【ITニュース解説】第864回 レコード登録なしに名前解決を行える、ワイルドカードDNS「nip.io」をセルフホストする

2025年05月28日に「Gihyo.jp」が公開したITニュース「第864回 レコード登録なしに名前解決を行える、ワイルドカードDNS「nip.io」をセルフホストする」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

「nip.io」のようなワイルドカードDNSは、事前にレコードを登録せずとも自動でドメイン名をIPアドレスに変換できる便利な仕組みだ。この記事では、この機能を社内ローカルで自社ドメインを使って構築(セルフホスト)する方法を解説している。

ITニュース解説

コンピューターがネットワーク上で互いに通信する際、それぞれのコンピューターは「IPアドレス」という数字の並びで識別されている。しかし、人間にとって数字の羅列であるIPアドレスを覚えるのは難しく、Webサイトにアクセスする際などには「ドメイン名」という覚えやすい名前が使われる。例えば「google.com」のようなものがドメイン名である。このドメイン名とIPアドレスを紐付け、互いに変換する役割を担っているのがDNS(Domain Name System)と呼ばれるシステムである。Webブラウザがドメイン名でアクセスを試みると、まずDNSサーバーに問い合わせて対応するIPアドレスを取得し、そのIPアドレスに向けて実際の通信を開始する。

通常のDNS運用では、新しいWebサイトやサービス、開発環境などを立ち上げて特定のドメイン名でアクセスできるようにするたびに、DNSサーバーに「Aレコード」と呼ばれる情報を手動で登録する必要がある。例えば、「www.example.com というドメイン名は 192.0.2.1 というIPアドレスに対応します」といった情報を登録する。開発が活発な環境では、テスト用のサーバーが一時的にたくさん立ち上がったり、IPアドレスが変わったりすることが頻繁に発生する。そのたびにDNSレコードを登録・更新するのは非常に手間がかかる作業であり、開発のスピードを妨げる要因にもなりかねない。

この課題を解決するユニークなアプローチを提供するのが「nip.io」のようなサービスである。nip.ioは、DNSサーバーに事前にレコードを登録することなく、特定のIPアドレスを含むドメイン名を自動的に名前解決できる機能を持っている。具体的には、「192.0.2.1.nip.io」といった形式のドメイン名にアクセスすると、nip.ioのDNSサーバーはこのドメイン名に含まれるIPアドレス(この例では192.0.2.1)を抽出し、そのIPアドレスを名前解決の結果として即座に返す。これにより、ユーザーはDNSサーバーに手動でAレコードを登録する手間を省き、任意のIPアドレスに対して一時的なドメイン名を生成し、利用することが可能になる。

nip.ioのこのような機能は、「ワイルドカードDNS」という仕組みを応用して実現されている。ワイルドカードDNSとは、例えば「*.example.com」のように、アスタリスク(*)を使って特定のドメインに対する任意のサブドメインを一括で指定し、すべて同じIPアドレスに名前解決させる機能である。nip.ioはこのワイルドカードの考え方をさらに発展させ、サブドメイン部分にIPアドレスそのものを含めることで、レコード登録不要の名前解決を可能にしているのである。

この仕組みは、特に開発やテストの現場で大きなメリットをもたらす。アプリケーションのデプロイやテスト環境の構築時に、サーバーのIPアドレスが変わったり、新しい環境が次々に立ち上がったりしても、DNSレコードの更新作業を待つ必要なく、すぐにそのIPアドレスに対応するドメイン名でアクセスできるようになる。これにより、開発サイクルを高速化し、テスト環境の準備にかかる時間と手間を大幅に削減できるため、開発効率の向上に大きく貢献する。

公開されているnip.ioのような外部サービスは非常に便利だが、企業の社内システムや機密性の高い情報を扱う環境においては、外部サービスに依存せず、自分たちで同様の機能を構築したいというニーズが生まれる。これが「セルフホスト」と呼ばれる動機である。自社ドメインでnip.ioのようなサービスを構築することで、次のようなメリットを享受できる。

まず、セキュリティとプライバシーが向上する。社内ネットワークのIPアドレス情報や、一時的に利用されるドメイン名が外部サービスに送信されることがなくなるため、情報漏洩のリスクを低減できる。次に、サービスの安定性と信頼性を確保できる。外部サービスの障害に影響されることなく、自分たちで構築・運用するため、社内環境に最適化された安定したサービス提供が可能となる。さらに、自社の要件に合わせて柔軟なカスタマイズが可能になる。独自の命名規則を適用したり、特定の機能を追加したりといった自由度が高まる。また、インターネットに接続できない閉鎖的な社内ネットワーク環境でも、この便利な名前解決機能を利用できる点も大きな利点となる。

社内ローカルなnip.ioを自社ドメインでセルフホストするには、まず自分たちでDNSサーバーを構築する必要がある。この際、「BIND」のような代表的なDNSサーバーソフトウェアが使われることが多い。このDNSサーバーに対して、自分たちが管理するドメイン(例えばmycompany.local)に対して、特別なワイルドカードレコードを設定する。具体的には、*.mycompany.local のようなワイルドカードレコードを定義し、さらに受け取ったドメイン名の中に含まれるIPアドレスを動的に抽出し、そのIPアドレスを名前解決の結果として返すように、DNSサーバーの動作を設定する。これにより、例えば「192-168-1-100.mycompany.local」というドメイン名が、自動的に「192.168.1.100」というIPアドレスに名前解決されるようになる。

このように、レコード登録なしに名前解決を行うワイルドカードDNS「nip.io」をセルフホストする技術は、特に開発やテスト環境におけるDNS管理の煩雑さを解消し、作業効率を大幅に向上させる強力な手段である。外部サービスへの依存を避け、セキュリティやプライバシーを確保しつつ、自社の要件に合わせた柔軟な名前解決環境を構築できる点で、システムエンジニアにとって非常に価値のある技術と言える。