【ITニュース解説】なぜテレワークでは「普通のVPN」より「モバイルVPN」が役立つのか?
ITニュース概要
テレワークで安全に業務を行うにはVPNが役立つ。その中でもモバイルVPNは、外出先などでネットワークが切り替わっても接続を維持できるため、通常のVPNよりも途切れずに安定して使える特徴がある。
ITニュース解説
企業が事業を継続していく上で、情報セキュリティは非常に重要な要素である。特に、従業員がオフィス以外の場所、例えば自宅や外出先から社内システムにアクセスして業務を行うテレワークやリモートワークが普及した現在では、その重要性はさらに高まっている。この安全な通信を実現するための技術の一つがVPN(Virtual Private Network)だ。VPNは、インターネットのような不特定多数が利用する公共のネットワーク上に、仮想的な専用回線を構築する技術を指す。これにより、あたかも社内のLANに直接接続しているかのように、安全に情報をやり取りできるようになる。 VPNの基本的な仕組みは、通信データを暗号化することにある。データを暗号化することで、もし第三者が通信内容を傍受したとしても、その内容を読み取れないようにする。さらに、トンネリングと呼ばれる技術も使われる。これは、インターネット上に「トンネル」のような安全な仮想経路を作り、その中をデータが通ることで、外部からの不正なアクセスや改ざんからデータを保護する仕組みだ。これにより、テレワークなどで自宅や外出先から社内ネットワークへアクセスする際も、オフィスにいるのと同等のセキュリティを確保し、企業の機密情報や個人情報を安全に扱うことが可能になる。 従来のVPNの多くは、IPsec(Internet Protocol Security)というプロトコル(通信手順)を基盤としている。このIPsec VPNは、通信の開始時に一度安全な接続を確立すると、その接続が維持されている間はデータを保護し続ける。オフィス内や、自宅の安定したインターネット回線など、ネットワーク接続が安定している環境で利用する場合には非常に効果的な技術だ。しかし、テレワークや外出先での業務が一般的になるにつれて、IPsec VPNが抱える課題も明らかになってきた。 テレワーク環境では、ネットワーク接続が常に安定しているとは限らない。例えば、自宅のWi-Fi接続が一時的に途切れたり、移動中にスマートフォンのモバイルデータ通信に切り替えたり、あるいはカフェのWi-Fiと自宅のWi-Fiの間を行き来したりすることが頻繁に発生する。このような状況でIPsec VPNを利用していると、ネットワークの切り替わりや一時的な切断が発生した際に、VPN接続そのものが途切れてしまう問題が生じる。VPN接続が途切れると、社内システムへのアクセスはもちろん、その時点で進行中の業務も中断されてしまう。再度VPNに接続し直す手間が発生し、そのたびに作業効率が低下したり、ユーザーがストレスを感じたりすることは少なくない。特に、オンライン会議中に接続が切れたり、重要なファイルをダウンロード中に中断されたりすると、業務に大きな支障をきたす可能性もある。 そこで注目されているのが、「モバイルVPN」という新しいタイプのVPN技術である。モバイルVPNは、その名の通り、移動中やネットワーク環境が不安定な場所での利用に特化して設計されている。従来のIPsec VPNとは異なるプロトコル、例えばSSL/TLS(Secure Sockets Layer/Transport Layer Security)をベースにしたものなどが用いられることが多い。モバイルVPNの最も大きな特徴は、ネットワークの接続元が変わったり、一時的に接続が切断されたりしても、VPNセッション(通信の継続状態)を維持できる点にある。つまり、自宅のWi-Fiからスマートフォンのテザリングへ切り替えても、一時的に電波状況が悪化して接続が途切れても、モバイルVPNは自動的に再接続を試み、可能な限りVPN接続を維持し続けようとするのだ。これは「Always On(常時接続)」と呼ばれる概念に近く、ユーザーはVPN接続が途切れることをほとんど意識せずに、スムーズに業務を継続できる。 モバイルVPNがテレワークや外出先での業務で役立つ理由は多岐にわたる。まず、生産性の向上に大きく貢献する。ネットワークの不安定さに起因するVPNの切断が大幅に減ることで、作業の中断が最小限に抑えられ、従業員は集中して業務に取り組めるようになる。これは、移動が多い営業職の従業員や、様々な場所で作業を行うシステムエンジニアにとって、特に大きなメリットとなる。次に、セキュリティの強化にもつながる。モバイルVPNは可能な限り接続を維持しようとするため、従業員が意図せずVPN接続が切断された状態でインターネットに直接アクセスしてしまうリスクを低減できる。これにより、暗号化されていない状態で機密情報をやり取りしてしまったり、安全ではない公共のネットワークに直接接続してしまったりする危険を避けられる。常にVPNを介した安全な経路で通信が行われるため、情報漏洩のリスクを大幅に減らせるのだ。 さらに、モバイルVPNはアプリケーションの安定稼働にも寄与する。途切れないVPN接続は、リアルタイム性が高いアプリケーション、例えばVoIP(音声通話)やビデオ会議システム、クラウドベースの業務アプリケーションなどが安定して動作するために不可欠である。接続が頻繁に途切れる環境では、これらのアプリケーションのパフォーマンスが著しく低下し、業務に支障をきたすことが多いが、モバイルVPNを導入することで、そうした問題を解決できる可能性が高まる。 現代の働き方としてテレワークやリモートワークが完全に定着する中で、従業員がどこからでも安全かつ快適に業務を遂行できる環境を提供することは、企業にとって重要な課題となっている。モバイルVPNは、この課題を解決するための強力なソリューションの一つだ。従来のVPNが持つセキュリティ上のメリットを維持しつつ、ネットワーク環境の変動に強いという新たな価値を提供する。これにより、企業は従業員の生産性を向上させると同時に、情報セキュリティリスクを低減できる。システムエンジニアを目指す人にとって、このような最新のネットワーク技術とその活用方法は、今後のキャリアにおいて非常に重要な知識となるだろう。安全で効率的なリモートワーク環境の構築は、今後のITインフラ設計において欠かせない要素となるため、モバイルVPNのような技術の理解は必須である。