【ITニュース解説】New Phoenix attack bypasses Rowhammer defenses in DDR5 memory
2025年09月16日に「BleepingComputer」が公開したITニュース「New Phoenix attack bypasses Rowhammer defenses in DDR5 memory」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
DDR5メモリのRowhammer攻撃に、最新の防御を突破する新しい手法「Phoenix」が登場した。研究者が開発したこの攻撃は、メモリの隣接領域に干渉し、データを不正に書き換える危険性がある。
ITニュース解説
このニュースは、コンピュータの根幹を支える「メモリ」に潜む、物理的な脆弱性と最新の攻撃手法について報じている。特に、最新世代のメモリであるDDR5に搭載された防御機構を、新しい「Phoenix攻撃」という手法が突破したという内容だ。システムエンジニアを目指す上で、このようなハードウェアレベルのセキュリティの知識は、ソフトウェア開発だけでなく、システム全体の設計においても非常に重要となるため、その概要を理解しておくことは不可欠である。
まず、「Rowhammer(ロウハンマー)」とは何かから説明しよう。コンピュータのメモリは、非常に小さなセルが密集して並んだ構造をしている。それぞれのセルは、電荷の有無で0か1かの情報を記憶している。Rowhammer攻撃とは、特定のメモリセル(行)に繰り返し高速にアクセスする(まるでハンマーで叩くように)ことで、その隣接するメモリセルに意図しない電気的な干渉を与え、電荷を漏れさせたり、逆に過剰に電荷を与えたりして、記憶しているデータ(ビット)を反転させてしまう現象を指す。例えば、0が1に、または1が0に変わってしまうのだ。
なぜこれが問題なのか。メモリに記憶されているデータが勝手に反転してしまうと、コンピュータの動作に深刻な影響を及ぼす可能性がある。例えば、オペレーティングシステム(OS)のセキュリティ設定に関するビットが反転すれば、通常のユーザー権限で実行されているプログラムが、本来アクセスできないはずのシステム領域にアクセスできるようになり、管理者権限を不正に奪取する「権限昇格」が可能になる。また、セキュリティサンドボックスなど、プログラムの実行範囲を制限する機構が突破され、悪意のあるコードがシステム全体に影響を及ぼす事態も考えられる。
これまでのRowhammer攻撃は、主にDDR3やDDR4といった以前の世代のメモリで確認されてきた。メモリメーカーは、このような攻撃を防ぐために様々な対策を講じてきた。代表的なのが「Target Row Refresh(TRR)」と呼ばれる防御機構である。これは、特定のメモリ行へのアクセス頻度を監視し、Rowhammer攻撃の兆候を検知した場合に、影響を受けやすい隣接する行を自動的にリフレッシュ(電荷を再充填し、データを安定させる)することで、ビット反転を防ぐという仕組みだ。最新のDDR5メモリでは、これらの防御機構がさらに強化され、より安全であると期待されていた。
しかし、今回発表された「Phoenix攻撃」は、そのDDR5メモリの最新の防御機構を迂回する新しい手法だという。特に、SK Hynix製DDR5チップでこの脆弱性が確認された。この攻撃の核心は、DDR5に導入された新しいリフレッシュメカニズムである「TRRefetch」を悪用するところにある。TRRefetchは、メモリコントローラがリフレッシュが必要だと判断したメモリ行を一時的に「キュー(待ち行列)」に格納し、順番に処理していくという仕組みを持つ。
Phoenix攻撃は、このTRRefetchキューの特性を巧妙に突いている。研究者たちは、短い時間内に非常に多数のメモリ行を攻撃対象とし、これらをTRRefetchキューに送り込むことを試みた。このキューには容量の限界があるため、短時間でキューを満杯にすると、本当にリフレッシュが必要な、あるいはRowhammer攻撃によってビット反転の危険があるメモリ行がキューに入りきらず、リフレッシュ処理が行われないまま放置される状況を作り出すことが可能になる。防御機構が「リフレッシュが必要な行がいくつかあるが、もうキューが満杯で対応できない」という状態に陥ってしまうわけだ。
この状態を悪用し、攻撃者はキューに入りきらなかった、本来リフレッシュされるべきメモリ行に対してRowhammer攻撃を続けることで、隣接するビットに影響を与え、データ反転を高い信頼性で引き起こすことに成功した。これは、既存の「TRRespass」というRowhammer攻撃の手法をDDR5の新しい防御機構に合わせて最適化したものと言える。つまり、防御側が想定していなかった、またはその特性の盲点をついた攻撃手法なのである。
この研究成果が示すことは、ハードウェアレベルの物理的な脆弱性が、最新技術をもってしても完全には解消されていないという厳然たる事実だ。メモリチップの設計段階からセキュリティを考慮した防御機構が組み込まれていても、その実装の細かな特性や限界を突くことで、新しい攻撃手法が生まれる可能性がある。これは、システムを設計・構築するシステムエンジニアにとって、セキュリティが単にOSやアプリケーションの脆弱性対策に留まらず、コンピュータの最も根幹にあるハードウェアの物理的な特性にまで及ぶ、多層的な課題であることを再認識させる重要なニュースである。
システムエンジニアを目指す皆さんには、このようなハードウェアレベルのセキュリティ脅威の存在を知り、それがシステム全体の安全性にどう影響するかを理解することが求められる。目に見えるソフトウェアのバグだけでなく、ハードウェアの物理的な動作原理に起因する脆弱性も常に存在し、それに対する対策も進化し続けているのだ。将来的に、皆さんが設計するシステムが、このような最新の脅威にどのように対応すべきかを考える上で、今回のPhoenix攻撃の事例は貴重な学びとなるだろう。セキュリティは常に進化し続ける「いたちごっこ」であり、最新の研究動向に常にアンテナを張り、多角的な視点でシステム全体の安全性を見つめる姿勢が不可欠となる。