【ITニュース解説】Shadow AI Discovery: A Critical Part of Enterprise AI Governance
ITニュース概要
多くの従業員が会社に無許可でAIツールを使う「シャドーAI」が問題化している。個人アカウントからの利用も多く、機密情報漏洩のリスクが高まるため、企業は利用実態を把握し、セキュリティを管理するAIガバナンスの確立が急務だ。
ITニュース解説
近年、ChatGPTに代表される生成AIの技術は目覚ましい発展を遂げ、多くのビジネスパーソンが業務の効率化やアイデア創出のために活用している。しかし、この便利なテクノロジーの急速な普及の裏側で、企業にとっては看過できない新たなセキュリティ上の課題が浮上している。それが「シャドーAI」と呼ばれる問題である。 シャドーAIとは、企業が公式に導入を許可したり、管理したりしていないAIツールやサービスを、従業員が個人の判断で業務に利用している状況を指す。これは、以前から問題視されてきた、会社非承認のクラウドサービスやソフトウェアを従業員が勝手に利用する「シャドーIT」のAI版と考えることができる。具体的には、従業員が会社のPCやスマートフォンを使い、業務で扱う文書やデータを、会社が契約していない外部のAIサービスにアップロードして要約させたり、プログラムコードの生成を依頼したりする行為がこれにあたる。 なぜ、このようなシャドーAIが蔓延するのだろうか。その背景には、企業の公式なAI導入と、従業員の実際のAI利用実態との間に存在する大きなギャップがある。米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の調査によると、企業が公式にChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)の利用契約を結んでいる割合は40%に過ぎないのに対し、実に90%以上の従業員が日常業務の中で何らかのAIツールを積極的に使用しているという。この数字は、多くの企業において、会社が提供するツールだけでは従業員のニーズを満たせておらず、彼らが業務効率化を求めて自ら便利なツールを探し出し、利用している実態を物語っている。従業員の多くは、業務をより良く進めたいという善意からシャドーAIを利用しているが、その行為が企業全体を深刻なリスクに晒す可能性がある。 シャドーAIがもたらす最大のリスクは、企業の機密情報や顧客の個人情報が漏洩する危険性である。従業員が会社の管理外にあるAIサービスに業務データを入力した場合、そのデータがサービス提供者によってAIモデルの学習データとして利用されたり、セキュリティの脆弱なサーバーから外部へ流出したりする恐れがある。あるセキュリティ企業の調査では、機密情報を含むAIとの対話のうち、45.4%もの割合が個人のメールアカウントを介して行われていることが判明した。これは、従業員が会社のセキュリティポリシーを意図的に迂回し、管理されていない危険な方法でAIを利用している実態を浮き彫りにしている。 さらに、こうした情報の外部流出は、企業の法令遵守、すなわちコンプライアンス上の重大な問題にも発展する。特に、EUのGDPR(一般データ保護規則)や日本の個人情報保護法といった厳格なデータ保護規制がある中で、企業が把握していないAIサービスに個人データが意図せず転送されれば、法規制への違反とみなされ、巨額の罰金や社会的な信用の失墜といった深刻な事態を招きかねない。その他にも、各従業員がバラバラに有料ツールを契約することによるコストの増大や、品質の保証されないAIの出力結果を信じてしまい業務上のミスを誘発するなど、経営上のリスクも無視できない。 この深刻な問題に対処するためには、企業は場当たり的な対応ではなく、組織として体系的な「AIガバナンス」、つまりAIを適切に管理・統制するための体制を構築することが急務となる。その第一歩は、自社ネットワーク内でどのようなAIツールが、誰によって、どのように利用されているのかという実態を正確に把握することである。ネットワークの通信を監視するツールなどを活用し、シャドーAIの存在を「発見(Discovery)」することが全ての対策の出発点となる。 次に、その実態に基づいて、AIの利用に関する明確な社内ルール(ポリシー)を策定し、全従業員に周知徹底する必要がある。どのAIツールの利用を許可し、どのような情報の入力を禁止するのかを具体的に定めることが重要だ。ただし、単に禁止するだけでは、従業員の利便性を損ない、シャドーAIがさらに巧妙化するだけである。そこで、企業としてセキュリティが担保された安全なAIツールを公式に選定・導入し、従業員が安心して利用できる環境を提供することが極めて効果的だ。これにより、従業員の生産性向上というAI活用のメリットを享受しつつ、セキュリティリスクを管理下に置くことができる。同時に、AIの仕組みや潜在的なリスク、そして会社のポリシーを守ることの重要性について、継続的な従業員教育を実施し、組織全体のセキュリティ意識を高めていくことも不可欠である。 シャドーAIの問題は、単なる従業員の個人的なルール違反ではなく、企業が新しいテクノロジーとどう向き合うかという、経営とIT戦略に関わる根源的な課題である。システムエンジニアを目指す者にとっては、技術の利便性や機能だけでなく、その裏に潜むセキュリティリスクを深く理解し、技術的な対策と組織的なルールの両面から、利用者が安全にテクノロジーの恩恵を受けられる環境を設計・構築する能力が、今後ますます重要になってくるだろう。AIガバナンスの実現は、これからのITインフラを支えるエンジニアに求められる重要な責務の一つとなるのである。