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【ITニュース解説】Jelly Troops におけるマルチタスクAI(Bot)

2025年09月19日に「Zenn」が公開したITニュース「Jelly Troops におけるマルチタスクAI(Bot)」について初心者にもわかりやすく解説しています。

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ITニュース概要

対戦ゲーム「Jelly Troops」に登場するAI(Bot)の仕組みを解説。このAIは人間らしい動きを目指し、ズルせず周辺情報から判断する。理不尽ではない適度な強さを持ち、強さや性格を調整できる設計だ。記事では、その開発方針と実装のポイントを紹介する。

ITニュース解説

「Jelly Troops」は、けなげなスライムたちを操作して旗を奪い合う対戦型ゲームである。このゲームには、プレイヤー同士が対戦するモードの他に、ソロミッションなどでAI(人工知能)が操作する「Bot」が対戦相手として登場する。このAIは、単にゲームをプレイするだけでなく、プレイヤーに最高のゲーム体験を提供するために、非常に綿密な設計が施されている。

このAIの実装にあたり、開発チームはいくつかの重要な方針を立てた。まず、「できるだけ人間らしいAIにする」という点である。これは、AIがプレイヤーにとって自然で、まるで人間が操作しているかのように感じられる挙動をすることを目指している。AIがあまりにも機械的であったり、完璧すぎる動きをしたりすると、プレイヤーは興ざめしてしまう可能性がある。人間らしい挙動は、ゲームへの没入感を高め、プレイヤーがAIとの対戦を通じて、より奥深い戦略的な駆け引きを楽しめるようにするために不可欠な要素なのだ。

この「人間らしさ」を実現するための一環として、「できるだけズルをしない」という原則が設けられた。一般的なゲームAIの中には、マップ全体の情報をすべて把握していたり、プレイヤーの次の行動を先読みしたりするなど、ゲームシステム上の特権を利用して有利に立ち回るものが存在する。しかし、「Jelly Troops」のAIは、このようなズルを一切行わない。AIは、プレイヤーと同じように、自分の周囲の視界から得られる情報や、味方AIとの連携によって得られた情報に基づいてのみ判断を下す。これは、AIとプレイヤーが完全に公平な条件で戦うことを意味し、プレイヤーはAIがズルをしていると感じることなく、純粋な実力で勝敗が決まるフェアなゲームプレイを楽しめる。

次に、「それなりに強いものを目指すが、理不尽なものにはしない」という方針がある。AIはプレイヤーにとっての挑戦であり、適度な難易度を提供することで、プレイヤーは勝利した時の達成感を味わうことができる。しかし、AIが常に完璧な動きをしたり、どんなに工夫してもプレイヤーに勝ち目がないような理不尽な強さであったりすると、プレイヤーはモチベーションを失ってしまう。そのため、AIの強さは、プレイヤーが試行錯誤しながらも最終的には攻略できるような、絶妙なバランスが求められる。これは、AIの設計において、技術的な性能だけでなく、プレイヤーの心理やゲーム体験を深く理解することが重要であることを示している。

そして、「パラメータで強さや性格を調整しやすくする」という方針は、上記の目標を達成するための具体的な手段である。AIの行動を決定する様々な要素、例えば、積極的に攻撃を仕掛ける傾向、防御に徹する傾向、偵察を行う頻度、特定のオブジェクトを優先する度合いなどを数値化し、それらの「パラメータ」を調整することで、AIの振る舞いを簡単に変更できるようにする。これにより、開発者はゲームの難易度を細かく設定したり、初心者向けのAI、中級者向けのAI、あるいは特定のプレイスタイルを持つAIなど、異なる「性格」を持つ多様なAIを柔軟に作成することが可能になる。これは、ゲームのテスト段階でのバランス調整を容易にするだけでなく、将来的に新しいミッションや難易度が追加される際にも、迅速かつ柔軟に対応できるシステム設計となる。

この「Jelly Troops」のAIが「マルチタスクAI」と表現されている点も、その高度な設計思想を物語っている。マルチタスクAIとは、AIが同時に複数のタスクを処理したり、状況に応じてタスクを素早く切り替えたりできる能力を持つことを指す。例えば、敵と交戦している最中に、自陣の旗が奪われそうになっていることを察知したら、すぐに防御に切り替える判断を下す。あるいは、マップを探索しながら、同時に資源の収集を続けるといった、複数の目標を並行して追求する動きが可能になる。人間がゲームをプレイする際も、攻撃、防御、偵察、資源管理など、複数の要素を同時に考慮し、状況に応じて優先順位をつけながら行動する。マルチタスクAIは、このような人間の複雑な思考や行動パターンを模倣することで、より自然で、予測が困難な、「人間らしい」動きを実現する。AIが単一の行動パターンに固執せず、常にゲーム全体の状況を判断し、最適な行動の組み合わせを柔軟に実行することで、プレイヤーはより深みのある戦略的な対戦を楽しむことができるのだ。

このような人間らしいマルチタスクAIを実現するためには、AIの「採用手法」、つまりどのような技術的なアプローチでAIを構築するかが非常に重要になる。記事の冒頭で具体的な手法は示されていないが、一般的に、このような要求を満たすAIは、意思決定ツリー、有限状態オートマトン、あるいは行動ツリーといった技術を組み合わせて構築されることが多い。意思決定ツリーは、特定の条件が満たされた場合にどの行動を取るべきかを階層的に定義する手法で、「もし敵が近くにいたら攻撃する」「もし自分のHPが少なければ回復する」といった判断を順序立てて行えるようにする。有限状態オートマトンは、AIがいくつかの「状態」(例えば「攻撃中」「防御中」「探索中」など)を持ち、特定のイベントが発生したときに別の状態に遷移するという形で動作を制御する。行動ツリーは、これらの手法をより柔軟に組み合わせることができ、複雑な行動パターンやマルチタスク的な振る舞いを設計するのに適している。これらの技術を使うことで、AIは常にゲームの状況を認識し、事前に定義されたルールや戦略に基づいて、複数の行動を並行して、あるいは高速に切り替えながら実行できるようになる。

このように、「Jelly Troops」のAIは、単にゲームをプレイするだけのプログラムではなく、プレイヤーに最高のゲーム体験と適切な挑戦を提供する高度なシステムとして設計されている。人間らしい公平な動き、適度な強さ、そして状況に応じて柔軟に判断し行動できるマルチタスク能力は、このゲームのAIが単なるプログラムの塊ではなく、プレイヤーが感情移入し、熱中できる対戦相手となるための鍵である。このようなAIの設計思想は、システムエンジニアを目指す上で、技術的な側面だけでなく、ユーザー体験を最優先に考え、複雑な問題を解決していくための素晴らしい事例となるだろう。