【ITニュース解説】ダイハツ工業、「テックタッチ」で人事システムの運用効率と利便性を向上

多くの企業では、業務を効率化するために様々な社内システムが導入されている。その中でも、全従業員が利用する人事システムは、勤怠管理や経費精算、各種申請など、日々の業務に不可欠な存在である。しかし、利用者が多いということは、それだけ操作方法に関する問い合わせも多くなることを意味する。特に、人事異動や新入社員の入社が集中する時期には、人事部門への問い合わせが殺到し、担当者の業務を圧迫するという課題が多くの企業で発生している。ダイハツ工業も同様の課題を抱えていた。従業員は操作に迷うたびに分厚いマニュアルをめくるか、人事部門に電話やメールで問い合わせる必要があり、時間的なロスが生じていた。また、システムの使い勝手を改善しようにも、大規模なシステム改修には多大な時間とコストがかかるため、頻繁に対応することは現実的ではなかった。

こうした課題を解決するために、ダイハツ工業が採用したのが「テックタッチ」というソリューションである。これは、デジタルアダプションプラットフォーム（DAP）と呼ばれる種類に分類されるツールだ。デジタルアダプションプラットフォームとは、直訳すると「デジタルの定着を支援する基盤」となり、既存のWebシステムに後から操作ガイドや説明を追加することで、ユーザーが迷わずにシステムを使えるように支援するものである。具体的には、システムの画面上に、「次はこのボタンをクリックしてください」「ここには半角数字で入力してください」といった案内をリアルタイムで表示させることができる。これにより、ユーザーはマニュアルを読むことなく、直感的に操作を進めることが可能になる。

テックタッチの大きな特徴の一つは、プログラミングのコードを書くことなく、これらのガイドを設定できる「ノーコード」という点にある。通常、システムの表示内容を変更するには、システムエンジニアがプログラムを修正し、テストを行い、本番環境に反映するという手順が必要で、時間も専門知識も要求される。しかし、テックタッチのようなノーコードツールを使えば、システムの専門家ではない人事部門の担当者などが、画面操作だけでガイドの作成や修正を行える。例えば、「4月の申請時期によくある質問」に対応するガイドを、人事部門が即座に作成してシステム上に表示させるといった対応が可能になる。これは、従来のシステム改修のプロセスとは比較にならないほどのスピード感を実現する。

ダイハツ工業では、このテックタッチを人事システムに導入し、特にお問い合わせの多かった操作手順に対して、ステップバイステップで案内するナビゲーションを設定した。また、入力ミスが発生しやすい項目には、入力規則を示すツールチップ（補足説明）を表示させるようにした。その結果、従来は人事部門に集中していた操作方法に関する問い合わせが大幅に削減されたという。従業員はシステム画面上のガイドに従うだけで自己解決できるようになったため、業務の効率が向上し、人事部門の担当者は問い合わせ対応に追われることなく、本来注力すべきコア業務に時間を割けるようになった。

この事例は、システム開発や運用を考える上で重要な示唆を与えている。システムは単に機能を提供するだけでなく、いかにユーザーにスムーズに使ってもらうかという「利用体験（ユーザーエクスペリエンス、UX）」が極めて重要である。そして、そのUXを向上させるための手段は、必ずしも大規模なシステム改修だけではない。DAPのようなツールを活用することで、既存のシステムに大きな変更を加えることなく、低コストかつ迅速に使い勝手を改善できる。システムエンジニアを目指す者にとっては、プログラミングによる機能開発のスキルはもちろん重要だが、同時に、ユーザーが直面する課題を理解し、今回のような外部ツールを活用して解決策を提案するという視点も、今後ますます求められることになるだろう。システムの価値は、その機能性だけでなく、ユーザーにどれだけ受け入れられ、活用されるかによって決まるのである。