擬似乱数 (ギジラン スウ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
擬似乱数 (ギジラン スウ) の読み方
日本語表記
ぎじらんすう (ギジラン スウ)
英語表記
pseudorandom number (シュードランダムナンバー)
擬似乱数 (ギジラン スウ) の意味や用語解説
擬似乱数とは、一見すると不規則でランダムに見える数値の列でありながら、実際には確定的な計算アルゴリズムによって生成される数値のことである。コンピュータプログラムで乱数が必要な場合、その多くはこの擬似乱数が利用されている。擬似乱数は「擬似」という言葉が示す通り、真の乱数とは本質的に異なる。真の乱数は、サイコロを振る、コインを投げる、あるいは原子の放射性崩壊といった、結果を原理的に予測できない物理現象に基づいて生成される。これに対して擬似乱数は、計算式と初期値さえ分かっていれば、誰でも同じ数列を再現できる予測可能なものである。この予測可能性と再現性が、擬似乱数の最も重要な特徴となる。 擬似乱数を生成するアルゴリズムは、擬似乱数生成器(Pseudo-Random Number Generator, PRNG)と呼ばれる。擬似乱数生成器は、計算の出発点となる「シード(種)」と呼ばれる初期値を必要とする。このシード値を基に、定められた計算手順を繰り返し実行することで、次々と新しい数値を生成していく。例えば、非常に単純なアルゴリズムとして線形合同法がある。これは、現在の数値に特定の定数を掛け、別の定数を足し合わせた後、さらにある数で割った余りを次の数値とする、という計算を繰り返すものである。この計算は完全に決定的であるため、同じシード値を与えれば、何度実行しても必ず全く同じ順序で同じ数値の列が生成される。この「再現性」は、擬似乱数の大きな利点である。科学技術計算におけるシミュレーションや、ソフトウェアのデバッグ作業において、同じ条件で何度も現象を再現したい場合に非常に役立つ。 擬似乱数にはいくつかの重要な性質がある。まず、前述の再現性に加えて「周期性」が挙げられる。擬似乱数生成器は有限の状態しか取れないため、生成される数列はいつか必ず過去に出現した数値に戻り、そこから先は同じパターンの繰り返しとなる。この繰り返しが始まるまでの数列の長さを「周期」と呼ぶ。良質な擬似乱数生成器は、この周期が非常に長いことが求められる。例えば、広く利用されているメルセンヌ・ツイスターというアルゴリズムは、2の19937乗マイナス1という天文学的な長さの周期を持ち、実用上は同じ数列が繰り返される心配はほとんどない。また、生成される数値の統計的性質も重要である。具体的には、特定の範囲の数値がほぼ均等な確率で出現する「一様性」や、ある数値の次にどの数値が出現するかに相関がない「無相関性」などが求められる。これらの性質が低いと、生成された数値に偏りが生じ、シミュレーションの結果が不正確になったり、ゲームの面白さが損なわれたりする原因となる。 擬似乱数は真の乱数と比較して、いくつかの明確な長所と短所を持つ。最大の長所は、ソフトウェアによる計算のみで生成できるため、非常に高速に大量の乱数を生成できる点である。一方、真の乱数は物理現象を観測する必要があるため、生成速度に限界がある場合が多い。また、擬似乱数の再現性は、デバッグや検証の場面では利点となるが、セキュリティが要求される場面では致命的な弱点になり得る。アルゴリズムとシード値が第三者に知られてしまうと、生成される乱数列全体が予測されてしまうからである。そのため、用途に応じて擬似乱数と真の乱数を使い分ける必要がある。 擬似乱数の応用範囲は極めて広い。コンピュータシミュレーションでは、交通渋滞の予測、金融市場のモデル化、物理現象の再現など、確率的な要素を含む様々な事象を模擬するために不可欠である。コンピュータゲームにおいては、敵キャラクターの出現パターン、アイテムのドロップ確率、マップの自動生成など、プレイするたびに異なる体験を生み出すために用いられる。また、統計学においては、母集団からランダムに標本を抽出するサンプリング処理にも利用される。 特にセキュリティが重要な暗号技術の分野では、通常の擬似乱数とは区別される「暗号論的擬似乱数生成器(Cryptographically Secure Pseudo-Random Number Generator, CSPRNG)」が使用される。CSPRNGは、生成された数列の一部から過去あるいは未来の値を予測することが計算量的に極めて困難である、という強固なセキュリティ要件を満たすように設計されている。これにより、たとえアルゴリズムが公開されていても、シード値が秘密に保たれている限り、安全な乱数として利用できる。暗号鍵の生成、通信を保護するための一時的な数値(ノンス)の作成など、予測不可能性がシステムの安全性を直接左右する場面で必須の技術である。 結論として、擬似乱数は、確定的な計算によって生成される再現可能な数値列でありながら、統計的にはランダムに見えるように設計されたものである。その高速性や再現性といった特性から、シミュレーション、ゲーム、統計処理など、ITシステムの様々な場面で基盤技術として活用されている。一方で、予測可能であるという性質から、高度なセキュリティが求められる用途では、CSPRNGのような特別な配慮がなされた生成器を選択することが極めて重要となる。システムエンジニアは、この擬似乱数の特性を正しく理解し、目的や要件に応じて最適な乱数生成手法を選択する能力が求められる。