相変化メモリ (ソウヘンカメモリ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
相変化メモリ (ソウヘンカメモリ) の読み方
日本語表記
相変化メモリ (ソウヘンカメモリ)
英語表記
Phase-Change Memory (フェーズチェンジメモリ)
相変化メモリ (ソウヘンカメモリ) の意味や用語解説
相変化メモリは、Phase Change Memory(PCM)とも呼ばれ、電源を供給しなくても記憶した情報を保持できる不揮発性メモリの一種である。このメモリの最大の特徴は、特殊な材料の物理的な状態変化を利用してデータを記録する点にある。具体的には、カルコゲナイド系合金と呼ばれる材料が用いられ、この材料が「アモルファス(非晶質)状態」と「結晶(クリスタル)状態」という二つの異なる相(状態)を取りうる性質を利用する。アモルファス状態は原子が不規則に並んだ状態であり、高い電気抵抗を持つ。一方、結晶状態は原子が規則正しく整列した状態であり、低い電気抵抗を示す。この二つの状態の電気抵抗値の大きな違いを、デジタルデータの「0」と「1」に対応させることで、情報の記憶を実現する。相変化メモリは、現在主流であるDRAMの高速性と、NANDフラッシュメモリの不揮発性という、両者の利点を併せ持つ可能性を秘めた次世代メモリ技術として注目されている。 さらに詳細な動作原理について解説する。データの書き込み、すなわち相変化を引き起こすためには、メモリセル内のヒーターに電流を流してカルコゲナイド材料を加熱する。データを「0」として記録するアモルファス状態にする場合(リセット動作)、材料の融点を超える高温まで短時間で一気に加熱し、その後、急激に冷却する。これにより、原子は規則的に整列する時間を与えられず、ランダムな配置のアモルファス状態のまま固まる。逆に、データを「1」として記録する結晶状態にする場合(セット動作)、材料の融点よりは低く、結晶化が始まる温度以上の温度まで、比較的長い時間をかけて穏やかに加熱する。これにより、原子は規則的に再配列する時間を得て、安定した結晶状態へと変化する。データの読み出しは、書き込み時よりもはるかに低い電圧をメモリセルに印加して行われる。この電圧によって流れる電流の量を測定し、電気抵抗が高いか低いかを判別することで、そのセルがアモルファス状態(0)なのか結晶状態(1)なのかを判断し、記録されたデータを読み出す。 相変化メモリにはいくつかの優れた長所がある。第一に、高速な動作性能が挙げられる。読み取り速度はDRAMに迫るレベルであり、書き込み速度もNANDフラッシュメモリよりも大幅に高速である。第二に、高い書き換え耐性を持つ。NANDフラッシュメモリが酸化膜の劣化により書き換え回数に上限があるのに対し、相変化メモリは物理的な相変化を利用するため、原理的に劣化が少なく、より多くの書き換えに耐えることができる。第三に、ビット単位での書き換えが可能である。NANDフラッシュメモリは、データを書き換える際に一度ブロック単位で消去する必要があるが、相変化メモリは書き換えたいビットのデータだけを直接上書きできるため、処理の遅延が少なく、管理も容易になる。また、構造がシンプルなため、製造プロセスの微細化を進めやすいというスケーラビリティの利点も持つ。 一方で、実用化における課題も存在する。書き込み動作、特にアモルファス化するためのリセット動作には、瞬間的に大きな電流を必要とするため、消費電力が比較的高くなる傾向がある。また、アモルファス状態の電気抵抗値が時間の経過とともにわずかに変化する「抵抗ドリフト」という現象があり、これがデータの信頼性に影響を与える可能性があるため、対策が必要となる。製造コストも、まだ普及が進んでいるNANDフラッシュメモリに比べると高い。さらに、高温環境下ではアモルファス状態が不安定になりやすく、データ保持特性が低下する懸念もある。 このような特性から、相変化メモリは、コンピュータのメモリ階層において、主記憶装置であるDRAMと補助記憶装置であるSSDなどの中間に位置する「ストレージクラスメモリ(SCM)」としての役割が期待されている。DRAMとストレージの間には大きな性能差(レイテンシギャップ)が存在するが、相変化メモリをこの間に配置することで、システム全体のデータアクセス性能を飛躍的に向上させることができる。既に、高速なデータアクセスが求められるデータセンターのサーバ用ストレージやキャッシュメモリとして製品化された実績もある。将来的には、一つのメモリセルに複数のビット情報を記録する多値化技術によってさらなる大容量化が進むことや、その物理的な動作原理が人間の脳のシナプスに似ていることから、AI分野で注目されるニューロモーフィックコンピューティングへの応用も研究されている。