全二重 (ゼンニジュウ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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全二重 (ゼンニジュウ) の読み方

日本語表記

全二重 (ゼンニジュウ)

英語表記

Full Duplex (フルデュプレックス)

全二重 (ゼンニジュウ) の意味や用語解説

「全二重(Full Duplex)」とは、データ通信において、送信と受信を同時に行うことができる通信方式である。これは、通信路を双方向に利用し、かつその利用が同時並行で可能な状態を指す。データが一方通行の「単一方向(Simplex)」や、双方向だが同時には片方向しか通信できない「半二重(Half Duplex)」とは異なり、高い効率と性能を発揮する。現代のほとんどのネットワーク通信、特にイーサネットにおいては、この全二重方式が標準的に採用されており、システムエンジニアが理解すべき基本的な概念の一つである。全二重通信により、ネットワーク機器間やコンピュータ間でデータのやり取りが円滑に行われ、アプリケーションの快適な動作を支えている。 全二重通信がどのようにして実現されるかという点では、多くの場合、送信用の通信路と受信用の通信路が物理的または論理的に完全に分離されていることが鍵となる。例えば、一般的なイーサネットで使われるUTPケーブル(カテゴリ5eや6など)には8本の線(4対のツイストペア)が含まれているが、100BASE-TXや1000BASE-Tの全二重通信では、そのうち2対を送信専用、別の2対を受信専用として割り当てることで、信号の干渉なしに同時双方向通信を可能にしている。これにより、データが送信されている間も受信が可能であり、その逆も同様であるため、実質的に通信のスループットを向上させることができる。 全二重通信の最大の利点は、通信効率の大幅な向上と、それに伴う衝突(コリジョン)の回避である。半二重通信では、複数のデバイスが同時にデータを送信しようとすると衝突が発生し、データの再送が必要となるため、通信速度が低下する。これを防ぐためにCSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)といった衝突検知・回避の仕組みが用いられるが、全二重通信では送信と受信の経路が独立しているため、そもそも衝突が発生する可能性がない。そのため、CSMA/CDのような複雑なプロトコルは不要となり、純粋に通信路の帯域を最大限に活用できる。理論上、全二重通信では片方向の通信速度の2倍の速度でデータの送受信が可能となる。例えば、100Mbpsの全二重イーサネットの場合、送信で100Mbps、受信で100Mbpsの合計200Mbps相当のデータ転送能力を持つことになる。 この高い効率性は、ファイル転送、Webブラウジング、ビデオ会議、VoIP(Voice over IP)電話、オンラインゲームなど、現代のほとんどのネットワークアプリケーションにおいて非常に重要である。特に、リアルタイム性を要求される音声や映像の通信では、送信と受信の遅延が少ない全二重通信が不可欠である。 全二重通信を実現するためには、通信を行う両方のデバイスが全二重に対応し、かつそのモードで設定されている必要がある。ネットワークインターフェースカード(NIC)やスイッチングハブなどのネットワーク機器は、通常、全二重に対応している。多くの機器では「オートネゴシエーション」という機能が搭載されており、接続された両方の機器が互いに通信能力(速度やデュプレックスモード)を通知し合い、最適な通信モード(例えば、1000Mbps全二重)を自動的に決定する。これにより、ユーザーが手動で設定する必要なく、最適なパフォーマンスを引き出すことが可能となる。ただし、オートネゴシエーションが正しく機能しない場合や、特定の環境下では、手動で全二重モードに固定設定することもあるが、その場合は接続先の機器も同じモードに設定する必要がある。 過去のイーサネット環境では、共有メディアである同軸ケーブルやハブが用いられることが多く、これらの環境ではデータの衝突を避けるために半二重通信が一般的であった。しかし、スイッチングハブの登場により、各ポートが独立したコリジョンドメイン(衝突ドメイン)を持つことが可能となり、これにより各ポート間の通信を全二重で確立することが一般的になった。スイッチングハブは、接続されたデバイス間で専用の通信経路を確立し、他のデバイスの通信と干渉することなく、同時にデータの送受信を行うことを可能にする。 全二重通信は、有線LANだけでなく、無線LANの一部技術(MIMOなど)や、携帯電話網におけるFDD(周波数分割二重方式)やTDD(時分割二重方式)といった無線通信技術、さらにはUSBやPCI Expressといったコンピュータ内部のバス通信など、様々な分野でその原理が応用されている。システムエンジニアにとって、全二重の概念を深く理解することは、ネットワークの設計、トラブルシューティング、パフォーマンス最適化において不可欠な知識となる。

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