委譲(イジョウ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

委譲(イジョウ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

いじょう (イジョウ)

英語表記

delegation (デレゲーション)

用語解説

「委譲」とは、オブジェクト指向プログラミングにおける設計手法の一つで、あるオブジェクトが自身の持つべき特定の責任や処理を、別のオブジェクトに「任せる」ことを指す。これは、オブジェクトが直接その処理を実行する代わりに、内部に保持している別のオブジェクトの機能を利用することで、その処理を実現する考え方である。これにより、システム全体の柔軟性や保守性を高め、コードの再利用性を促進する。

より詳細に説明すると、委譲は、オブジェクト間の関係性を「has-a」(〜を持っている)と表現する。例えば、「自動車はエンジンを持つ」という関係性において、自動車オブジェクトがエンジンの始動や停止といった処理を直接実装するのではなく、内部に持っているエンジンオブジェクトにその処理を「委譲」する形を取る。自動車オブジェクトが「エンジンを始動する」という要求を受け取った際、自身でエンジンを始動するロジックを実行するのではなく、保持しているエンジンオブジェクトの「始動メソッド」を呼び出す、といった具合である。

この委譲の概念は、特に「継承」と比較されることでその真価が理解されやすい。継承は「is-a」(〜の一種である)の関係性を示し、子クラスが親クラスの振る舞いを「受け継ぐ」ことで機能拡張や再利用を図る。しかし、継承にはいくつかの課題がある。例えば、親クラスと子クラスは非常に強く結合するため、親クラスの変更が子クラスに意図しない影響を与える「脆弱な基底クラス問題」や、単一継承しか許されない言語における機能の組み合わせの難しさ(多重継承問題)などが挙げられる。また、一度継承関係を構築すると、実行時にその振る舞いを動的に変更することが難しいという側面もある。

これに対し、委譲はオブジェクト間の結合度を低く保つことができる。委譲元オブジェクトは、委譲先オブジェクトの具体的なクラスに直接依存するのではなく、インターフェースや抽象クラスといった抽象的な契約に依存することが多い。これにより、委譲元オブジェクトは、委譲先の具体的な実装を知ることなく、その機能を利用できる。その結果、委譲先オブジェクトの実装を変更しても、委譲元オブジェクトに影響を与えにくくなる。また、実行時に委譲先オブジェクトを別の実装を持つオブジェクトに差し替えることで、委譲元オブジェクトの振る舞いを動的に変更できるという大きな柔軟性を持つ。

委譲の具体的なメカニズムは、まず委譲元となるオブジェクトが、委譲したい処理を実装する別のオブジェクトのインスタンスを内部フィールドとして保持する。そして、委譲元オブジェクトが自身に対するメソッド呼び出しを受け取った際に、その呼び出しを内部で保持している委譲先オブジェクトの対応するメソッドに転送する、という流れが一般的である。この転送メソッドは、多くの場合、委譲元オブジェクトが実装するインターフェースのメソッドに対応している。

委譲を採用する利点は多岐にわたる。まず、高い柔軟性を得られる点である。実行時に委譲先のオブジェクトを差し替えることで、一つのオブジェクトが状況に応じて異なる振る舞いを示すことができる。次に、結合度の低減である。委譲元と委譲先が疎結合になるため、片方の変更がもう一方に与える影響が最小限に抑えられ、システムの保守性が向上する。また、コードの再利用性が高まる。既存のクラスの機能をそのまま利用したい場合、継承ではなく委譲を使うことで、そのクラスの内部実装の詳細に依存することなく、特定の機能だけを借りてくるような使い方が可能になる。これは、フレームワークやライブラリの部品を組み合わせてアプリケーションを構築する際に特に有効である。さらに、責任の分離が明確になるため、各オブジェクトが単一の責任を持つようになり、コードの可読性やテスト容易性も向上する。例えば、特定の機能をテストしたい場合、委譲先オブジェクトだけを独立してテストしたり、モックオブジェクトに置き換えたりすることが容易になる。

一方で、委譲には考慮すべき点も存在する。単純なケースでは、委譲のために転送メソッドを記述する手間が増えることがある。全てのメソッド呼び出しを委譲先に転送する必要がある場合、コードの記述量が増加する可能性がある。ただし、現代のプログラミング言語には、このような手間を軽減するためのシンタックスシュガー(構文糖)や設計パターン(例:デコレーターパターン)が存在することも多い。また、処理の呼び出しが一段階増えるため、コードの追跡がわずかに複雑になる可能性もゼロではない。しかし、これらの欠点は、委譲がもたらす柔軟性や保守性の向上という大きなメリットに比べれば、多くの場合、許容範囲内であるとされている。

このように、委譲はオブジェクト指向設計において、継承が持つ課題を克服し、より柔軟で保守性の高いシステムを構築するための強力な手段となる。オブジェクト間の緩やかな結合を促進し、実行時の振る舞いの変更を可能にすることで、変化に強いソフトウェア開発に貢献する重要な概念である。

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