期待値 (キタイチ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
期待値 (キタイチ) の読み方
日本語表記
期待値 (キタイチ)
英語表記
Expected value (エクスペクテッドバリュー)
期待値 (キタイチ) の意味や用語解説
期待値とは、確率的に変動する事象において、試行を多数回繰り返した際に得られる結果の平均値を示す指標である。確率論および統計学における基本的な概念の一つであり、英語ではExpected Valueと表記される。ある試行によって得られる結果が複数あり、それぞれの結果が発生する確率が分かっている場合に、その試行一回あたりで「平均してどれくらいの値が得られるか」を数学的に表現したものが期待値である。システムエンジニアリングの分野では、不確実性を伴う事象を定量的に評価し、合理的な意思決定を行うために広く用いられる。その計算方法は、各事象で得られる値とその事象が発生する確率を掛け合わせ、それらをすべて足し合わせることで求められる。数式で表現すると「期待値 = Σ (各事象の値 × その事象が起こる確率)」となる。この計算により、未来に起こりうる複数の結果を、確率の重みを考慮して一つの代表値に集約することができる。 期待値の概念を具体的に理解するために、公正な6面体のサイコロを一度振る試行を考える。出る目は1から6までのいずれかであり、それぞれの目が出る確率は等しく1/6である。このとき、出る目の期待値は、(1 × 1/6) + (2 × 1/6) + (3 × 1/6) + (4 × 1/6) + (5 × 1/6) + (6 × 1/6) という計算で求められる。これを計算すると、(1+2+3+4+5+6) / 6 = 21 / 6 = 3.5 となる。ここで重要なのは、サイコロを一度振って3.5という目が出ることはありえないという点である。期待値が示すのは、もしこのサイコロを振る試行を無限に近い回数繰り返した場合、その出た目の平均値が3.5に限りなく近づいていくということである。したがって、期待値は一度の試行で得られる値を予測するものではなく、長期的な視点での平均的な結果を示す指標として解釈する必要がある。 システムエンジニアリングの実務において、期待値は様々な場面で応用される。その一つが、システムのパフォーマンス評価である。例えば、あるデータベースへのクエリ処理にかかる時間を評価する場合を考える。調査の結果、95%のクエリは50ミリ秒で正常に完了し、残りの5%はネットワークの遅延やデータベースの高負荷によりタイムアウトとなり、1000ミリ秒かかると判明したとする。このとき、クエリ処理時間の期待値は (50ミリ秒 × 0.95) + (1000ミリ秒 × 0.05) = 47.5 + 50 = 97.5ミリ秒と計算できる。この97.5ミリ秒という値は、ほとんどのケースである50ミリ秒よりも大きい。これは、ごく稀に発生する大幅な遅延が全体の平均値を引き上げていることを示している。このように期待値を算出することで、単に最頻値や正常系の性能だけを見るのではなく、異常系も含めたシステム全体の平均的な性能を客観的に把握し、サービスレベル目標(SLO)の設定や改善点の特定に役立てることができる。 また、プロジェクト管理におけるリスク分析やコスト見積もりにも期待値は活用される。システム開発プロジェクトでは、予期せぬ問題による遅延リスクが常に存在する。あるプロジェクトにおいて、予定通り完了する確率が70%(追加コスト0円)、1ヶ月遅延する確率が20%(追加コスト100万円)、2ヶ月遅延する確率が10%(追加コスト300万円)と見積もられたとする。この場合、発生しうる追加コストの期待値は (0円 × 0.7) + (100万円 × 0.2) + (300万円 × 0.1) = 0 + 20万円 + 30万円 = 50万円となる。この50万円という金額は、このプロジェクトで平均的に見込まれるリスクコストを示しており、プロジェクトの予算を策定する際に、リスクに備えるための予備費として計上する根拠となりうる。期待値を用いることで、感覚的なリスク評価ではなく、確率に基づいた定量的な評価が可能となり、より精度の高い計画立案を支援する。 さらに、サーバーやネットワークなどのインフラリソースの計画においても期待値は重要な役割を果たす。例えば、あるWebサーバーのCPU使用率が、通常時は30%(発生確率80%)、アクセスが集中するピーク時は90%(発生確率20%)になると予測される場合、CPU使用率の期待値は (30% × 0.8) + (90% × 0.2) = 24% + 18% = 42% と計算される。この42%という値は、サーバーの平均的な負荷を示す。この期待値を基に、長期的なサーバーリソースの増強計画(キャパシティプランニング)を立てたり、負荷分散の戦略を検討したりすることができる。 このように、期待値は不確実な事象を平均的な数値として捉えるための強力なツールである。ただし、期待値を解釈する際には、それが多数回の試行における平均値であり、一回の結果を保証するものではないこと、また、確率の分布によっては期待値だけでは事象全体を正確に表現できない場合があることを理解しておく必要がある。システムエンジニアは、この概念を正しく理解し、パフォーマンス設計、リスク管理、リソース計画などの様々な場面で応用することで、よりデータに基づいた客観的かつ合理的な判断を下すことが可能となる。