【ITニュース解説】「楽しい気分になれる曲」を聴くと乗り物酔いが軽減される可能性
2025年09月08日に「GIGAZINE」が公開したITニュース「「楽しい気分になれる曲」を聴くと乗り物酔いが軽減される可能性」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
中国の研究チームが実験を行い、特定の音楽、特に「楽しい気分になれる曲」を聴くと、乗り物酔いの症状が軽減される可能性があると発表した。これは、移動中の不快感を和らげる新たな方法になりうる発見だ。
ITニュース解説
今回のニュースは、多くの人が一度は経験するであろう「乗り物酔い」という不快な症状に対して、意外な解決策を提示する研究についてである。中国の研究チームが行った実験によると、「楽しい気分になれる曲」を聴くことで、乗り物酔いの症状が軽減される可能性があるという。この研究は、私たちが普段何気なく接している「音」が、体の生理現象に与える影響の大きさを改めて教えてくれるものだ。
まず、乗り物酔いがなぜ発生するのかについて簡単に触れておこう。乗り物酔いは、医学的には動揺病とも呼ばれ、視覚情報と平衡感覚を司る前庭感覚器からの情報が脳内で一致しないときに起こる現象である。例えば、車に乗っているとき、目は窓の外の景色が流れていくのを見ているが、体はシートに固定されており、地面に対する動きを感じない。あるいは、船に乗っているとき、船室の中にいると目は静止した壁を見ているのに、内耳は船の揺れを感知している。このような感覚の不一致が脳に混乱を引き起こし、自律神経の乱れを通じて、吐き気やめまい、冷や汗といった不快な症状が現れるのだ。特に、内耳の前庭器官は体の傾きや加速を感知する非常に敏感な器官であり、乗り物の不規則な動きは、この前庭器官を過剰に刺激し、脳に過剰な情報を送ることになる。脳はこれらの相反する情報に混乱し、防御反応として自律神経系に指令を出す結果、消化器系に影響が及び、吐き気などの症状につながると考えられている。
この研究チームは、音楽がこの乗り物酔いの症状にどのような影響を与えるのかを検証するために、具体的な実験を行った。実験では、まず被験者を揺れる環境にさらし、乗り物酔いを誘発する。そして、特定の種類の音楽を聴かせたときに、乗り物酔いの症状がどのように変化するかを詳細に観察したのだ。ここで重要なのは、どのような「特定の種類の音楽」が選ばれたかである。研究チームは、聴くことで人が「楽しい気分」や「心地よい気分」になるとされる音楽に注目した。これは、単に心地よいメロディーであるだけでなく、リズムやテンポ、音色など、総合的にポジティブな感情を引き出すような楽曲を指す。
実験の結果は興味深いものだった。単に揺れる環境にいるだけの場合や、音楽を聴かない場合と比較して、「楽しい気分になれる曲」を聴いた被験者グループでは、乗り物酔いの症状が有意に軽減されることが示されたのである。具体的には、吐き気やめまいといった症状の度合いが低く、全体的な不快感も少ないという報告が得られた。この結果は、音楽が単なる娯楽としてだけでなく、私たちの身体的な苦痛を和らげる可能性を持つことを示唆している。
では、なぜ「楽しい気分になれる曲」が乗り物酔いの軽減につながるのだろうか。研究チームは、いくつかのメカニズムを推測している。一つは、音楽が脳の注意を分散させる効果である。乗り物酔いの症状が出始めると、人はその不快感に集中しがちになり、それがかえって症状を悪化させる悪循環に陥ることがある。しかし、楽しい音楽を聴くことで、脳の注意が不快な感覚から音楽そのものへと逸らされ、症状への意識が薄れる可能性がある。これは、痛みを感じる時に他のことに集中することで痛みが和らぐのと似たメカニズムかもしれない。
もう一つのメカニズムは、音楽が自律神経系に直接作用する可能性である。楽しい音楽やリラックスできる音楽は、心拍数を落ち着かせ、血圧を安定させるなど、副交感神経を優位にする効果があることが知られている。乗り物酔いは、自律神経の乱れ、特に交感神経の過剰な興奮が関与していると考えられているため、音楽が副交感神経を活性化させることで、その乱れを是正し、症状の緩和につながる可能性があるのだ。具体的には、音楽が脳内の報酬系を活性化させ、ドーパミンなどの快感物質の分泌を促すことで、ストレス反応を抑制し、身体的なリラックス効果をもたらすと考えられる。
さらに、感情的な側面も無視できない。楽しい気分になる音楽は、文字通り気分を高揚させ、ポジティブな感情を引き出す。ポジティブな感情は、ストレスに対する体の抵抗力を高め、不快な体験に対する知覚を変化させる力がある。乗り物酔いの経験は多くの場合ネガティブなものであり、過去の辛い経験が症状を悪化させるプラシーボ効果のようなものも存在するかもしれない。しかし、音楽によって気分が上向くことで、脳が「これは大丈夫だ」と判断し、過剰な防御反応を抑制する可能性も考えられる。
この研究の意義は大きい。乗り物酔いは多くの人にとって旅行や移動の際の大きな障害となっており、市販薬以外に効果的な対策が少ないのが現状である。もし音楽を聴くだけで症状が軽減できるのであれば、それは非侵襲的で副作用のない、非常に手軽な解決策となるだろう。将来的には、この研究結果を応用し、乗り物酔い対策に特化した音楽プレイリストが開発されたり、公共交通機関でのサービスとして提供されたりする可能性も考えられる。また、音楽が私たちの心身に与える影響に関するさらなる研究が進むことで、乗り物酔いだけでなく、他の様々な身体的・精神的な不調に対する音楽療法の応用範囲が広がることも期待される。
この研究はまだ初期段階にあるかもしれないが、音楽の持つ隠れた力、そしてそれが私たちの生理現象や心理状態にどのように作用するのかという、興味深い問いを投げかけている。テクノロジーが進化する中で、私たちはデジタルデバイスを通じて様々な音楽にアクセスできるようになった。このような研究が進むことで、音楽が単なる娯楽としてだけでなく、健康やウェルネスをサポートする強力なツールとして、私たちの生活にさらに深く根ざしていく未来が見えてくるだろう。乗り物酔いに悩まされている人にとっては、次の移動の際に試してみる価値のある、朗報と言えるかもしれない。