ダイバーシティアンテナ (ダイバーシティアンテナ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

作成日: 更新日:

ダイバーシティアンテナ (ダイバーシティアンテナ) の読み方

日本語表記

ダイバーシティアンテナ (ダイバーシティアンテナ)

英語表記

diversity antenna (ダイバーシティ アンテナ)

ダイバーシティアンテナ (ダイバーシティアンテナ) の意味や用語解説

ダイバーシティアンテナは、無線通信において、電波の不安定な伝搬特性による通信品質の劣化を抑制し、安定性や信頼性を向上させるための技術である。電波は、送信機から受信機へ直接届く直進波だけでなく、建物、地面、人体など様々な物体に反射、回折、散乱しながら複数の経路を通って到達する。この現象をマルチパスと呼ぶ。 マルチパスによって到達した複数の電波は、それぞれ異なる距離を移動しているため、受信機に到達するタイミングや位相がわずかにずれる。これらの波が互いに干渉し合うことで、信号が強め合ったり、あるいは打ち消し合ったりする現象が発生し、受信信号の強度が大きく変動する。この現象をフェージングと呼ぶ。フェージングは、移動体の存在や周囲の環境変化によって刻々と変動するため、通信が途切れたり、データエラーが発生したりする主な原因となる。 ダイバーシティアンテナは、このフェージングの影響を軽減するために考案された。その基本的な原理は、複数のアンテナを同時に使用し、それぞれのアンテナで異なる特性を持つ電波を受信することにある。あるアンテナでフェージングによって信号が弱まっている場合でも、別のアンテナでは異なる経路や異なる特性の電波を受信しているため、信号が弱まらずに受信できる可能性が高くなる。これにより、常に複数の選択肢の中から最も良好な信号を選び出すか、あるいは複数の信号を適切に合成することで、総合的な通信品質を向上させる。 ダイバーシティ方式にはいくつかの種類があるが、アンテナが直接的に関与する主な方式は空間ダイバーシティと偏波ダイバーシティである。 空間ダイバーシティは、最も一般的に用いられる方式で、物理的に異なる位置に複数のアンテナを配置する。例えば、無線LANルータに複数のアンテナが搭載されているのはこの方式のためである。それぞれのアンテナは異なる方向からの電波や、異なる反射経路を通ってきた電波を受信するため、各アンテナが受信する信号間の相関が低くなる。これにより、一方のアンテナがフェージングの影響で信号が弱くなっても、もう一方のアンテナでは良好な信号を受信できる可能性が高まり、通信の安定性が確保される。 偏波ダイバーシティは、異なる偏波面(電波の振動方向)を持つアンテナを組み合わせて使用する方式である。電波は水平偏波や垂直偏波など、様々な偏波面を持つことができ、電波が反射や回折を繰り返すうちに偏波面が変化することがある。異なる偏波を持つアンテナを使用することで、一方の偏波面で信号が弱くなっても、もう一方の偏波面では良好な信号を受信できる可能性がある。 ダイバーシティアンテナで受信した複数の信号をどのように処理するかによっても、その性能は異なる。主な信号処理方式としては、選択合成、等利得合成、最大比合成がある。 選択合成(Selection Combining: SC)は、複数のアンテナで受信した信号の中から、その時点で最も品質の良い(信号強度が強い、またはSN比が高い)信号を一つ選択して利用する方式である。処理がシンプルで回路構成も比較的容易なため、多くのシステムで採用されている。 等利得合成(Equal Gain Combining: EGC)は、受信した複数の信号の位相を正確に合わせてから、それぞれ等しい重みで単純に加算する方式である。選択合成よりも優れた性能を発揮する。 最大比合成(Maximal Ratio Combining: MRC)は、受信した複数の信号を、それぞれの信号強度やSN比に応じて最適な重み付けをしてから加算する方式である。理論上最も高性能な合成方式であり、受信SN比を最大化できるが、その分、回路構成や信号処理が複雑になる。 ダイバーシティアンテナを導入する最大のメリットは、通信の安定性が大きく向上することである。フェージングによる通信品質の急激な劣化や通信途絶を防ぎ、より広い範囲で安定した通信を可能にする。また、通信品質が向上することで、データのエラー発生率が低下し、再送処理の回数が減少するため、結果的に実効的な通信速度の向上や、システム全体の消費電力の抑制にも寄与する。さらに、複数のアンテナを用いて送受信を行うMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術の基盤となる要素でもあり、MIMOと組み合わせることで、空間多重による通信速度の飛躍的な向上も実現する。 一方で、デメリットも存在する。複数のアンテナと、それらに対応する複数の受信回路が必要となるため、シングルアンテナのシステムに比べて機器の製造コストが増加する。また、複数のアンテナを配置するための物理的なスペースが必要となり、特に小型のデバイスでは設計上の制約となる場合がある。受信回路が複雑になる分、わずかに消費電力が増える可能性もある。 しかし、これらのデメリットを上回る大きなメリットがあるため、ダイバーシティアンテナは現代の無線通信システムにおいて不可欠な技術となっている。スマートフォン、無線LANルータ、Bluetooth機器、IoTデバイス、デジタルテレビ受信機、カーナビゲーションシステム、そして5Gなどの次世代移動通信システムまで、広範な無線通信機器やサービスで採用され、その信頼性と性能向上に大きく貢献している重要な技術である。

ダイバーシティアンテナ (ダイバーシティアンテナ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説