【ITニュース解説】「AIの使用が脳を再プログラムし認知能力の低下につながることがMITの研究で判明」というのは本当なのか?
2025年09月11日に「GIGAZINE」が公開したITニュース「「AIの使用が脳を再プログラムし認知能力の低下につながることがMITの研究で判明」というのは本当なのか?」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
「AI利用で認知能力が低下する」というMIT研究の報道が話題になった。しかし、研究者の意図とは異なり、内容に問題があるとの指摘も出ている。
ITニュース解説
最近、「AIを使うと脳が再プログラムされ、認知能力が低下する」という衝撃的なニュースが世間を賑わせた。しかし、この情報がどこまで真実なのか、そしてその背後にある本来の研究内容は何だったのか、正しく理解する必要がある。この話題は、マサチューセーッツ工科大学(MIT)の研究者が発表した一つの論文が発端となっているが、その内容が意図しない形でセンセーショナルに報じられ、誤解が広がってしまったのが実情だ。
この騒動の元となった研究は、「ChatGPT使用時の脳:エッセイ執筆タスクにAIアシスタントを使用した際の認知負債の蓄積」というタイトルで、プレプリントとして公開されたものだ。プレプリントとは、まだ学術雑誌の査読を受けていない段階の論文を指す。つまり、専門家による厳密な評価や検証を経ていない、速報的な研究成果だということ。この段階で発表されることで、研究者は早く自身のアイデアを共有し、他からのフィードバックを得ることができるが、一方でその内容がまだ最終的なものではないという注意も必要になる。
研究の本来の意図は、「AIアシスタント、特にChatGPTのような大規模言語モデルを文章作成タスクに利用した際に、人間の認知プロセスにどのような影響があるか」を探ることだった。ここで注目されたのが「認知負債」という概念だ。システムエンジニアを目指す皆さんにとって、「負債」という言葉は、例えば技術負債のように、将来的に解決が必要な問題やコストを指す言葉として馴染みがあるかもしれない。認知負債とは、AIに思考プロセスの一部を代行させることで、本来人間が自分で思考したり、問題を解決したりする際に使うべき認知資源(記憶力、注意力、論理的思考力など)を使わなくなり、結果としてその能力が十分に発達しなかったり、あるいは既存の能力が衰えたりする可能性を指す。
具体的には、エッセイ執筆のような創造的で思考力を要するタスクにおいて、AIに文章生成を全面的に頼りすぎると、人間側は情報を構造化したり、論理的なつながりを考えたりするプロセスをAIに任せてしまう。これにより、一見すると効率的に作業が進むように見えるが、長期的には自身の思考力や問題解決能力を鍛える機会が失われてしまう可能性がある、と研究は示唆している。つまり、AIは強力なツールであり、適切に使えば生産性を向上させるが、依存しすぎると人間の認知的な能力が衰えるかもしれない、という警告を鳴らしたものだったのだ。
しかし、この研究が「AIが脳を再プログラムし認知能力を低下させる」という形で広まってしまったのは、情報の伝わり方に問題があったためだ。多くの場合、ニュースのタイトルや見出しだけが注目され、元々の研究の細かな内容や前提条件、そして「プレプリント」という性質が見落とされがちだ。センセーショナルな表現は人々の関心を引きやすいが、それが必ずしも正確な情報伝達につながるとは限らない。このケースも、研究者が提起した「AIへの過度な依存がもたらす認知的な影響」という慎重な指摘が、「AIが脳を直接的に破壊する」といった極端な解釈にすり替わってしまった典型的な例と言える。
さらに、研究者の意図とは別に、その研究内容自体にも疑問が投げかけられている点も重要だ。科学的な研究は、その実験方法、被験者の選定、データの解析方法、そして導き出された結論の妥当性など、多角的に評価される必要がある。今回のMITの研究についても、「実験設計に問題がある」「結論を裏付けるデータが不十分である」といった批判的な意見が存在する。これは、科学が常に自己修正を繰り返し、より信頼性の高い知見を目指すプロセスの一部であり、一つの研究結果が直ちに絶対的な真理として受け入れられるわけではないことを示している。
システムエンジニアを目指す皆さんにとって、この一連の騒動は多くの教訓を与えてくれる。まず、AIをはじめとする最新テクノロジーは、私たちの生活や仕事に計り知れない影響を与えるが、その影響は常にプラス面ばかりではないという事実だ。AIは単なる道具であり、その使い方次第で私たちの能力を拡張することもできれば、逆に依存しすぎることで本来持っている能力を退化させてしまう可能性もはらんでいる。特に、プログラミングやシステム設計、問題解決といったシステムエンジニアの業務は、高度な論理的思考力や創造性が求められる。AIを効率化のツールとして活用しつつも、肝心な思考プロセスをAIに丸投げするのではなく、自らの頭で深く考え、試行錯誤する機会を大切にすることが、自身のスキルアップには不可欠だ。
また、情報リテラシーの重要性も再認識させられる。インターネット上には日々膨大な情報が溢れており、その中には誤解に基づいたものや、意図的に誇張されたものも少なくない。一つのニュースや研究結果に接した際には、その情報源はどこか、どのような背景で発表されたものか、そしてそれが「プレプリント」のような速報段階のものなのか、それとも査読済みの正式な論文なのか、といった点を注意深く確認する習慣を身につけることが重要だ。複数の情報源を参照し、批判的な視点を持って情報を評価する能力は、IT業界で働く上で非常に価値のあるスキルとなるだろう。
AI技術はこれからも進化を続け、社会への浸透はさらに加速するだろう。システムエンジニアとして、AIを開発する立場、あるいはAIをビジネスで活用する立場になったとき、単に技術的な側面だけでなく、それが人間に与える認知的な、あるいは倫理的な影響についても深く考察する視点が求められる。技術の力は素晴らしいものだが、その力が人間の本質的な能力を損なわないよう、賢明な利用とバランスの取れた関わり方を模索していくことが、これからの私たちに課せられた重要な課題だ。今回のMITの研究騒動は、AI時代を生きる上で、私たち自身がどうあるべきかを問い直す良い機会を与えてくれたと言えるだろう。