【ITニュース解説】ビッグバン導入、コロナ直撃――英国中央銀行は“挑戦的なシステム刷新”をどう進めたか

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英国中央銀行は、金融を支えるRTGSシステムの大規模刷新をパンデミックなどの困難を乗り越え実現した。その挑戦的なプロジェクトの推進方法と経緯が詳細に記されている。

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英国の中央銀行であるイングランド銀行が、国の金融システムを支える非常に重要な「RTGS」システムを刷新した話は、システムエンジニアを目指す初心者にとって多くの学びがある。RTGS、Real-Time Gross Settlementの略称だが、これは英国で行われる巨額の銀行間取引をリアルタイムで決済する、いわばお金の高速道路のようなものだ。銀行間でお金を移動させる際、私たちは普段意識しないが、その裏側ではこのRTGSシステムが、一つ一つの取引を瞬時に確定させ、金融システムの安定を保っている。もしこのシステムが一時でも停止すれば、国の経済活動は深刻な影響を受けるため、その重要性は計り知れない。 このRTGSシステムは長年稼働してきたが、技術の進歩や新しい金融サービスへの対応、セキュリティ強化といった観点から、全面的に刷新する必要があった。古いシステムは、まるで老朽化した建物のようだ。見た目はまだ使えても、内部構造は時代遅れになり、新しい機能を追加したり、地震に強い構造に改良したりすることが難しくなる。システムも同じで、新しい技術を取り入れたり、変化するニーズに対応したりするためには、根本から作り直すことが求められるのだ。 システム刷新には、いくつかの導入方法があるが、イングランド銀行が選んだのは「ビッグバン導入」と呼ばれる手法だ。これは、古いシステムを完全に停止させ、一度に新しいシステムに切り替える方式を指す。まるで古い建物を一度すべて取り壊し、新しい建物を一気に作り上げてオープンするようなものだ。この方式の大きなメリットは、古いシステムと新しいシステムを並行して運用する期間が短く、管理が比較的シンプルになる点にある。しかし、その分、失敗が許されないという大きなリスクも伴う。万が一、新しいシステムに不具合があれば、即座に国の金融システム全体が麻痺する可能性をはらんでいた。そのため、この「ビッグバン導入」は、非常に挑戦的で勇気のいる選択だったと言える。 プロジェクトの道のりは決して平坦ではなかった。大規模なシステム刷新は、ただでさえ複雑で、膨大な時間と労力、そして緻密な計画を要する。特に、金融システムのような社会インフラとなるシステムでは、数多くの金融機関や関連組織との連携が不可欠であり、その調整だけでも大変な作業となる。システムを構成する一つ一つの部品が、他のシステムとどのように連携しているかを正確に把握し、新しいシステムでも問題なく動作するように設計・実装する必要がある。そして、何よりも重要なのは、新しいシステムが本当に期待通りに機能するかを徹底的に検証するテストの工程だ。 さらに、このプロジェクトは予期せぬ困難、すなわち新型コロナウイルス感染症のパンデミックに直撃された。通常、大規模なシステムプロジェクトでは、開発チームが同じ場所に集まり、密に連携を取りながら作業を進めることが一般的だ。しかし、パンデミックにより、多くのメンバーがリモートワークを余儀なくされた。これは、コミュニケーションの方法を一変させ、直接顔を合わせて行うような細かいニュアンスの伝達や、突発的な問題への即応を難しくした。また、システムの部品供給に遅れが生じたり、実際に新しいシステムをテストするための環境構築に支障が出たりするなど、さまざまな予期せぬ問題が発生した。 このような状況下でプロジェクトを進めるためには、並外れた適応力と問題解決能力が求められた。イングランド銀行は、リモート環境でも効率的に作業を進めるためのツールやプロセスを導入し、コミュニケーションの頻度を高め、プロジェクトメンバー間の情報共有を徹底した。また、テスト計画を柔軟に見直し、限られたリソースの中で最大限の検証が行えるよう工夫を凝らした。万が一の事態に備え、詳細なバックアッププランを用意し、あらゆるリスクシナリオを想定した対策を講じたことも、成功の鍵となった。プロジェクトを進める上では、技術的な専門知識だけでなく、変化に対応し、困難な状況でもチームをまとめ上げるリーダーシップが不可欠であることを、この事例は示している。 最終的に、イングランド銀行はこれらの困難を乗り越え、新しいRTGSシステムのビッグバン導入を成功させた。この成功は、綿密な計画、徹底したテスト、そして予期せぬ事態への柔軟な対応力の賜物と言える。また、多くのステークホルダーとの継続的な対話と協力がなければ、これほど大規模で重要なシステムの刷新は不可能だっただろう。 システムエンジニアを目指す初心者にとって、このイングランド銀行のRTGSシステム刷新プロジェクトは、多くの教訓を与えてくれる。それは、システム開発が単にプログラムを書く作業に留まらないということだ。システムの根幹を理解し、その重要性を認識すること。大規模プロジェクトにおける計画の重要性、リスク管理の徹底。そして、何よりも予期せぬ問題に直面した際の対応力と、チームや関係者と協力しながら解決へと導くコミュニケーション能力が、いかに重要であるか。社会を支えるシステム開発には、技術力だけでなく、人間力も求められることを、この事例は教えている。困難な状況でも諦めずに目標を達成する姿勢は、どのようなエンジニアにとっても学ぶべき点である。

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