【ITニュース解説】レガシーC#開発者がDevinと向き合った現実
2025年09月11日に「Zenn」が公開したITニュース「レガシーC#開発者がDevinと向き合った現実」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
古い開発環境で日々のバグ修正に追われるエンジニアが、最新AI開発ツール(Devinなど)による生産性向上に期待を抱いている。しかし、古いシステムとの互換性など多くの課題があり、理想と現実のギャップに直面しながらAIとの向き合い方を探っている。
ITニュース解説
システム開発の現場では、常に新しい技術が登場し、開発効率を飛躍的に高めるツールが次々と生み出されている。しかし、現実には多くのエンジニアが、長年使われてきた古いシステム、通称「レガシーシステム」の保守・運用に追われる日々を送っている。レガシーシステムとは、古い技術基盤の上に構築されており、現代の技術とは互換性がなく、更新や機能追加が難しいシステムのことを指す。記事の筆者も、そのような環境で働く中国人エンジニアの一人である。彼が担当しているのは、今から十年以上前の技術である.NET Framework 4.5という基盤で動く巨大なWindowsアプリケーションだ。開発環境もVisual Studio 2013という古いバージョンで、利用できる部品(NuGetパッケージ)も古いままで固定されているため、最新の便利なライブラリを導入しようにも互換性の壁に阻まれてしまう。このような環境では、日々発生する不具合(バグ)の修正や、小さな機能の追加に多くの時間が費やされ、最新の技術動向から取り残されているような感覚に陥りがちだ。
一方で、インターネット上では「AI駆動開発」や「生産性3倍」といった、AI技術が開発にもたらす革命的な変化が語られている。特に「Devin(デヴィン)」という言葉は、自律的にコードを生成し、バグ修正まで行える「AIソフトウェアエンジニア」として大きな注目を集めていた。筆者は、このDevinが、自身の抱えるレガシーシステムの現代化という困難な課題を解決してくれるのではないか、と強い期待を抱いていた。例えば、古いC#というプログラミング言語で書かれたコードを、最新のC#バージョンに自動的に変換したり、Windowsアプリケーションの見た目や操作部分(UI)を、より新しい技術であるWPFやWinUIへ移行したり、あるいはコードが正しく動くことを保証するためのテストコードを自動で生成してくれることを期待したのである。
筆者は、その期待を胸にDevinを実際に試してみた。Devinは、自身のコンピューターにインストールするのではなく、インターネット上の仮想的な開発環境で動作し、利用者はWebブラウザを通じてDevinに指示を出し、その作業状況を確認する仕組みだ。必要に応じて、SSHという安全な通信方法を使って、仮想環境に直接アクセスし、状況を詳しく調べることも可能だった。
筆者はまず、Devinに「C#のプロジェクトを最新の状態に更新してほしい」という漠然とした指示を与えてみた。しかし、Devinは最初に、既存の複雑なプロジェクトの構造を正確に把握するのに苦戦した。既存のプロジェクトファイルを直接解析するのではなく、新しいプロジェクトをゼロから作り直そうとすることがあったのだ。
そこで筆者は、より具体的に、現在.NET Framework 4.5で動作しているC#のプロジェクトを、最新の.NET 8という基盤へ移行し、C# 12という最新のプログラミング言語の機能を使えるようにする、というタスクを与えた。Devinは、プロジェクトファイルを解析し、依存関係、つまりそのプロジェクトが利用している他の部品やライブラリとのつながりを調べ、移行の計画を立てようと試みた。しかし、長年使われてきた巨大なレガシーシステムでは、数多くの古い部品が複雑に絡み合っており、そのすべてを最新の部品に置き換え、かつ正常に動作させることは非常に困難だった。Devinはいくつかの問題を特定し、解決策を提案したが、完全に動作する状態にするには、結局人間のエンジニアによるかなりの修正作業が必要となる結果に終わった。
次に、Windows Formsという古い技術で作成されたアプリケーションの見た目や操作部分を、WPFやWinUIといった新しい技術へ移行させるという、さらに大規模なタスクをDevinに与えてみた。これは単にコードを書き換えるだけでなく、アプリケーションの設計思想そのものを見直すような大がかりな変更を伴う。DevinはUIコードの自動生成を試みたものの、既存の古いコードベースと新しいフレームワークの間には、部品の構造や連携方法において根本的な違いがあり、期待通りの変換は不可能だった。デザインパターン、つまりプログラムの設計の型や、UIを構成する部品の考え方が大きく異なるため、部分的なコード変換では全く不十分だったのである。
最後に、既存のC#コードに対して、そのコードが正しく動作するかを自動的に確認するための「単体テスト」を自動生成させるタスクを依頼した。Devinは、MSTestやNUnitといったテスト用のフレームワークを使ってテストコードを作成しようと試みた。しかし、長年の運用で複雑に絡み合ったビジネスロジック、つまりアプリケーションの中核となる処理の「意図」を正確に理解し、あらゆる状況を想定した意味のあるテストケースを自動で生成することは非常に難しかった。特に、依存性の注入(DI)といった設計パターンが適用されていないレガシーコードでは、テストしたい部分だけを切り離して検証することが困難であり、Devinもその壁を乗り越えることはできなかった。
これらの試用を通じて筆者が直面したのは、Devinの現在の限界であった。Devinは非常に強力なツールであることは間違いないが、まだ完全ではない。特に、複雑なレガシーシステムのように、長年の歴史を持つ膨大なコードベース全体の構造や、そこに込められた設計者の意図、そして無数の部品が複雑に絡み合う依存関係を、人間と同じように深く理解し、的確な解決策を導き出すことは困難なのだ。
Devinは、プロジェクトのディレクトリ構造の理解や、コンパイルエラーの修正、簡単なコードの自動生成など、特定の反復的な作業や、明確に定義されたシンプルなタスクにおいては、効率的なアシスタントとして機能する可能性を秘めている。しかし、今回のような大規模なシステム移行や現代化、あるいは複雑な問題の根本原因を特定し、戦略的な判断を下すような場面では、人間の深い知識と経験が不可欠であるという現実を突きつけられた。
この経験は、AIが開発現場にもたらす可能性を示唆しつつも、同時に、人間のエンジニアの役割がこれからも変わらず重要であることを教えてくれる。AIは、あくまで人間のツールであり、魔法の解決策ではない。AIの能力を理解し、適切な指示を与えることで、その真価を引き出すことができるだろう。将来的にAIがさらに進化すれば、レガシーシステムの現代化といった困難な課題に対しても、より強力なサポートを提供してくれるようになるかもしれない。しかし、現状では、AIと人間のエンジニアがそれぞれの得意分野を生かし、協力しながら開発を進めていくことが、最も効率的で現実的なアプローチだと言えるだろう。