【ITニュース解説】How Leading CISOs are Getting Budget Approval

2025年09月09日に「The Hacker News」が公開したITニュース「How Leading CISOs are Getting Budget Approval」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

企業のセキュリティ責任者(CISO)は予算獲得に苦労しがちだ。技術的な必要性を訴えるだけでは不十分で、経営層が理解できるビジネスの視点でセキュリティの重要性を説明することが、予算承認を得る鍵となる。

ITニュース解説

企業のサイバーセキュリティを確保することは、現代のビジネスにおいて極めて重要な課題である。しかし、その重要性とは裏腹に、セキュリティ対策に必要な予算を確保することは容易ではない。多くの企業にとって、セキュリティ部門は直接的な利益を生み出す「プロフィットセンター」ではなく、コストを消費する「コストセンター」と見なされがちである。そのため、予算編成の時期になると、セキュリティ関連の投資は後回しにされたり、削減の対象になったりすることが少なくない。このような状況で、企業のセキュリティ最高責任者であるCISO(Chief Information Security Officer)は、いかにして経営層を説得し、必要な予算を獲得しているのか。その先進的なアプローチには、将来システムエンジニアを目指す者にとっても重要な視点が含まれている。

CISOが直面する最大の課題は、技術的な脅威の言語をビジネスの言語に翻訳することである。経営層が関心を持つのは、脆弱性の数や導入するセキュリティツールの技術的なスペックではない。彼らが知りたいのは、その投資が企業の利益やブランド価値、事業の継続性にどのように貢献するのか、あるいは投資を怠った場合にどのような金銭的損失や経営上のリスクが生じるのか、という点である。したがって、優れたCISOは、「新しいファイアウォールが必要です」といった技術中心の要求はしない。「このセキュリティ対策を導入しなければ、主要な顧客データが漏洩するリスクがX%あり、その場合の想定被害額はY億円に上ります。この投資によって、そのリスクをZ%低減できます」というように、セキュリティのリスクを具体的な事業リスクとして提示する。これは、セキュリティ投資が単なるコストではなく、企業の資産を守り、事業の安定性を確保するための不可欠な「投資」であることを明確に示すための、極めて重要なコミュニケーション手法である。

このビジネス視点での説明を補強するのが、定量的データと客観的な指標の活用である。感覚的に「危険だ」と訴えるのではなく、具体的な数値を用いて説得力を持たせることが求められる。例えば、過去に発生したセキュリティインシデントの対応にかかった人件費や機会損失、同業他社が受けたサイバー攻撃による被害額などを分析し、自社が直面している脅威の深刻度を客観的に示す。また、セキュリティ対策を導入した場合の投資対効果(ROI)を試算し、どれだけの潜在的損失を防ぐことができるのかを明確にすることも有効である。さらに、脆弱性が発見されてから修正されるまでの平均時間(MTTR)のような運用指標を提示し、現状の課題と、それを改善するためにどれだけの人員やツールが必要なのかを論理的に結びつけて説明する。これにより、予算要求は単なる希望的観測ではなく、データに基づいた合理的な計画として経営層に受け入れられやすくなる。

加えて、先進的なCISOはリスクベースのアプローチを採用している。企業が持つすべての情報資産を完璧に保護しようとすれば、予算はいくらあっても足りない。そこで重要になるのが、優先順位付けである。まず、企業のビジネスにとって最も重要なデータやシステムは何かを特定する。そして、それらの重要な資産に対してどのような脅威が存在し、どのような脆弱性があるのかを評価する。その上で、攻撃が発生する可能性と、発生した場合のビジネスへの影響度を掛け合わせ、リスクを定量的に評価する。この評価結果に基づき、最もリスクの高い領域から優先的に予算を配分する計画を立てる。このアプローチは、限られた予算を最も効果的に活用し、企業にとって致命的な損害をもたらすリスクを確実に低減させるための合理的な戦略であり、経営層に対して、セキュリティ予算が計画的かつ効率的に使われることを示す強力な材料となる。

このような説得力のある提案は、一朝一夕にできるものではない。予算編成の時期にだけ経営層に働きかけるのではなく、日頃から継続的にコミュニケーションを取り、信頼関係を築くことが不可欠である。セキュリティ脅威の動向や自社のセキュリティ状況について、技術的な詳細に踏み込むのではなく、ビジネスへの影響という観点で定期的に報告する。これにより、経営層はセキュリティを「IT部門だけの技術的な問題」としてではなく、「全社で取り組むべき重要な経営課題」として認識するようになる。このような地道な活動を通じて、セキュリティの重要性に対する共通認識を醸成しておくことが、最終的に予算承認を得るための土台となるのである。

これらのCISOの取り組みは、システムエンジニアを目指す者にとっても示唆に富んでいる。システム開発や運用の現場でも、新しい技術の導入やインフラの増強を提案する場面は多い。その際に、単に技術的な優位性を語るだけでなく、その提案が「ビジネスにどのような価値をもたらすのか」「実施しない場合にどのようなリスクがあるのか」を説明できる能力が、今後ますます重要になる。技術力とビジネス視点を兼ね備えることこそが、組織に貢献し、自身の提案を実現させるための鍵となるだろう。

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