【ITニュース解説】Ukrainian Network FDN3 Launches Massive Brute-Force Attacks on SSL VPN and RDP Devices
ITニュース概要
ウクライナのIPネットワークが、SSL VPNやRDPといったリモートアクセス機器を標的に大規模な攻撃を実施。これは、パスワードを総当たりで試して不正ログインを狙うブルートフォース攻撃で、厳重な注意が必要だ。
ITニュース解説
2025年6月から7月にかけて、ウクライナの特定のIPネットワークから、世界中の企業や組織が利用するシステムに対して、大規模な不正ログインの試みが行われたことが明らかになった。この攻撃は、システムエンジニアが構築・運用する情報インフラのセキュリティを考える上で、非常に重要な示唆を与えている。 今回の攻撃で使われた手法は、「総当たり攻撃(ブルートフォース攻撃)」と「パスワードスプレー攻撃」の二種類である。これらは、いずれもIDとパスワードの組み合わせを試して認証を突破しようとする古典的だが強力な攻撃だ。総当たり攻撃は、特定のユーザーアカウントに対して、考えられるパスワードの組み合わせを辞書や文字の総当たりで片っ端から試す手法である。例えば、「user01」というアカウントに対し、「password」「123456」「abcdef」といった単純なものから、ランダムな文字列まで、成功するまで延々と試し続ける。一方、パスワードスプレー攻撃は、一つのパスワード(例えば「Password2025!」のような、多くの組織で使われていそうなもの)を用意し、それを多数の異なるユーザーアカウントに対して試していく手法である。総当たり攻撃のように一つのアカウントに何度もログイン失敗を繰り返すと、アカウントがロックされて攻撃が続けられなくなることがある。しかし、パスワードスプレー攻撃は各アカウントへの試行回数が少ないため、アカウントロックを回避しつつ、弱いパスワードを使っているユーザーを効率的に探し出すことができる。 攻撃者が標的としたのは、「SSL VPN」と「RDP」という二つのシステムである。これらは、現代のビジネス環境、特にリモートワークにおいて極めて重要な役割を担っている。SSL VPN(Secure Sockets Layer Virtual Private Network)は、インターネットという誰でも利用できる公衆網の上に、暗号化された仮想的な専用回線(トンネル)を構築する技術である。従業員が自宅や外出先から会社の内部ネットワークにアクセスする際、通信内容を盗み見られたり改ざんされたりしないように保護するために使われる。いわば、会社の情報システムへの安全な「玄関」である。一方のRDP(Remote Desktop Protocol)は、主にWindows環境で使われるプロトコルで、遠隔地にあるコンピュータのデスクトップ画面を手元のコンピュータに転送し、直接操作できるようにする技術だ。在宅勤務中に会社のデスクにある自分のパソコンを操作する、といった用途で広く利用されている。これらはいずれも、攻撃者にとって、一度侵入に成功すれば企業の内部ネットワークに深く入り込むための足がかりとなる、非常に魅力的な標的なのである。 今回の攻撃は、「FDN3」と名付けられたウクライナのIPネットワークから発信されていたことが、フランスのセキュリティ企業によって特定された。このFDN3は、「AS211736」という自律システム(AS)番号を持つネットワーク事業者である。インターネットは、世界中の無数のネットワークが相互に接続されて成り立っているが、その管理単位となるのが自律システムだ。それぞれのASは、独自のポリシーに基づいてネットワークを運用している。攻撃者は、このような事業者のネットワークインフラを悪用、あるいは正規に契約して利用し、自身の正体を隠しながら攻撃を仕掛けることがある。今回の調査では、このFDN3自体が、より広範なサイバー攻撃インフラの一部である可能性が高いと指摘されている。 このニュースは、システムエンジニアを目指す者にとって、セキュリティの基本がいかに重要であるかを再認識させるものである。SSL VPNやRDPは、適切に設定・管理されていれば非常に便利なツールだが、インターネットに公開されている以上、常に世界中からの攻撃に晒されている。今回の攻撃のように、特定の組織を狙うのではなく、無差別に脆弱なシステムを探す攻撃は日常的に行われている。したがって、システムを構築する際には、まず推測されにくい複雑なパスワードを設定し、定期的に変更するポリシーを徹底することが不可欠だ。さらに、パスワードだけに頼らず、スマートフォンアプリや物理的なキーなどを利用した「多要素認証(MFA)」を導入することで、万が一パスワードが漏洩しても不正ログインを防ぐことができる。また、業務上不要なRDPポートをインターネットに公開しない、アクセス元IPアドレスを制限するなどの基本的な設定も極めて重要となる。サイバー攻撃の手法は日々進化しており、エンジニアは常に最新の脅威情報を収集し、自らが管理するシステムを守るための知識と技術を磨き続ける必要がある。