【ITニュース解説】“脱獄iPhone”を直すには? 「MDM」を使う場合と使わない場合の修正方法

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「脱獄iPhone」は企業にセキュリティリスクをもたらす。MDM(モバイルデバイス管理)の利用有無に応じた、ジェイルブレイクされたiPhoneを安全に元の状態に戻す具体的な修正方法を解説。

ITニュース解説

iPhoneの「ジェイルブレーク」、通称「脱獄」とは、AppleがiPhoneに課しているソフトウェア上の制限を解除する行為である。通常、iPhoneはAppleが公式に認めたApp Storeからのアプリのみをインストールでき、OSのシステム領域へのアクセスも厳しく制限されている。しかし、ジェイルブレークを行うことで、ユーザーはこれらの制限を回避し、非公式のアプリストアからアプリケーションをインストールしたり、OSの深い部分にあるシステムファイルを自由に改変したりできるようになる。これは、Androidスマートフォンの「root化」と似た概念である。 個人が自身のiPhoneでジェイルブレークを行う分には、自己責任という側面が強いが、企業が従業員に貸与しているiPhoneがジェイルブレークされた場合、極めて深刻なセキュリティリスクを企業にもたらす可能性がある。まず、ジェイルブレークされたデバイスは、Appleが提供する厳格なセキュリティ対策を迂回しているため、悪意のあるソフトウェア、すなわちマルウェアに感染しやすくなる。非公式のアプリストアから提供されるアプリには、ウイルスやスパイウェアが仕込まれている危険性が常に伴う。これにより、iPhone内に保存されている企業の機密情報や顧客の個人情報が不正に外部へ漏洩したり、改ざんされたりする危険性が高まる。また、ジェイルブレークされたiPhoneは、Appleが定期的に提供するセキュリティアップデートを適切に適用できない状態になることが多く、既知の脆弱性が修正されずに放置されることになるため、外部からの攻撃に対する防御力が著しく低下する。さらに、このような脆弱なデバイスが企業の内部ネットワークに接続された場合、そのデバイスを足がかりとして、社内ネットワーク全体への不正アクセスや攻撃が拡大する恐れも否定できない。 このようなセキュリティ上の脅威から企業を守り、多数のモバイルデバイスを一元的に管理するために、「MDM(モバイルデバイス管理)」と呼ばれるシステムが広く利用されている。MDMとは、企業が従業員に貸与しているスマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスを、管理者側から集中的に管理・制御するための仕組みである。MDMを導入することで、企業はデバイスのセキュリティポリシーを一律に適用したり、利用できるアプリの種類や機能を制限したり、デバイスが紛失・盗難された際に遠隔操作でデバイスをロックしたり、保存されているデータを消去したりすることが可能になる。これにより、企業は多数のデバイスのセキュリティレベルを常に高い水準で維持し、効率的かつ安全に運用できる。 MDMを導入している企業の場合、ジェイルブレークされたiPhoneの修正や対応は比較的容易である。多くのMDMソリューションは、デバイスがジェイルブレークされていることを自動的に検出し、システム管理者に警告を発する機能を備えている。MDMがジェイルブレークを検出すると、事前に設定されたセキュリティポリシーに基づいて、そのデバイスへの企業ネットワークへのアクセスを遮断したり、特定の企業向けアプリケーションの利用を制限したり、さらにはデバイス内に保存されている企業のデータを遠隔で消去したりといった自動的な措置を実行できる。最も強力な対応としては、デバイス全体を工場出荷時の状態に戻す「リモートワイプ」を実行し、ジェイルブレークされた環境を完全に消去する方法がある。これにより、セキュリティリスクを抱えるデバイスを迅速に企業ネットワークから隔離し、無力化することが可能となる。 一方で、MDMを導入していない企業や、個人が所有するジェイルブレークされたiPhoneを正規の状態に戻したい場合、手動での修正作業が必要となる。この場合の最も確実な方法は、iPhoneを工場出荷時の状態に復元することである。具体的には、iPhoneをUSBケーブルでコンピューターに接続し、Windows環境であればiTunesを、macOS環境であればFinderを使用して、デバイスのソフトウェアを最新の公式iOSに再インストールする作業を行う。この際、「リカバリモード」と呼ばれる特殊な起動モードを利用することで、デバイスのOSを完全に初期化し、クリーンな状態から再構築できる。これにより、ジェイルブレークによって加えられたすべての改変や非公式なソフトウェアが消去され、デバイスはAppleが提供する純正で安全な状態に戻る。ただし、この方法はデバイス内の全てのデータ(写真、連絡先、アプリなど)が消去されるため、事前に必要なデータのバックアップを取っておくことが不可欠である。また、MDMのように多数のデバイスを一度に管理したり、自動でジェイルブレークを検出したり対応したりすることはできないため、一台一台手作業で対応することになり、手間と時間がかかるという課題がある。 ジェイルブレークは、ユーザーにデバイスをより自由に操作する機会を提供するものの、特に企業環境においては、情報漏洩やサイバー攻撃の足がかりとなる深刻なセキュリティ上の脅威をもたらす。システムエンジニアを目指す者にとって、iPhoneのジェイルブレークが引き起こすリスクとその具体的な対処法を深く理解しておくことは、企業のセキュリティ戦略を構築し、インシデント発生時に迅速に対応するために非常に重要である。MDMは、多数のモバイルデバイスを効率的かつセキュアに管理するための強力なツールであり、現代の企業セキュリティにおいて不可欠な存在となっている。MDMの導入状況に関わらず、ジェイルブレークされたデバイスを正規の状態に戻す具体的な手順を把握しておくことは、将来的にセキュリティ関連の業務に携わる上で大きな資産となるだろう。デバイスの自由な利用と企業のセキュリティ確保の間には常にバランスが求められ、この知識は今後の業務において多方面で活用されるはずである。

【ITニュース解説】“脱獄iPhone”を直すには? 「MDM」を使う場合と使わない場合の修正方法