ガウス分布(ガウスブン)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

ガウス分布(ガウスブン)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

正規分布 (セいきぶんぷ)

英語表記

Gaussian distribution (ガウス分布)

用語解説

ガウス分布とは、統計学や確率論において最も基本的な確率分布の一つであり、正規分布とも呼ばれる。多くの自然現象や社会現象、そして測定誤差などが、このガウス分布に従うことが経験的に知られている。たとえば、ある集団の身長や体重、試験の点数、製造される部品の寸法のばらつき、物理実験における測定の誤差などは、平均値を中心に左右対称に分布し、その形状はガウス分布によってよく近似される。システムエンジニアを目指す上で、データ分析、機械学習、統計モデリングといった分野でガウス分布の理解は不可欠である。データがどのように分布しているか、どのような不確実性があるかを把握する上で、ガウス分布は強力なツールとなる。

ガウス分布の最も大きな特徴は、その形状が左右対称の釣り鐘型である点だ。この形状は、データが特定の値(平均値)の周りに最も集中し、その値から離れるほどデータの出現頻度が低くなることを示す。ガウス分布は、平均(μ、ミュー)と標準偏差(σ、シグマ)という二つのパラメータによって完全に定義される。平均は分布の中心、つまりデータが最も集中する位置を表す。標準偏差はデータのばらつきの度合いを示す指標であり、標準偏差が小さいほどデータは平均値の周りに密に集中し、逆に大きいほどデータは広範囲に散らばる。統計学では、標準偏差の二乗である分散(σ²)もよく用いられるが、意味合いは同じである。これらのパラメータによって、ガウス分布の「位置」と「広がり」が決定されるため、さまざまな状況のデータをモデル化できる柔軟性を持つ。

ガウス分布には「68-95-99.7ルール」と呼ばれる経験則がある。これは、ガウス分布に従うデータのうち、約68%が平均値からプラスマイナス1標準偏差(μ±1σ)の範囲内に収まり、約95%が平均値からプラスマイナス2標準偏差(μ±2σ)の範囲内に収まり、さらに約99.7%が平均値からプラスマイナス3標準偏差(μ±3σ)の範囲内に収まることを示す。このルールは、データがどの程度ばらついているかを直感的に理解する上で非常に役立つ。たとえば、あるシステムの応答時間の平均が500ミリ秒で標準偏差が50ミリ秒の場合、ほとんどの応答時間は400ミリ秒から600ミリ秒の間に収まると推測できる。これにより、異常値の検出や品質管理の判断基準として利用できる。

ガウス分布が多くの現象で現れる背景には、中心極限定理という極めて重要な統計学の定理がある。この定理は、互いに独立で、どのような確率分布に従っていても、多数の確率変数を足し合わせたとき、その合計値の分布は元の確率変数の分布に関わらず、ガウス分布に近づくというものだ。このため、多くの要因が複雑に絡み合って生じる現象(例:測定誤差、集団の特性)は、結果的にガウス分布に従うことが多い。

IT分野において、ガウス分布の理解は多岐にわたる応用を持つ。機械学習では、データの事前分布をガウス分布と仮定するモデル(例:ナイーブベイズ分類器のガウス型ナイーブベイズ、線形回帰の誤差項)が多く存在する。また、異常検出において、データがガウス分布に従うと仮定し、平均から大きく外れたデータを異常とみなす手法が広く用いられる。特徴量スケーリングの手法の一つである標準化(Standardization)も、データを平均0、標準偏差1のガウス分布に近づけることで、モデルの学習を安定させる目的がある。さらに、深層学習における重みの初期化方法の一つであるガウス乱数を用いた初期化も、ガウス分布の特性を利用している。ガウス過程回帰のようなモデル自体がガウス分布を基盤としている場合もある。

データ分析や統計的な推論においても、ガウス分布は中心的な役割を果たす。仮説検定(例:t検定、F検定)や信頼区間の推定は、多くの場合、データがガウス分布に従うという仮定のもとで理論が構築されている。また、システムの性能評価や障害発生頻度の予測など、不確実性を含む問題を扱う際に、ガウス分布を用いてノイズや変動をモデル化することが一般的である。信号処理の分野では、ランダムノイズ(ホワイトノイズなど)がガウス分布に従うと仮定されることが多く、ノイズ除去のためのガウシアンフィルタは、ガウス分布の特性を利用して画像を平滑化したりノイズを低減したりする。

しかし、すべてのデータがガウス分布に従うわけではない点には注意が必要だ。たとえば、イベントの発生回数や時間の経過など、特定の制約を持つデータは、ポアソン分布や指数分布など、別の確率分布に従うことが多い。データがガウス分布に従わないにもかかわらず、ガウス分布を前提とした分析やモデリングを行うと、誤った結論を導いたり、モデルの性能が著しく低下したりする可能性がある。そのため、データ分析の初期段階で、データの分布形状を確認し、適切な確率分布を仮定することが重要となる。ガウス分布は非常に強力なツールであると同時に、その適用範囲と限界を理解しておくことが、システムエンジニアとしてデータを扱う上で不可欠な知識となる。