RISC(リスク)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
RISC(リスク)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
リスク (リスク)
英語表記
RISC (リスク)
用語解説
RISC (Reduced Instruction Set Computer) は、コンピュータのプロセッサが実行する命令セットを簡素化することで、高速な処理と高い電力効率を実現する設計思想、あるいはその思想に基づいて設計されたプロセッサそのものを指す。従来の複雑な命令セットを持つプロセッサ、CISC (Complex Instruction Set Computer) とは対照的なアプローチを取り、コンピュータの性能向上と小型化、省電力化に大きく貢献してきた。
RISCの概念が提唱された背景には、1980年代にコンピュータの処理性能を向上させるための研究があった。当時の主流であったCISCプロセッサは、多様な処理を単一の命令で実行できる非常に複雑な命令セットを持っていた。例えば、メモリからデータを読み込み、演算を行い、その結果を再びメモリに書き込むといった一連の処理を、一つのCISC命令で実行できる場合があった。これはプログラマにとっては便利であったが、プロセッサのハードウェア設計を非常に複雑にし、各命令の実行時間にも大きなばらつきを生じさせていた。特に、現代のプロセッサで性能向上の鍵となるパイプライン処理(複数の命令を並行して実行する技術)との相性が悪く、複雑な命令がパイプラインの効率を低下させる要因となっていたのである。
このような状況に対し、研究者たちは実際のプログラムでどの命令がどれくらいの頻度で使われているかを分析した結果、非常に複雑な命令はごく稀にしか使われず、ほとんどの処理はごく基本的な、単純な命令の組み合わせによって行われていることを発見した。この知見に基づき、「複雑な命令を無理にハードウェアで実装するよりも、単純な命令を高速かつ効率的に実行できるようにプロセッサを設計した方が、全体の性能が向上するのではないか」という発想が生まれた。これがRISCの基本的な哲学である。
RISCプロセッサの主な特徴は以下の通りである。まず、命令セットの簡素化が挙げられる。RISCプロセッサが持つ命令の種類はCISCに比べて圧倒的に少なく、数百種類程度に抑えられていることが多い。また、全ての命令が固定長で、命令フォーマットも数種類に統一されているため、プロセッサは命令をデコード(解釈)しやすくなる。これにより、命令ごとの実行時間がほぼ均一になり、予測可能な処理が可能となる。次に、豊富な汎用レジスタを備えている点も重要である。レジスタとは、CPU内部にある非常に高速な記憶領域のことで、RISCプロセッサは多くのレジスタを持つことで、頻繁にアクセスするデータをレジスタ内に保持し、メモリへのアクセス回数を極力減らす設計思想を採用している。メモリとの間でデータをやり取りする命令(ロード命令とストア命令)を特定の命令に限定することで、複雑なデータアクセス処理を単純化し、プロセッサの制御回路を簡素化しているのである。このような設計は「ロード/ストアアーキテクチャ」と呼ばれる。
命令セットの簡素化と固定長命令は、パイプライン処理の効率化に直結する。命令の実行時間が予測しやすく均一であるため、プロセッサは前の命令の実行が完了する前に次の命令の処理を開始するといった、パイプライン処理を滞りなく進めることができる。これにより、見かけ上の命令実行速度が向上し、高いスループットを実現する。また、命令セットが単純であるため、コンパイラ(人間が書いたプログラムを機械語に変換するソフトウェア)が、ハードウェアの特性を最大限に活かせるような、効率的な機械語コードを生成しやすくなるというメリットもある。プロセッサが命令を単純に実行することに徹し、複雑な最適化はコンパイラに任せるという役割分担が、RISCの高性能化を支えている。
RISCの設計思想によって得られる主なメリットは、高い動作周波数での実行が可能であること、そして消費電力の低減である。プロセッサの回路が単純になるため、より高いクロック周波数で動作させることが容易になり、さらに回路規模が小さく、命令の実行に必要な電力が少ないため、特にバッテリー駆動のモバイル機器や組み込みシステムにおいて、優れた電力効率を発揮する。スマートフォンやタブレット、IoT機器などで広く採用されているARMプロセッサは、このRISCの典型的な成功例である。
一方で、RISCのデメリットとしては、同じ処理を実現するためにCISCよりも多くの命令が必要となる場合があり、結果としてプログラムのサイズが大きくなる傾向がある点が挙げられる。また、レジスタの数が十分に活用されない場合や、特定の複雑な処理を多数の単純な命令に分解する際には、CISCに比べてメモリへのアクセスが増加し、かえって性能が低下する可能性も考えられる。しかし、現代のプロセッサはキャッシュメモリの高度化やコンパイラの進化によってこれらのデメリットを克服し、RISCの利点を最大限に引き出すように設計されている。
今日のプロセッサ市場では、純粋なRISCと純粋なCISCという明確な区別は曖昧になりつつある。多くのCISCプロセッサは、内部的に受信したCISC命令を複数のマイクロ命令(RISC的な単純な内部命令)に分解して実行するようになっており、RISCのパイプライン処理や並列処理の利点を取り入れている。一方でRISCプロセッサも、特定の用途向けの拡張命令セットを追加するなど、より高性能化・多機能化を図っている。しかし、その根底にある「単純な命令を高速に実行する」というRISCの哲学は、現代の高性能プロセッサ設計における基本的な考え方の一つとして、今後も重要な役割を果たし続けるだろう。RISC-Vのような新しいオープンソースのRISCアーキテクチャの登場も、その影響力の大きさを物語っている。