カルノー図 (カルノーズ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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カルノー図 (カルノーズ) の読み方

日本語表記

カルノー図 (カルノーズ)

英語表記

Karnaugh map (カルノーマップ)

カルノー図 (カルノーズ) の意味や用語解説

カルノー図は、デジタル回路の設計において、複雑な論理式を視覚的かつ効率的に簡略化するための手法である。システムエンジニアを目指す上で、デジタル回路の基礎を理解することは不可欠であり、その中で論理式の簡略化は、回路の性能、コスト、信頼性に直接影響を与える重要な工程だ。カルノー図はこの簡略化を直感的かつ体系的に行うツールとして広く利用されている。 デジタルシステムは、論理ゲート(AND、OR、NOTなど)の組み合わせによって実現される。これらの論理ゲートは、特定の入力信号の組み合わせに基づいて出力信号を生成する。論理式は、この入力と出力の関係を数学的に表現したものだ。例えば、2つの入力AとBがあるときに、AかつBが真であれば出力も真となる回路は、論理式でA・B(A AND B)と表される。しかし、より複雑な機能を実現しようとすると、論理式は非常に長大で複雑になることがある。 このような複雑な論理式をそのまま回路として実装すると、使用する論理ゲートの数が多くなる。ゲート数が増えることは、回路基板上の占有面積の増大、消費電力の増加、信号伝搬遅延の悪化、そして製造コストの上昇といった様々なデメリットをもたらす。また、ゲート数の増加は故障の発生確率を高める要因にもなり得る。そのため、同じ論理機能を実現する論理式の中で、最も単純な形(すなわち、最も少ないゲート数で実現できる形)を見つけ出すことが、効率的で高性能なデジタル回路を設計する上で極めて重要となる。この過程が「論理式の簡略化」である。 論理式の簡略化には、ブール代数の定理を用いる代数的手法も存在するが、これは経験やひらめきに頼る部分が大きく、複雑な式になると簡略化の見落としや間違いが生じやすいという課題がある。カルノー図は、このような代数的手法の欠点を補い、視覚的に、かつ系統的に最適な簡略化を行うことを可能にする。特に、入力変数の数が2つから4つ程度の論理式に対して、その有効性を最大限に発揮する。 カルノー図は、真理値表(論理回路の全ての入力パターンとそれに対応する出力パターンを一覧にした表)を特殊な配置の格子状の図に変換したものと理解できる。この格子状の図の各セルは、特定の入力変数の組み合わせ、すなわち「minterm(最小項)」または「maxterm(最大項)」に対応する。mintermは、特定の入力パターンが全て「1」となる積の項を指し、maxtermは特定の入力パターンが全て「0」となる和の項を指す。カルノー図では、これらのセルを、隣接するセルの入力変数が常に1ビットのみ異なるように配置する「グレイコード」の順序に従って並べるのが特徴だ。このグレイコード順序が、カルノー図による簡略化の鍵となる。 簡略化のプロセスでは、まず真理値表から得られた出力「1」(積和形の場合)または出力「0」(和積形の場合)をカルノー図の対応するセルに記入する。次に、隣接する「1」のグループ(または「0」のグループ)を見つけ出し、これらを囲んでいく。ここでいう「隣接」とは、上下左右だけでなく、図の端と端(つまり、折り返した向こう側)も隣接しているとみなす点に注意が必要だ。例えば、4変数カルノー図の場合、左端の列と右端の列、上端の行と下端の行はそれぞれ隣接していると考える。これは、グレイコード順序により、これらの端のセル間でも入力変数が1ビットしか異ならないためである。 グループを形成する際には、2のべき乗(2個、4個、8個など)のセルを囲むようにする。このグループ化によって、グループ内のセル間で共通しない変数を消去できる。例えば、A・B・CとA・B・C'(C'はCの否定)という2つのmintermが隣接している場合、これらはA・B(CとC'が消去される)に簡略化できる。カルノー図上で視覚的にこれを行うことで、代数計算を行うことなく、どの変数が消去できるかを一目で判断できるのだ。目標は、全ての「1」(または「0」)をカバーするように、できるだけ少ない数の、できるだけ大きなグループを形成することだ。最大のグループを形成することは、最も多くの変数を消去し、最も簡略化された項を得ることを意味する。全ての「1」(または「0」)をカバーする最小限のグループを選び出すことで、最終的な簡略化された論理式が得られる。 カルノー図を用いた論理式の表現形式には、主に「積和形(SOP: Sum of Products)」と「和積形(POS: Product of Sums)」がある。積和形は、真理値表の出力が「1」となるmintermをグループ化し、それらを論理和(OR)で結合した形だ。これは「ANDゲートの出力をORゲートで結合する」回路に対応する。一方、和積形は、出力が「0」となるmaxtermをグループ化し、それらを論理積(AND)で結合した形である。これは「ORゲートの出力をANDゲートで結合する」回路に対応する。どちらの形式も同じ論理機能を実現できるが、回路の特性や使用可能なゲートの種類、また最終的に得られるゲート数などに応じて適切な方を選択する。カルノー図では、「1」のグループ化によってSOPを、「0」のグループ化によってPOSをそれぞれ直感的に導出できる。 カルノー図は、その視覚的な特性から、論理式の簡略化に非常に強力なツールとなる一方で、いくつかの限界も持つ。最も顕著な限界は、扱える入力変数の数だ。2変数、3変数のカルノー図は比較的単純で容易に扱えるが、4変数になると図が少し複雑になり、グループ化の見落としや間違いが生じやすくなる。そして、5変数以上になると、視覚的に隣接関係を把握することが極めて困難になり、カルノー図による簡略化は実用的ではなくなる。このような多変数の論理式を簡略化する場合には、クワイン・マクラスキー法のようなアルゴリズム的な手法が用いられる。しかし、多くの実際のデジタル回路設計において、重要なサブシステムやモジュールは4変数以下の論理で構成されることが多く、カルノー図は依然としてデジタル回路設計者が習得すべき基本かつ強力なスキルの一つである。 システムエンジニアとしてデジタルシステムの理解を深めることは、ハードウェアとソフトウェアの連携を考える上で重要だ。カルノー図の理解は、単に論理式を簡略化する手法を知るだけでなく、論理回路の最適化がどのように行われるか、そしてそれがシステムのパフォーマンスやコストにどう影響するかという、より深い洞察を得る手助けとなるだろう。

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