【ITニュース解説】アメリカでスポーツ賭博が合法化された経緯とは?
2025年09月28日に「GIGAZINE」が公開したITニュース「アメリカでスポーツ賭博が合法化された経緯とは?」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
アメリカでは2018年、26年間続いた連邦規制が覆され、スポーツの試合結果などに金を賭ける「スポーツ賭博」が合法化された。この記事では、この決定に至った詳しい経緯について解説する。
ITニュース解説
アメリカにおけるスポーツ賭博の合法化は、2018年に連邦最高裁判所の画期的な判決によって実現した。これは、およそ26年間にわたって全国的にスポーツ賭博を制限してきた連邦法が覆されるという、歴史的な転換点であった。この複雑な経緯を理解するには、過去の規制の背景から、州と連邦政府の間の権限争い、そして最終的な最高裁の判断に至るまでの道のりを順を追って見ていく必要がある。
事の発端は、1992年に制定された「プロフェッショナル・アマチュアスポーツ保護法(PASPA)」にある。この法律は、当時既に合法的にスポーツ賭博が認められていた一部の州(ネバダ州、デラウェア州、オレゴン州、モンタナ州)を除き、アメリカ国内でのスポーツ賭博の新たな合法化を事実上禁止するものだった。連邦政府がこの法律を制定した主な目的は、スポーツの公正性を守り、八百長や不正行為から選手や試合を守ることであった。また、スポーツ賭博が社会に与える悪影響、例えばギャンブル依存症の増加や非合法な組織との関連を懸念する声も背景にあった。この法律により、多くの州ではスポーツ賭博を合法化する道が閉ざされ、合法的な賭博市場はごく限られた地域にとどまっていた。しかし、この規制は一方で、合法化されていないだけで、実際には非合法な賭博市場が水面下で広範囲に存在し、巨額の資金が流れているという現実も生み出していた。
2000年代に入ると、このPASPAに対する異議申し立てが、特に財政難に直面していた一部の州から強まっていった。その中でも最も積極的だったのがニュージャージー州である。同州は、大西洋沿岸のリゾート都市アトランティックシティがカジノ産業の衰退に苦しんでいたこともあり、新たな税収源としてスポーツ賭博の合法化に強い意欲を示した。ニュージャージー州は、2012年に独自の法律を制定し、州内でのスポーツ賭博を合法化しようと試みた。しかし、これはすぐにPASPAに違反するとして、連邦政府と大手スポーツ団体(NFL、NBA、MLB、NHL、NCAAなど)から訴訟を起こされることになった。
この訴訟は連邦裁判所の様々な段階を経て、最終的にアメリカ連邦最高裁判所へと持ち込まれることになった。ニュージャージー州が主張したのは、PASPAが「州に対する強制」にあたり、アメリカ合衆国憲法の第10修正条項(州と人民に留保された権限)に違反するという点だった。第10修正条項は、連邦政府に与えられていない権限は州または人民に留保されると定めており、連邦政府が州に特定の法律を制定したり廃止したりすることを強制できないという原則(「反命令の原則」または「反徴用の原則」)を確立している。ニュージャージー州は、PASPAが連邦政府自身がスポーツ賭博を禁止しているわけではなく、単に州がスポーツ賭博を合法化することを禁止している点に焦点を当てた。これは、連邦政府が州に対して、特定の政策を実施しないよう命じる形になっており、州の立法権限を不当に侵害していると主張したのである。
2018年5月14日、連邦最高裁は「マーフィー対全米大学体育協会(Murphy v. NCAA)」の裁判において、ニュージャージー州の主張を支持する画期的な判決を下した。最高裁は、PASPAが州がスポーツ賭博を合法化することを禁じている条項が、憲法の「反命令の原則」に違反すると判断し、違憲であると結論付けた。この判決により、PASPAは無効化され、各州は連邦法の制約を受けることなく、自らの裁量でスポーツ賭博の合法化の是非を決定できるようになった。
最高裁のこの判断は、連邦と州の権限のバランスに関する重要な先例となり、アメリカにおける規制環境に大きな変化をもたらした。PASPAの廃止後、多くの州が次々にスポーツ賭博を合法化する動きを見せた。各州は、それぞれ独自の法制度や規制枠組みを整備し、オンラインでのスポーツ賭博やモバイルアプリを通じた賭博も許可するようになった。これにより、これまで非合法市場に流れていた資金が合法的なチャネルに誘導され、州にとっては新たな税収源が確保されるという経済的メリットが生まれた。また、合法化された市場では、賭博行為の監督や規制が適切に行われることで、公正性や透明性が向上し、ギャンブル依存症対策なども強化される可能性が指摘されている。
このように、アメリカにおけるスポーツ賭博の合法化は、単なる賭博の解禁にとどまらず、連邦と州の間の憲法上の権限を巡る長きにわたる闘争の結果として実現したものであった。規制緩和を求める州の強い経済的動機と、スポーツの健全性を守ろうとする連邦政府の意図が衝突し、最終的には最高裁の判断によって連邦法の制約が取り払われたという経緯は、アメリカの法制度の複雑さとダイナミズムをよく示していると言えるだろう。この合法化は、新たな産業の創出とそれに伴う技術的な発展(オンラインプラットフォーム、データ分析、セキュリティシステムなど)を促し、関連分野に多大な影響を与え続けている。