマートホームハブは、異なるメーカーや異なる通信方式を持つ機器同士の橋渡し役となり、システム全体の「司令塔」として機能する。このハブの動向は、スマートホーム市場の技術的な方向性を示す重要な指標となる。今回、Samsungのスマートホームプラットフォーム「SmartThings」に対応する第4世代の新しいハブ「Aeotec Smart Home Hub 2」が発表されたが、その仕様変更は、業界の大きな転換点を象徴する出来事といえる。

スマートホーム機器が互いに通信するためには、共通の「言語」が必要となる。この言語にあたるのが「通信規格」だ。私たちは日常的にWi-FiやBluetoothといった無線通信規格を利用しているが、スマートホームの世界では、これらに加えて、より省電力で多数の機器を安定して接続することに特化した規格が用いられてきた。その代表格が「Z-Wave」と「Zigbee」である。これらは「メッシュネットワーク」という特徴的な技術を採用している。メッシュネットワークとは、個々の機器が中継器のように振る舞い、互いに通信をバケツリレー式で伝達することで、ハブから遠い場所にある機器にも安定して信号を届けることができる仕組みだ。これにより、家全体をカバーする広範囲で信頼性の高いネットワークを構築できる。特にZ-Waveは、厳格な認証制度により、異なるメーカーの製品間でも高い互換性と品質が保証されているという強みから、長年にわたりスマートホーム市場で重要な地位を占めてきた。

今回のニュースの核心は、この新しいSmartThingsハブが、これまで歴代のモデルで標準的にサポートされてきたZ-Waveへの対応を打ち切った点にある。これは単なる機能削減ではなく、スマートホーム市場の勢力図が大きく変わろうとしていることの現れだ。では、なぜZ-Waveがサポート対象から外されたのか。その背景には、より強力でオープンな新しい標準規格の台頭がある。それが「Matter」と、その普及を支える通信規格「Thread」の存在だ。

Matterは、Amazon、Apple、Google、Samsungといった業界の巨大企業が協力して策定した、スマートホームのための新しい共通規格である。これはZ-WaveやZigbeeのような物理的な通信方式そのものではなく、それらの通信規格の上で動作するアプリケーション層のプロトコル、つまり機器間の「会話のルール」を統一するものだ。これまでユーザーは、「このスマート電球はApple HomeKitには対応しているが、Google Homeには対応していない」といったメーカー間の互換性の問題に悩まされてきた。Matterは、このメーカーの壁を取り払い、「Matter対応」という認証さえあれば、どのプラットフォームからでもシームレスに機器を操作できるようにすることを目指している。業界全体が足並みを揃えて推進していることから、Matterは今後のスマートホームにおける事実上の標準(デファクトスタンダード)になると見られている。

そして、このMatterを支える主要な無線通信技術の一つが「Thread」だ。ThreadもZ-WaveやZigbeeと同様に、低消費電力のメッシュネットワークを構築する技術だが、インターネットで標準的に使われているIP(インターネットプロトコル)をベースにしているという大きな特徴がある。これにより、追加のハブや変換装置なしで、機器が直接インターネットや他のIPネットワークと通信しやすくなるという利点がある。

新しいSmartThingsハブは、Z-Waveを廃止する一方で、Matter、Thread、そして従来のZigbeeとWi-Fiへの対応を継続・強化している。この選択は、Samsungが今後のスマートホーム戦略の軸足を、特定のベンダーが管理するZ-Waveから、業界全体で推進するオープンなMatterエコシステムへと完全に移行させるという明確な意思表示に他ならない。これは、スマートホーム市場が、かつての独自規格が乱立する時代から、相互運用性を最優先する新しい時代へと突入したことを示している。ユーザーにとっては、メーカーを気にせず自由にデバイスを選べるようになるというメリットがあり、開発者にとっては、単一の規格に対応すれば幅広いプラットフォームで製品を展開できるという利点がある。

この一連の動きは、システムエンジニアを目指す者にとっても重要な示唆を含んでいる。IT業界では、技術の栄枯盛衰が絶えず起こる。ある時点で主流だった技術が、よりオープンで汎用性の高い新しい標準の登場によって、その役目を終えることは珍しくない。特定の技術仕様を深く理解することはもちろん重要だが、それと同時に、業界全体の標準化の動向や技術エコシステムの大きな変化を常に捉え、新しい技術を学び続ける姿勢が不可欠となる。今回のニュースは、単なるスマートホーム製品の仕様変更ではなく、技術標準の移行という、ITインフラの進化における普遍的なパターンを学ぶための好例といえるだろう。