【ITニュース解説】I ditched Spotify and set up my own music stack
2025年09月05日に「Hacker News」が公開したITニュース「I ditched Spotify and set up my own music stack」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
Spotifyから脱却し、オープンソースの音楽サーバー「Navidrome」で自前の音楽ストリーミング環境を構築。YouTube Musicから楽曲を取得し、PCやスマホの専用クライアントからアクセスする構成を紹介。プライバシーを保護し、自由に音楽を管理できる。(119文字)
ITニュース解説
このニュース記事は、筆者が一般的な音楽ストリーミングサービスであるSpotifyの利用をやめ、自らの手で音楽を管理し再生できるシステムを構築した経験について解説している。システムエンジニアを目指す初心者にとって、既存のサービスに依存せず、自分でシステムを作り上げることでどのような知識やスキルが得られるのかを示す、実践的で非常に興味深い事例だ。
まず、なぜ筆者はSpotifyを「卒業」し、独自のシステムを構築しようと考えたのか。その根底には、自分の音楽ライブラリに対する「コントロール権」を完全に手に入れたいという強い思いがあった。Spotifyのような便利なサービスであっても、提供される機能やライブラリに制限があったり、プライバシーに対する懸念があったりする。また、特定の楽曲が予告なく削除されたり、自分が望まないおすすめばかりが表示されたりすることへの不満も動機となっている。自分の大切な音楽は、自分自身で完全に管理し、誰にも制約されずに楽しみたいという願いが、このプロジェクトの出発点となっているのだ。
筆者が作り上げたシステムは「自分の音楽スタック」と呼ばれている。これは、音楽ファイルを保存・管理するサーバー機能と、その音楽を様々なデバイスで再生するためのクライアント(アプリケーションやウェブインターフェース)機能を組み合わせた一連のシステム全体を指す。具体的には、自宅に設置されたNAS(Network Attached Storage)という、ネットワーク経由でデータにアクセスできるストレージデバイス上に、いくつかのソフトウェアを組み合わせて構築されている。
この「音楽スタック」の中核をなすサーバーソフトウェアが「Navidrome」だ。Navidromeは、NASに保存されている大量の音楽ファイルを整理し、分類し、ウェブブラウザや専用のクライアントアプリを通じてユーザーに提供する役割を果たす。まるで図書館の司書が本を整理するように、Navidromeは音楽ファイルをアーティスト、アルバム、ジャンルといったカテゴリごとに整理し、ユーザーが簡単に検索したり、プレイリストを作成したりできる機能を提供する。これにより、ユーザーは自分の巨大な音楽ライブラリを非常に効率的に管理・操作できるようになる。
Navidromeを含むいくつかのソフトウェアは、「Docker」という技術を用いてNAS上に導入されている。Dockerは、アプリケーションとその動作に必要な全ての要素(プログラム本体、ライブラリ、設定ファイルなど)を一つにまとめて「コンテナ」と呼ばれる独立したパッケージとして実行する技術だ。これにより、異なるアプリケーションが互いに干渉することなく、安定して動作する。また、新しいソフトウェアを導入したり、ソフトウェアのバージョンを管理したりするプロセスが格段に簡素化されるため、システムエンジニアが開発や運用を行う上で非常に重宝されるツールだ。システムエンジニアを目指す初心者は、Dockerを学ぶことで、アプリケーションのデプロイ(配置・展開)や管理の基本的な概念と実践的なスキルを習得できる。
音楽ファイルをNASに保存する際、ただファイルを置くだけでは十分ではない。楽曲名、アーティスト名、アルバム名、リリース年などの「メタデータ」と呼ばれる情報が正確に付与されていることが極めて重要だ。このメタデータがきちんと整備されていれば、Navidromeは音楽ファイルを正確に分類し、ユーザーも目的の曲を簡単に見つけられるようになる。筆者はこのメタデータ管理のために「MusicBrainz Picard」というソフトウェアを利用している。これは、音楽ファイルの音響フィンガープリント(音の指紋)を解析し、オンラインの巨大な音楽データベースであるMusicBrainzと照合することで、不足しているメタデータを自動的に補完したり、誤った情報を修正したりするツールだ。正確なデータ管理は、どのようなシステムにおいても基盤となる要素であり、この経験はデータベース設計やデータクレンジングといった、システムエンジニアリングの重要な分野に通じる知見となる。
構築されたNavidromeサーバーに対し、音楽を再生するためのクライアントアプリも複数導入されている。Androidユーザー向けの「Symfonium」、iOSユーザー向けの「Substreamer」、そしてウェブブラウザからアクセスできる「Offbrand」などが紹介されている。これらのクライアントアプリは、Navidromeが提供するAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を通じてサーバーと通信し、ユーザーが選択した音楽ファイルをストリーミング再生する。これにより、スマートフォン、タブレット、PCなど様々なデバイスから、自宅のNASに保存された自分の音楽ライブラリに、いつでもどこからでもアクセスできる自分だけの「プライベートSpotify」のような環境が実現されるわけだ。
このプロジェクト全体を通じて、筆者は数多くの技術的な課題に直面し、それらを解決してきたことが読み取れる。例えば、既存のSpotifyのプレイリストを新しいシステムに移行する方法を検討したり、大量の音楽ファイルのメタデータを整理する骨の折れる作業を行ったり、Docker環境でNavidromeを安定稼働させるための設定を試行錯誤したりといった作業だ。これらはまさにシステムエンジニアが日々の業務で行う計画立案、実装、テスト、運用、そして問題解決に至るまでの一連のプロセスそのものであり、実体験を通じて貴重なスキルを身につけられる機会となる。
このニュース記事は、単にSpotifyの代替システムを構築したという話に留まらず、既存のクラウドサービスに依存せず、自分自身でシステムを構築・運用する「セルフホスティング」という考え方を初心者にも分かりやすく示している。セルフホスティングは、最初のセットアップに手間や学習コストがかかるものの、その分、システムを自由にカスタマイズでき、プライバシーが保護され、最終的には個人の技術力を大きく向上させる。システムエンジニアを目指す者にとって、このような具体的なプロジェクトに取り組むことは、座学だけでは得られない実践的なスキルと深い技術的理解をもたらすだろう。
結論として、筆者のこの経験は、既存のサービスに疑問を持ち、自らの手でより良い解決策を構築しようとすることの重要性を教えてくれる。それは、単なる音楽再生システムにとどまらず、システムの設計、構築、運用、そして問題解決といった、システムエンジニアにとって不可欠なスキルセットを総合的に学ぶための素晴らしい実践例と言える。