【ITニュース解説】「選択肢の提供が最も重要」――SUSE アジア市場ソリューションアーキテクチャ担当バイスプレジデント兼部門統括責任者 Peter Lees氏が語る同社の役割

企業のITシステムを支える基盤技術の世界では、特定の企業の製品に縛られない「選択の自由」がますます重要視されている。ドイツを拠点とするオープンソースソフトウェア企業SUSEは、この「選択肢の提供」を企業理念の中心に据え、独自の戦略を展開している。システムエンジニアを目指す上で、彼らのアプローチを理解することは、現代のITインフラが直面する課題と、その解決策を知る上で非常に有益である。

まず理解すべきは、SUSEが長年にわたり提供してきたLinuxディストリビューションの存在だ。Linuxは、サーバーで使われるオペレーティングシステム（OS）の主流であり、その中には様々な種類、すなわちディストリビューションが存在する。企業向け市場では、Red Hat社が提供する「Red Hat Enterprise Linux（RHEL）」が大きなシェアを占めてきた。そして、多くの企業はRHELと互換性がありながら無償で利用できる「CentOS」をシステムの基盤として採用してきた。しかし、この状況はCentOSの開発方針が変更されたことで一変する。従来の安定版としてのCentOSは提供が終了し、開発版に近い位置づけの「CentOS Stream」へと移行した。これにより、これまでCentOSの安定性を信頼してシステムを構築・運用してきた多くの企業やエンジニアは、OSの乗り換えや新たな運用方針の策定という大きな課題に直面することになった。これは、特定のOSに依存していたことのリスクが現実化した事例と言える。

この市場の混乱に対し、SUSEが打ち出したのが「Liberty Linux」という画期的なソリューションである。これは、ユーザーが現在使用しているRHELやCentOSのシステムをそのまま維持しながら、SUSEが必要なセキュリティパッチや技術サポートを提供するというものだ。通常、OSを変更するには大規模な移行作業とコストが必要となるが、Liberty Linuxはユーザーに「今すぐ乗り換える」以外の選択肢を与えた。既存の環境を活かしつつ、将来的な移行計画をじっくりと立てる時間的猶予を生み出したのである。このアプローチは、ユーザーを自社製品に囲い込むのではなく、まずユーザーの抱える問題を解決し、選択の自由を尊重するというSUSEの姿勢を明確に示している。

SUSEの戦略はOSの領域にとどまらない。現代のアプリケーション開発・運用の中心となっているコンテナ技術、特にその管理ツールとして標準的な地位を確立した「Kubernetes」の分野においても、同様の哲学が貫かれている。コンテナ技術は、アプリケーションをどこでも同じように動かせる便利な仕組みだが、その管理は複雑化しやすい。特に、Amazon Web Services（AWS）やMicrosoft Azureといった異なるクラウドサービス上で複数のKubernetes環境（クラスタ）を運用する場合、管理が煩雑になり、特定のクラウドベンダーのサービスに依存してしまう「ベンダーロックイン」の状態に陥りやすい。

この課題を解決するため、SUSEはコンテナ管理プラットフォーム「Rancher」を買収した。Rancherの最大の特長は、あらゆるベンダーが提供するKubernetesクラスタを、オンプレミス環境かクラウド環境かを問わず、一元的に管理できる点にある。これにより、企業は特定のクラウドプラットフォームに縛られることなく、自社の要件に合わせて最適な環境を自由に組み合わせることが可能になる。さらに、コンテナ環境のセキュリティを確保する「NeuVector」も買収し、オープンソースのセキュリティ基盤を強化した。OSからコンテナ管理、セキュリティに至るまで、ITインフラのあらゆる層でオープンな技術を基盤とした選択肢を提供し、ユーザーをベンダーロックインから解放すること。これがSUSEの目指す姿である。

結論として、SUSEが最も重要視しているのは、顧客が自らのビジネスや技術戦略に基づいて最適なツールを自由に選択できる環境を提供することだ。特定の製品への依存を強いるのではなく、オープンソースの力を活用して互換性や相互運用性を確保し、ユーザーの選択肢を広げる。この「Choice is king（選択肢こそが王様）」という哲学は、急速に変化し続けるIT業界において、企業が柔軟性と競争力を維持するための鍵となる。システムエンジニアは、単一の技術を深く追求するだけでなく、このように技術選定の自由度を高め、システム全体の柔軟性を担保するという視点を持つことが今後ますます求められるだろう。