【ITニュース解説】3日で作ったサービスが、公開1日で1000人の阪大生に届いた話

2025年09月02日に「Qiita」が公開したITニュース「3日で作ったサービスが、公開1日で1000人の阪大生に届いた話」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

阪大生が「GPAの学内順位を知りたい」という自身の課題を解決するため、Webサービスを3日間で開発。このサービスは公開わずか1日で1000人の学生に利用された。身近なニーズに応える素早いプロダクト開発の成功事例である。(118文字)

ITニュース解説

この記事は、ある大学生が自身のニーズから着想を得て、わずか3日間で開発したWebサービスが、公開後1日で1000人以上のユーザーを獲得した事例を解説するものである。この成功事例は、システムエンジニアを目指す初心者にとって、アイデアを形にし、多くの人に使ってもらうための具体的な手法と重要な考え方を学ぶ絶好の教材となる。特に、必要最小限の機能で素早く製品を市場に出す「MVP(Minimum Viable Product)」という開発アプローチ、そして課題解決に最適な技術をいかに選択するかという戦略的な視点が、このプロジェクトの成功の鍵を握っている。大規模なチームや長期間の開発がなくとも、個人の力で価値あるサービスを生み出せることを示す好例だ。

開発されたサービス「GPAナビ」は、大阪大学の学生が抱える「自分のGPA(成績評価値)が、所属する学科や学年の中でどの程度の位置にあるのかを知りたい」という具体的な悩みを解決するために作られた。大学の成績評価は、単純な点数だけでなく、GPAという指標で示されることが多い。しかし、その数値が全体の中で高いのか低いのか、相対的な位置を把握することは難しい。このサービスは、ユーザーが自身のGPAと所属情報を入力するだけで、そのGPAが所属集団の中でどのくらいの位置にいるかを示す偏差値と順位(上位何%か)を即座に表示する。機能は非常にシンプルだが、ターゲットである学生の知りたいという欲求に的確に応えるものとなっている。

このサービスが3日間という短期間で開発できた最大の理由は、その技術的な構成にある。一般的なWebサービス開発では、ユーザーからのリクエストを処理するサーバー側のプログラム(バックエンド)と、ユーザー情報や各種データを永続的に保存するデータベースの構築が必要となる。しかし、「GPAナビ」ではこれらを一切使用しない「サーバーレス」かつ「クライアントサイド完結」というアーキテクチャを採用した。具体的には、まずGPAの統計データは、事前にGoogleフォームで収集し、Pythonのデータ分析ライブラリであるPandasを使って集計・整形された。この処理済みのデータは、静的なデータファイル(JSON形式)として用意される。Webサイトの見た目や動きを担うフロントエンドは、ReactベースのフレームワークであるNext.jsで構築された。ユーザーがWebサイトにアクセスすると、この事前に用意されたJSONファイルがブラウザに読み込まれ、ユーザーが自分のGPAを入力すると、偏差値や順位の計算はすべてユーザーのPCやスマートフォンのブラウザ上(クライアントサイド)で実行される仕組みである。これにより、サーバー側での複雑な処理やデータベースとの通信が不要となり、開発工数を劇的に削減できた。開発したアプリケーションの公開にはVercelというプラットフォームが利用されており、Next.jsとの親和性が高いため、簡単な手順で迅速にサービスを公開できる。この構成は、個人情報をサーバーに送信しないため、セキュリティリスクを低減できる利点も持つ。

技術的な工夫に加え、いくつかの戦略的な判断がサービスの成功を後押しした。一つ目は、前述のMVP(Minimum Viable Product)という開発思想の実践である。開発者は、多くの機能を盛り込むのではなく、「GPAの相対的な位置を知る」というユーザーの最も重要な課題を解決する一点に機能を絞り込んだ。これにより、開発の方向性が明確になり、短期間でのリリースが可能となった。完璧なものを目指すのではなく、まずは最小限の価値を提供するというアプローチの有効性を示している。二つ目は、ターゲットユーザーの明確化である。「大阪大学の学生」という非常に限定されたコミュニティに焦点を当てたことで、彼らが持つ特有のニーズを深く理解し、的確なソリューションを提供できた。ターゲットが明確であれば、必要な機能の判断が容易になる。三つ目は、効果的なプロモーション戦略である。サービス公開後、開発者はターゲットである阪大生が多く利用するTwitter(現X)を活用して告知を行った。友人や関連コミュニティを通じて情報を拡散させることで、口コミが生まれ、短時間で爆発的にユーザー数を伸ばすことに成功した。優れたサービスを開発するだけでなく、それをいかにしてユーザーに知らせるかという視点も、サービス開発において重要である。

この「GPAナビ」の事例は、システムエンジニアを目指す者にとって多くの示唆を与えてくれる。まず、身の回りの課題に目を向け、それを解決する小さなアイデアから始めてみることの重要性を示している。そして、そのアイデアを形にする際には、必ずしも大規模で複雑なシステムを構築する必要はない。課題の性質を見極め、サーバーレスアーキテクチャやクライアントサイドでの処理といったシンプルな技術の組み合わせを賢く選択することで、迅速かつ低コストでサービスを開発できる。また、完璧を目指して開発期間を長引かせるのではなく、MVPの考え方に基づき、まずはコアとなる価値を素早くユーザーに届けることが成功への近道となる。最後に、技術力だけでなく、誰のどのような課題を解決するのかを常に意識し、完成したサービスをターゲットユーザーに届けるためのマーケティング戦略まで含めて考えることが、個人開発を成功させる上で不可欠な要素であることをこの事例は教えている。