【ITニュース解説】厳しいネット検閲を行うトルクメニスタン当局は高額なVPNサービスを国民に販売しており検閲を「利益を生む恐喝」に変えている

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ITニュース概要

トルクメニスタンは国民のインターネット利用を厳しく検閲で制限している。しかし、当局自らがその検閲を回避できる高額なVPNサービスを国民に販売。ネット検閲を「利益を生む恐喝」というビジネスモデルに変えている。

ITニュース解説

トルクメニスタンは、中央アジアに位置する国で、「中央アジアの北朝鮮」と称されるほど厳しい独裁体制が敷かれている。この国では、国民のインターネット利用が極めて厳しく制限されており、政府による徹底した監視と検閲が行われている。これは、一般的なインターネットの自由な利用とはかけ離れた状況であり、特定の情報へのアクセスが完全に遮断されたり、政府が承認した情報のみが閲覧可能であったりするなど、国民がインターネットを通じて得られる情報が極めて限定されているのが実情だ。 インターネット検閲とは、政府や特定の組織が、国民がアクセスできる情報やウェブサイトを意図的に制限したり、監視したりする行為を指す。トルクメニスタンでは、国内外のニュースサイト、SNS、ブログ、特定の情報交換サイトなどが政府の政策に反すると見なされ、アクセスがブロックされることが多い。これは、ファイアウォールと呼ばれるセキュリティ技術や、特定のIPアドレスやドメイン名を遮断する技術を使って実現される。通信会社は政府の厳格な管理下に置かれているため、これらの制限を技術的に実施することが可能となっている。その結果、国民は政府が都合の悪いと判断した情報に触れることができなくなり、国際社会の動向や政府の施策に対する批判的な意見に接する機会も失われる。 このような厳しいインターネット環境の中で、トルクメニスタン当局は驚くべきことに、その検閲を回避するための手段であるVPNサービスを、国民に対して高額で販売していることが明らかになった。VPNとは「Virtual Private Network(仮想プライベートネットワーク)」の略称で、インターネット上に仮想的な専用回線を構築する技術だ。通常、インターネット通信は利用者のPCやスマートフォンから直接目的のウェブサイトやサービスへとデータが送られるが、VPNを利用すると、一度VPNサーバーを経由してデータが送られる。この際、データは強力に暗号化されるため、第三者からはどのような情報がやり取りされているか判別しにくくなる。さらに、利用者のIPアドレス(インターネット上の住所のようなもの)がVPNサーバーのIPアドレスに置き換えられるため、利用者の実際の所在地や通信内容を特定することが難しくなる。これにより、検閲によってブロックされたウェブサイトやサービスにも、VPNサーバーがそのブロックの影響を受けない場所(例えば、海外のサーバー)にあればアクセスできるようになるのだ。 トルクメニスタン政府は、国民のインターネット利用を厳しく制限する一方で、この制限された環境下で「自由な」インターネットアクセスを望む国民に対し、自分たちが管理する高額なVPNサービスを販売している。これは、政府が自ら作り出した情報アクセスへの障壁を、高額な料金と引き換えに解除するという、まさに「利益を生む恐喝」とも呼べるビジネスモデルを構築していることを意味する。国民は、政府が許可する範囲でのみインターネットを利用するか、高額な費用を払って政府が提供するVPNを利用して、わずかながら自由なアクセスを得るかという、選択肢のない状況に置かれている。この構図は、政府が情報統制によって国民の行動を制限し、その制限から逃れるための「解決策」を自ら提供することで、経済的な利益を得ているという点で、非常に異例かつ深刻な問題だ。 この状況は、匿名通信システム「Tor(The Onion Router)」プロジェクトの公式ブログで指摘された。Torは、利用者の匿名性を高め、追跡が困難な形でインターネット通信を可能にする技術であり、政府による検閲や監視を回避する手段として世界中で利用されている。Torプロジェクトのような組織がトルクメニスタンの現状を公にすることで、国際社会にこの問題を提起し、情報の自由が制限されている人々への支援を促す狙いがある。システムエンジニアを目指す人々にとって、このような事例は、技術が単に効率や利便性を追求するだけでなく、社会の自由や人権といった普遍的な価値と深く結びついていることを示している。インターネットの技術的な側面を理解することはもちろん重要だが、それが社会にどのような影響を与えるのか、倫理的な側面や政治的な背景にも目を向ける必要があることを、トルクメニスタンの事例は明確に示している。インターネットの自由なアクセスは、現代社会において不可欠な権利の一つであり、その権利がどのようにして侵害され、また、どのようにしてその侵害から人々を守るための技術が開発されているのかを理解することは、将来のシステムエンジニアにとって重要な視点となるだろう。

【ITニュース解説】厳しいネット検閲を行うトルクメニスタン当局は高額なVPNサービスを国民に販売しており検閲を「利益を生む恐喝」に変えている