ダガー記号 (ダガーキゴウ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
ダガー記号 (ダガーキゴウ) の読み方
日本語表記
短剣符 (ダガー)
英語表記
Dagger (ダガー)
ダガー記号 (ダガーキゴウ) の意味や用語解説
ダガー記号は、「†」という形状を持つ約物の一種である。その形が短剣(dagger)に似ていることからこの名で呼ばれ、日本語では短剣符とも称される。また、古代ギリシャで用いられた記号に由来することからオベリスクという別名も持つ。この記号は、主に文書内で脚注や参照を示すために使用される。特に、アスタリスク(*)が既に使用されている場合に、二番目の参照記号として用いられることが多い。さらに、人名の横に付記することで故人であることを示したり、生物の学名の横でその種が絶滅したことを示したりする役割も担う。キリスト教の文脈では十字架の代用として使われることもある。IT分野においては、文字コード体系の中で特定のコードポイントが割り当てられており、ウェブページや文書作成ソフトウェアで表示・入力が可能である。一部の学術計算や特定のプログラミング環境では、特殊な演算子として定義されている場合もあるため、システムエンジニアとしてその存在と意味を理解しておくことは有益である。 ダガー記号の起源は、紀元前3世紀頃の古代ギリシャに遡る。アレクサンドリア図書館の司書であったゼノドトスが、ホメロスの叙事詩などの写本を校訂する際に、疑わしい、あるいは後世に挿入されたと考えられる行を示すために「オベロス」と呼ばれる水平線や、それに点を加えた記号を用いたのが始まりとされる。このオベロスが時代を経て変化し、現在のダガー記号の形になったと考えられている。ダガー記号には、基本的な「ダガー(†)」の他に、それを二つ重ねた「ダブルダガー(‡)」、または二重短剣符と呼ばれる記号が存在する。これらは主に出版物や学術論文において、脚注や注釈を示す参照記号として段階的に使用される。一般的な慣習では、同一ページ内での参照記号の順序は、アスタリスク(*)、ダガー(†)、ダブルダガー(‡)の順で使用されることが多い。これ以降も注釈が必要な場合は、セクション記号(§)やパラグラフ記号(¶)が続くこともある。 ダガー記号の用途は多岐にわたる。学術分野では、前述の脚注記号としての役割に加え、歴史的な文脈で故人を示すために広く用いられる。人名の前後にこの記号を付すことで、その人物が既に亡くなっていることを簡潔に示すことができる。同様に、生物学の分野では、絶滅した生物種や分類群を示すために学名の横に付記される。これにより、現存する種と絶滅した種を明確に区別することが可能となる。数学や物理学、特に量子力学の分野では、ダガー記号は特定の数学的操作を表す記号として重要な役割を果たす。行列や演算子の上に付されたダガー記号は、その行列や演算子のエルミート共役(随伴)を取ることを意味する。これは、元の行列の転置を取り、さらに各要素を複素共役にしたものに相当する操作であり、物理量の観測可能性などを議論する上で不可欠な概念である。 IT分野におけるダガー記号の扱いは、文字コードの理解と密接に関連している。ダガー記号は、初期のコンピュータで標準的であった7ビットのASCIIコードには含まれていない。そのため、より多くの文字を扱えるUnicodeのような文字コード体系で定義されている。Unicodeでは、ダガー(†)には「U+2020」、ダブルダガー(‡)には「U+2021」という一意のコードポイントが割り当てられている。現代のオペレーティングシステムやアプリケーションの多くはUnicodeに対応しているため、これらの記号を問題なく表示・入力できる。Webページでこれらの記号を使用する際は、HTMLの文字実体参照である「†」や「‡」、あるいは数値文字参照「†」や「‡」を用いることで、文字コードの違いによる表示の不具合、いわゆる文字化けを防ぐことができる。 プログラミングの文脈では、ダガー記号が言語の構文として積極的に利用されることは稀である。ほとんどのプログラミング言語では、変数名や関数名に使用できる文字は英数字と一部の記号に制限されており、ダガー記号は通常使用できない。しかし、文書作成システムであるTeXやLaTeXでは、数式モード内で「\dagger」や「\ddagger」というコマンドを用いることで、これらの記号を簡単に出力することができる。これは、学術論文の執筆などで頻繁に利用される機能である。また、ファイル名にダガー記号のような特殊な記号を使用することは、オペレーティングシステムやファイルシステムによっては互換性の問題を引き起こす可能性があるため、避けるのが賢明である。システムエンジニアとしては、このような文字コードの仕様や、各環境における特殊文字の扱いに関する知識は、システムの設計やデータ移行、トラブルシューティングにおいて重要となる。