【ITニュース解説】第843回 UbuntuでNVMe over TCPを試す
2024年12月18日に「Gihyo.jp」が公開したITニュース「第843回 UbuntuでNVMe over TCPを試す」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
NVMe over TCP (NVMe/TCP) の技術で、ストレージを持たない仮想マシンを構築し、Ubuntu Server 24.10を起動する方法を解説する。外部にあるストレージからOSを読み込み、ブートさせる実証デモを紹介する。
ITニュース解説
今回のニュース記事は、最新のストレージ技術である「NVMe over TCP」を使い、仮想マシンが内部にストレージを持たずに起動する「ストレージレスブート」という画期的な方法をUbuntu環境で試すという内容だ。システムエンジニアを目指す上で、このような新しい技術がどのように動作し、どのようなメリットをもたらすのかを理解することは非常に重要である。
まず、「NVMe」という言葉から説明しよう。NVMeとは「Non-Volatile Memory Express」の略で、SSD(Solid State Drive)のような高速なストレージをコンピューターに接続するための新しいインターフェース規格のことだ。従来のHDD(Hard Disk Drive)やSATA接続のSSDに比べて、データ転送速度が圧倒的に速く、コンピューターがデータを読み書きする際のボトルネックを大幅に解消する。このNVMeのおかげで、アプリケーションの起動やデータの処理が格段に速くなった。
次に、このNVMeに「over TCP」が付くことで何が変わるのかを理解しよう。「TCP」は「Transmission Control Protocol」の略で、インターネットで使われている最も基本的な通信プロトコルの一つだ。つまり、「NVMe over TCP」とは、NVMeの高速なデータ転送能力を、一般的なネットワークであるTCP/IPネットワーク経由で利用する技術を指す。通常、NVMeドライブはコンピューターの内部に直接接続されるものだが、この技術を使うと、遠く離れた別のサーバーにあるNVMeドライブを、まるで自分のコンピューターに直接接続されているかのように扱うことができるようになる。これにより、ストレージリソースをネットワーク越しに共有し、集中管理することが可能になるのだ。
記事の中心テーマである「ストレージレスブート」とは、その名の通り、仮想マシンが自分自身の起動ディスク(OSがインストールされているストレージ)を持たない状態で起動することを意味する。通常、仮想マシンを動かすには、その仮想マシン専用のストレージ領域が必要だ。そこにOSがインストールされ、プログラムやデータが保存される。しかし、NVMe over TCPを使えば、仮想マシンは起動時にネットワーク越しに別のサーバーからOSのイメージを読み込み、それを使って起動できる。つまり、仮想マシンは物理的なストレージデバイスを内部に持たず、ネットワークから提供されるストレージを「利用」する形になるわけだ。
なぜこのようなストレージレスブートが注目されるのか。そのメリットは多岐にわたる。まず、仮想マシンの展開が非常に簡単になる。新しい仮想マシンを作る際に、個別にストレージを割り当てる必要がなく、共通のOSイメージをネットワーク経由で供給できるため、構築作業が大幅に簡素化される。次に、リソースの柔軟性が向上する。ストレージが物理的に分離されているため、必要に応じて異なる仮想マシン間でストレージリソースを動的に割り当てたり、容量を変更したりすることが容易になる。また、ストレージの集中管理が可能になるため、バックアップやセキュリティ対策も一元的に行いやすくなる。さらに、障害発生時の復旧も迅速になる可能性がある。特定の仮想マシンが故障しても、新しい仮想マシンに同じOSイメージをネットワーク経由で供給し直すことで、すぐにサービスを再開できるかもしれない。これは、大規模なデータセンターやクラウド環境において、運用コストの削減と効率化に大きく貢献する技術だと言える。
記事で言及されている「Proof of Concept(PoC)」とは、「概念実証」という意味で、ある技術やアイデアが実現可能かどうか、実際に動くかどうかを小規模なデモンストレーションで検証することだ。今回の記事は、NVMe over TCPとストレージレスブートという概念が、実際にUbuntu環境で動作することを示すPoCの具体的な手順を解説している。
具体的な構築の流れを簡単に見てみよう。 まず、「ターゲット」となるサーバーを用意する。このターゲットサーバーは、NVMeドライブを搭載しており、ネットワーク経由でそのストレージを提供する役割を果たす。つまり、ストレージの提供元となるサーバーだ。このサーバーにNVMe over TCPのターゲットソフトウェアを設定し、提供したいストレージ領域を定義する。 次に、「イニシエータ」となる仮想マシンを用意する。この仮想マシンは、ストレージレスで起動するため、内部にストレージを持たない。起動時には、ネットワークインターフェースを通じて、先ほどのターゲットサーバーに接続し、そこからOSのイメージを読み込むことになる。 記事では、Ubuntu Server 24.10を例に、この仮想マシンがネットワークブート(PXEブートなど)の機能を利用して、ターゲットサーバーからOSをロードし、実際に起動するまでの手順を解説している。仮想マシンは、起動時にネットワーク経由でターゲットサーバーのNVMeストレージを認識し、そこにOSがインストールされているかのように振る舞うのだ。これにより、物理ストレージを持たない仮想マシンが、まるで内蔵ストレージから起動しているかのようにOSを起動できる。
この技術は、今後のITインフラの設計において非常に重要な要素となるだろう。特に、クラウドコンピューティングやコンテナ技術の普及に伴い、ストレージリソースの柔軟な管理と高速なアクセスが求められる中で、NVMe over TCPは強力なソリューションを提供する。開発環境の迅速なプロビジョニング、VDI(Virtual Desktop Infrastructure)環境での利用、エッジコンピューティングにおけるリソースの最適化など、様々な応用が考えられる。システムエンジニアとして、このような新しいストレージ技術がインフラにどのような変革をもたらすのか、その基礎を理解しておくことは、将来のキャリアにおいて大きな強みとなるはずだ。この技術が普及すれば、サーバーラック内のストレージ構成が大きく変わり、より柔軟で高性能なデータセンターが実現される可能性を秘めている。