【ITニュース解説】Disrupting the DRAM roadmap with capacitor-less IGZO-DRAM technology

2025年09月09日に「Hacker News」が公開したITニュース「Disrupting the DRAM roadmap with capacitor-less IGZO-DRAM technology」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

DRAMメモリの微細化の限界を打破する新技術が登場。電気を蓄えるキャパシタをなくし、IGZOという特殊な半導体材料を用いたトランジスタだけでデータを保持する。このキャパシタレス構造により、メモリのさらなる高密度化、低消費電力化が期待されている。

ITニュース解説

コンピュータの性能を左右する重要な部品の一つに、DRAM(Dynamic Random Access Memory)と呼ばれるメモリがある。DRAMは、CPUが処理するデータやプログラムを一時的に記憶する役割を担っており、その容量や速度がシステム全体の快適さを大きく決定づける。これまで半導体技術の進歩は、チップ上の回路をより小さくする「微細化」によって支えられてきた。しかし、現在のDRAM技術は、この微細化の物理的な限界に直面しつつあり、将来の高性能コンピューティングの要求に応えるための新しい技術革新が求められている。このような背景の中、ベルギーの研究機関imecが発表した「キャパシタレスIGZO-DRAM」という新技術が、DRAMの進化の未来を大きく変える可能性を秘めているとして注目を集めている。

まず、従来のDRAMがどのようにデータを記憶しているかを理解する必要がある。一般的なDRAMのメモリセル、つまり情報を記憶する最小単位は、一つのトランジスタと一つのキャパシタで構成されている。トランジスタは電気の流れを制御するスイッチの役割を果たし、キャパシタは電気を一時的に溜めておく小さな容器のような役割を担う。このキャパシタに電荷が溜まっている状態を「1」、溜まっていない状態を「0」として、デジタルデータを表現する。しかし、このキャパシタは完璧な容器ではなく、溜めた電荷が時間とともに少しずつ漏れ出してしまう性質を持つ。そのため、データが消えてしまわないように、定期的に電荷を補充する「リフレッシュ」という操作が不可欠である。この構造と動作が、DRAMが「ダイナミック(動的)」と呼ばれる所以だ。問題は、DRAMを高密度化するためにセルを小さくしようとすると、キャパシタも小さくしなければならない点にある。キャパシタが小さくなると、溜められる電荷の量も減り、電荷が漏れ出す影響がより深刻になる。結果として、データを安定して保持することが困難になり、これがDRAMの微細化における大きな壁となっていた。

この根本的な課題を解決するために提案されたのが、キャパシタレスIGZO-DRAM技術である。その名の通り、この技術の最大の特徴は、データ保持に不可欠だった「キャパシタ」を不要にした点にある。キャパシタをなくすことで、メモリセルを構成する部品はトランジスタのみとなり、構造が大幅に簡素化される。これを実現する鍵となるのが、「IGZO(イグゾー)」と呼ばれる特殊な半導体材料だ。IGZOは、インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素から構成される酸化物半導体であり、ディスプレイパネルなどで既に実用化されている材料だが、メモリへの応用が期待されている。

IGZOで作られたトランジスタは、従来のシリコン製トランジスタと比較して、オフ状態、つまりスイッチが切れているときの電気の漏れ(リーク電流)が極めて少ないという卓越した特性を持つ。従来のDRAMでは、トランジスタがオフでもわずかな電流が漏れ、キャパシタの電荷が失われる一因となっていた。しかし、IGZOトランジスタを使えば、この漏れを劇的に抑えることができる。これにより、専用のキャパシタを設けなくても、トランジスタ自体が持つごくわずかな電気を溜める能力だけで、データを十分に長い時間保持することが可能になる。つまり、トランジスタがスイッチとデータ保持容器の二役を兼ねることができるのだ。この結果、メモリセルの構造を大幅に小型化でき、同じ面積のチップにより多くのメモリセルを詰め込むことが可能になる。これは、メモリの大容量化に直結する大きな利点である。さらに、この技術は3次元的な集積にも適している。IGZOトランジスタは比較的低温で製造できるため、CPUなどのロジック回路が作られたシリコンウェハーの上に、後から積み重ねるようにしてメモリ層を形成することができる。これにより、チップのフットプリント(占有面積)を増やすことなく、垂直方向にメモリ容量を拡張できるようになる。これは、チップ内のデータ転送距離を短縮し、より高速で電力効率の良いメモリシステムの実現にも繋がる。

キャパシタレスIGZO-DRAM技術は、まだ研究開発の段階にあるが、DRAMが直面するスケーリングの限界を打ち破るための非常に有望な解決策と見なされている。もしこの技術が実用化されれば、私たちの身の回りにあるコンピュータやスマートフォン、データセンターのサーバーなど、あらゆるデジタル機器の性能が飛躍的に向上する可能性がある。特に、人工知能(AI)の学習やビッグデータ解析といった、膨大な量のデータを高速に処理する必要がある分野では、大容量かつ高性能なメモリが不可欠であり、この新技術がその基盤を支えることになるだろう。従来の延長線上ではない、全く新しいアプローチによってメモリの壁を乗り越えようとするこの挑戦は、今後の半導体産業と情報化社会の未来を形作る上で、重要な一歩となるに違いない。