偽陰性 (ギインセイ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

作成日: 更新日:

偽陰性 (ギインセイ) の読み方

日本語表記

偽陰性 (ギインセイ)

英語表記

false negative (フォルスネガティブ)

偽陰性 (ギインセイ) の意味や用語解説

偽陰性とは、検査や診断、検知システムなどにおいて、本来は「陽性」と判断されるべき対象を、誤って「陰性」と判断してしまう事象を指す。IT分野においては、本来であれば異常、攻撃、脅威、欠陥などとして検出されるべき事象が、システムによって正常と誤認識され、見逃されてしまう状態を意味する。対義語は「偽陽性」であり、これは本来は正常なものを異常と誤って判断してしまうことである。偽陽性は、過剰なアラートや不要な対応を発生させる問題であるが、一方で偽陰性は、対処すべき問題の存在そのものを見過ごしてしまうため、セキュリティインシデントやシステム障害といった、より深刻な事態を引き起こす直接的な原因となり得る。したがって、システムエンジニアは、この偽陰性の概念を正しく理解し、そのリスクを常に念頭に置いてシステムを設計、構築、運用することが極めて重要である。 詳細を述べると、偽陰性はITシステムの様々な場面で発生しうる。最も代表的な例は、サイバーセキュリティの領域である。例えば、ウイルス対策ソフトが新種のマルウェアに感染したファイルを検知できず、安全なファイルとして扱ってしまうケースは典型的な偽陰性だ。この結果、マルウェアはシステム内部に侵入し、情報の窃取やシステムの破壊といった活動を開始する。同様に、ネットワークへの不正なアクセスを監視する侵入検知システム(IDS)や侵入防止システム(IPS)が、巧妙に偽装された攻撃通信を正常な通信と判断し、見逃してしまう場合も偽陰性にあたる。また、迷惑メールフィルタが、悪意のあるフィッシングサイトへ誘導するメールを通常のビジネスメールと誤認し、ユーザーの受信トレイに届けてしまう事象も、利用者を危険に晒す深刻な偽陰性の一つである。 セキュリティ分野以外でも偽陰性は重大な問題となる。ソフトウェア開発における品質保証のプロセスでは、プログラムのバグを検出するためのテストが行われる。このテスト工程で、自動化されたテストツールがプログラム内に存在するはずの致命的な欠陥を見つけ出すことができず、「テストは問題なく完了した」と報告するケースが偽陰性である。この誤った結果を信じてソフトウェアをリリースすれば、市場で大規模なシステム障害やデータ破損を引き起こし、企業の信頼を著しく損なう可能性がある。さらに、システムの安定稼働を支える監視ツールの領域でも偽陰性は発生する。サーバーのCPU使用率やメモリ使用量が危険な水準に近づいているにもかかわらず、監視システムがその兆候を検知できず、「システムは正常に稼働中」というステータスを表示し続ければ、管理者は対応の機会を失い、突然のサービス停止といった事態を招くことになる。 偽陰性が発生する原因は多岐にわたる。第一に、検知ルールの不備や陳腐化が挙げられる。ウイルス対策ソフトが用いる定義ファイルや、IDSが参照する攻撃パターンデータベース(シグネチャ)が最新の状態に更新されていなければ、日々生まれる新しい脅威に対応できず、見逃しが発生する。第二に、検知感度を決定する「閾値」の設定が不適切な場合がある。例えば、異常アクセスの検知において、「1秒間に100回以上のアクセスがあった場合に警告する」という閾値を設定した場合、攻撃者が毎秒99回のアクセスでゆっくりと攻撃を進めれば、システムはそれを検知できない。偽陽性を減らしたいという意図から閾値を高く設定しすぎると、その代償として偽陰性が増加するというトレードオフの関係が存在する。第三に、攻撃手法の高度化や検出ロジックそのものの限界も原因となる。攻撃者がコードを難読化したり、通信を暗号化したりすることで、既存の検出メカニズムを回避しようと試みるためだ。 このような深刻な影響をもたらす偽陰性を低減させるためには、複合的な対策が不可欠である。まず、ウイルス定義ファイルやシステムのルールセットを常に最新の状態に保つことは基本中の基本である。それに加えて、単一の防御策に依存しない「多層防御」の考え方が重要となる。例えば、ネットワークの入口でファイアウォールやIPSを設置し、各端末にはウイルス対策ソフトやEDR(Endpoint Detection and Response)を導入するなど、複数の異なる検知ポイントを設けることで、一つの仕組みが脅威を見逃しても、他の仕組みで捕捉できる可能性を高める。また、既知の攻撃パターンに依存するシグネチャベースの検知だけでなく、システムの平常時の振る舞いを学習し、それと異なる異常な挙動を検知する「振る舞い検知」や「ヒューリスティック分析」といった技術を併用することも、未知の脅威に対する有効な対策となる。ソフトウェアテストにおいては、テストケースの網羅性を高め、あらゆる利用状況を想定したシナリオを準備することが、バグの見逃しを防ぐ上で重要だ。システムエンジニアは、偽陰性が「見えない脅威」として常に存在しうることを認識し、継続的なシステムの改善、監視体制の強化、そして最新の技術動向の把握に努める責任がある。

偽陰性 (ギインセイ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説