【ITニュース解説】明治は「縦割り組織」をどう乗り越えたか。大企業DXを支えるWellnizeの戦略と実践
2025年09月10日に「CodeZine」が公開したITニュース「明治は「縦割り組織」をどう乗り越えたか。大企業DXを支えるWellnizeの戦略と実践」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
明治は合弁会社のWellnizeと共に、マーケティングDXを推進。巨大企業にありがちな「システムの分断」課題に対し、顧客ID基盤を軸としたデジタルエコシステムを構築する取り組みを紹介した。アーキテクチャ設計やマネジメントでの試行錯誤から得られた学びを共有している。
ITニュース解説
現代のビジネスにおいて、企業がデジタル技術を活用し、ビジネスモデルや組織、文化そのものを変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は非常に重要なテーマとなっている。特に明治のような「食と健康」を担う巨大企業では、長年の歴史と確立された事業基盤がある一方で、DX推進には特有の難しさも伴う。その一つが、各部門がそれぞれの専門性を追求する中で形成される「縦割り組織」の壁である。
縦割り組織は、各部門が自身の業務に最適化されたシステムやプロセスを持つため、全体として見ると情報やデータが部門間で分断されがちだ。これにより、顧客に関する情報が各部門でバラバラに管理されたり、新しいサービスを開発する際に複数の部門を横断する連携が滞ったりすることが頻繁に起こる。このような状況では、顧客は企業全体として一貫したサービス体験を得ることが難しく、企業側も顧客の全体像を把握しにくくなるため、データに基づいた迅速な意思決定や新たな価値創造が阻害される。
明治がこの課題を乗り越えるために立ち上げたのが、株式会社Wellnizeである。Wellnizeは、明治と二つのベンチャー企業が共同出資して設立された合弁会社であり、外部の知見やスピード感を取り入れながら、明治のマーケティングDXを推進する役割を担っている。彼らが目指すのは、「顧客ID基盤を中心としたマルチプロダクトのデジタルエコシステム」の構築だ。これは、明治が提供する牛乳、お菓子、健康食品といった多岐にわたる製品・サービス(マルチプロダクト)において、顧客がどの製品を利用しても、その顧客の情報を一つの共通の顧客IDで一元的に管理し、デジタル上でシームレスな体験を提供できるようにする仕組みを指す。例えば、ある顧客がお菓子を購入した履歴がある場合、その情報に基づいて、関連する健康食品の情報をパーソナライズして提供するといったことが可能になる。
しかし、このようなデジタルエコシステムを構築する上で、Wellnizeの代表取締役兼執行役CEOである木下氏は「システムの設計は、分断の設計である」という本質的な課題に直面した。これは、縦割り組織の中で各部門がそれぞれに最適なシステムを開発・導入しようとすると、結果的にそれらのシステムが互いに連携しにくい「分断された」状態になりやすい、ということを示唆している。つまり、組織の壁がそのままシステムの壁となり、本来統合されるべき顧客情報やデータが散逸してしまうのだ。システムが分断されていると、顧客は明治の多様な製品を利用する際にそれぞれ異なるIDや手続きを求められたり、自身の情報が各部門で独立して扱われたりすることになり、企業全体としての顧客体験の質が低下する。また、企業側から見ても、顧客の総合的な行動パターンを分析したり、パーソナライズされたサービスを提供したりすることが困難になる。
この「システムの分断」を乗り越えるためには、単に技術的な解決策だけでなく、組織やマネジメントの変革も同時に進める必要がある。Wellnizeは、そのためにアーキテクチャ設計とマネジメント手法の両面からアプローチを行ったと考えられる。アーキテクチャ設計においては、最初から全社的な視点に立ち、各部門の個別のニーズを満たしつつも、将来的な拡張性やデータ連携を考慮した共通基盤(顧客ID基盤など)を構築することが重要となる。例えば、マイクロサービスアーキテクチャのような、独立した小さなサービスが疎結合で連携する設計思想は、各部門がそれぞれ責任を持つサービスを開発しつつも、全体として統合されたシステムを構築するのに役立つだろう。
一方、マネジメント手法においては、縦割り組織の壁を越え、複数の部門が協力して共通の目標に向かうための工夫が必要となる。部門横断的なチームを組成し、アジャイル開発のような短いサイクルで計画・実行・評価を繰り返す手法を取り入れることで、変化に柔軟に対応しながら開発を進めることができる。これにより、各部門の意見を反映しつつも、全体最適を目指した意思決定が可能となる。また、経営層が明確なビジョンを打ち出し、部門間の連携や情報共有を積極的に促す文化を醸成することも、DX推進には不可欠な要素だ。現場での試行錯誤は常に伴い、計画通りにいかないことも多いが、そこから学びを得て改善を繰り返すことで、着実にDXを進めていくことができる。
この明治の事例は、システムエンジニアを目指す皆さんにとって、単に技術的な知識だけでなく、企業のビジネス構造や組織文化、そして人々の働き方そのものを理解し、それらを総合的にデザインしていく能力がいかに重要であるかを教えてくれる。DXは技術導入にとどまらず、組織全体の変革を伴うものであり、その中でシステムエンジニアは、技術的な専門知識を武器に、ビジネスと組織の橋渡し役として大きな貢献が期待される存在なのである。