【ITニュース解説】Video Game Blurs (and how the best one works)
2025年09月03日に「Hacker News」が公開したITニュース「Video Game Blurs (and how the best one works)」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
ゲームの映像表現で重要な「ぼかし」処理を解説。特に、高品質かつ効率的な視覚効果を実現するDual Kawase Blurの仕組みを詳しく説明する。美しいゲームグラフィックを支えるレンダリング技術の基礎を学べる。
ITニュース解説
ビデオゲームの画面で、背景がぼやけて主役のキャラクターが際立って見えたり、素早く動く物体が残像を伴って表現されたり、まぶしい光が画面ににじんで見えたりする効果を体験したことがあるだろう。これらの「ぼかし」や「にじみ」といった視覚効果は「ブラー」と呼ばれ、ゲームのリアリティや臨場感を高める上で非常に重要な役割を果たす。このブラー効果がどのように実現され、特に高品質で効率的な「Dual Kawase Blur」という手法がどのように機能するのかを解説する。
まず、ゲームにおけるブラー効果の主な目的はいくつかある。一つは「被写界深度」の表現だ。これは写真撮影で、ピントを合わせた対象以外をぼかすことで、視線を誘導したり、奥行きを表現したりする技術だ。次に「モーションブラー」がある。これはゲーム内の物体が高速で動く際に、現実世界でカメラのシャッタースピードが遅いときに生じるような残像感を表現し、動きの速さや迫力を伝える。さらに「Bloom」という効果もブラーの一種で、非常に明るい光の部分が画面上でにじむように広がることで、光源の強さや幻想的な雰囲気を演出する。また、ゲームのパフォーマンス最適化の観点からもブラーは利用される。遠くにある詳細度の低いオブジェクトをあえてぼかすことで、描画に必要な計算量を減らし、ゲーム全体の動作を軽くする役割も持つ。
これらのブラー効果をコンピュータグラフィックスで実現する最も基本的な方法は、画面を構成する個々の点であるピクセルごとに、その周囲のピクセルの色を調べて平均化することだ。例えば、あるピクセルをぼかすには、そのピクセル自身の色だけでなく、上下左右や斜めなど、隣接するピクセルの色をいくつか集めてきて、それらの平均色をそのピクセルの新しい色として設定する。この「どの範囲のピクセルを、どのくらいの割合で平均するか」を定義する小さなグリッド状のデータは「カーネル」と呼ばれる。
最も一般的なブラー手法の一つに「ガウスブラー」がある。これは、中央のピクセルに近いほど強く影響を与え、遠いピクセルほど影響を弱くするという、自然なぼかしを数学的に表現したカーネルを用いる。しかし、ガウスブラーには課題があった。広範囲をぼかそうとすると、カーネルのサイズが非常に大きくなり、一つのピクセルを処理するためにサンプリング(色を読み取る)すべき周囲のピクセル数が膨大になるのだ。例えば、20×20ピクセルの範囲をぼかす場合、一つのピクセルにつき400回ものサンプリングが必要になり、これは非常に高い計算コストを伴う。ゲームのようにリアルタイムでの高速な描画が求められる環境では、この計算量の多さは大きな問題となる。
このガウスブラーの計算コストを削減するための一つの工夫が「分離可能フィルター」という考え方だ。これは、2次元のぼかしを、まず水平方向のぼかしを画像全体に適用し、その結果に対して次に垂直方向のぼかしを適用するという2段階の処理に分解するものだ。これにより、20×20のカーネルが必要だった処理が、水平方向で20回、垂直方向で20回のサンプリング、合計40回のサンプリングで同等のブラー効果が得られるようになり、大幅な効率化が実現された。しかし、それでもなお、非常に大きな範囲のブラーをかける場合には、まだ効率が良いとは言えなかった。
そこで登場したのが「Kawase Blur(カワーゼブラー)」という手法だ。この方法は、一度に広範囲をぼかすのではなく、複数のパス(段階的な処理)に分けて、徐々にブラーを適用していくというアプローチを取る。具体的には、画像を数回にわたってダウンサンプリング(解像度を段階的に下げていく)しながら各段階で軽くブラーをかけ、その後にアップサンプリング(解像度を段階的に上げていく)しながら、前の段階で適用したブラーの結果を合成していく。画像を縮小することで、サンプリングすべきピクセル数が減るため、全体の計算コストを大幅に削減できるのだ。例えば、元の解像度が1000×1000ピクセルであれば、それを500×500、250×250と縮小していくと、各段階での処理は非常に軽くなる。しかし、この手法は画像を縮小・拡大する過程で「エイリアシング」と呼ばれる画質の劣化(ギザギザとした見た目)が発生しやすいという欠点があった。
そして、Kawase Blurの欠点を克服し、より高品質で効率的なブラーを実現するために開発されたのが「Dual Kawase Blur(デュアルカワーゼブラー)」だ。この手法は、Kawase Blurの「複数のパスで段階的にブラーを適用する」という基本思想は踏襲しつつ、ダウンサンプリングパスとアップサンプリングパスをより密接に連携させることで、画質と性能を両立させている。
Dual Kawase Blurの仕組みはこうだ。まず、元の高解像度の画像からスタートし、いくつかの段階で画像をダウンサンプリングしながらブラーを適用していく。各ダウンサンプリングの段階では、現在のピクセルだけでなく、その周囲の隣接するピクセル(例えば、右、下、右下の3ピクセルと現在のピクセル、合計4ピクセル)をサンプリングして平均化し、その結果を次の、より低解像度の画像に書き込む。このとき、単にダウンサンプリングするだけでなく、現在のピクセル自身の色もサンプリングに含めることで、エイリアシングの発生を抑制する工夫がされている。
最も低い解像度までダウンサンプリングされてブラーが適用された画像が得られたら、次にアップサンプリングの段階に入る。ここでは、最も低い解像度のブラー画像から、元の解像度へと画像を拡大していく。各アップサンプリングの段階では、現在のピクセルを生成するために、まず下位の解像度のブラー画像を拡大し、その拡大されたブラー画像を周囲のピクセルとしてサンプリングし、さらに元の高解像度画像から取得できる情報とブレンドする。具体的には、拡大されたブラー画像から現在のピクセル位置と隣接する4つのピクセルをサンプリングし、それらを補間しながら、より高い解像度のブラー画像を生成する。このアップサンプリングの過程でも、周囲のピクセルと補間をうまく組み合わせることで、自然で滑らかなブラー効果が実現される。
このように、Dual Kawase Blurは、ダウンサンプリングとアップサンプリングの各パスで、効率的なサンプリング戦略とピクセル補間を組み合わせることで、広範囲のブラーを少ない計算量で、しかも高品質に実現できる。特に、各段階で現在のピクセル自身を考慮に入れることで、画像の縮小・拡大に伴う画質の劣化を大幅に軽減している点が特徴だ。
ゲーム開発では、限られた計算資源の中でいかに高品質な映像表現を実現するかが常に課題となる。Dual Kawase Blurは、この課題に対する優れた解決策の一つであり、多くの最新ゲームで、背景のぼかしや光の表現、ポストエフェクト(画面全体に適用される視覚効果)などに広く採用されている。複雑なアルゴリズムの工夫によって、ゲームはよりリアルに、より魅力的な体験へと進化しているのだ。