ID(アイディー)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
ID(アイディー)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
識別子 (シキベツシ)
英語表記
ID (アイディー)
用語解説
IDとは、Identificationの略語であり、日本語では識別子と訳される。ITシステムにおいて、人、モノ、データ、プロセスといった様々な対象を、他の類似の対象と明確に区別し、一意に特定するために用いられる情報のことである。コンピュータシステムは膨大な量の情報を取り扱うため、それぞれの情報を正確に識別できなければ、データを正しく管理したり、適切な処理を実行したりすることができない。そのため、IDはシステムが正常に機能するための根幹をなす、極めて重要な要素である。例えば、ウェブサービスにログインする際のユーザー名や会員番号、データベースに保存されている各データ行に割り振られた番号、ネットワークに接続された個々のコンピュータを識別するためのIPアドレスなど、その利用範囲は多岐にわたる。これらのIDが存在することで、システムは「どのユーザーからの要求か」「どのデータを更新すべきか」「どの機器に情報を送信すべきか」といった判断を正確に行うことができる。
IDにはその目的や特性に応じて様々な種類が存在する。利用者が直接目にする最も身近な例は、ユーザーを識別するためのユーザーIDである。これはログインIDやアカウント名とも呼ばれ、サービス利用者が自分自身をシステムに証明するための入り口となる。通常、パスワードと組み合わせて使用され、認証のプロセスを通じて本人確認が行われる。
一方で、システムの内部でデータを管理するために利用されるIDは、利用者が直接意識することは少ないが、システムの安定稼働に不可欠である。特にデータベースシステムでは、各レコード(データの行)を一意に識別するために主キーと呼ばれるIDが設定される。このIDの生成方法にはいくつかの代表的な方式がある。一つはシーケンシャルID(連番ID)であり、1、2、3といったように単純な連番を割り振る方式である。実装が容易で、データが登録された順序を把握しやすいという利点がある。しかし、IDが予測可能であるため、URLなどにこのIDが含まれている場合、他者のデータに不正にアクセスを試みる攻撃の足がかりにされたり、総ユーザー数などの内部情報が推測されたりするセキュリティ上のリスクを持つ。
この問題を解決するためによく用いられるのが、UUID(Universally Unique Identifier)である。これは、ソフトウェアが生成する極めて重複確率の低い、128ビットの識別子である。時刻情報や乱数などを組み合わせて生成されるため、異なるコンピュータで同時に生成しても、その値が偶然一致する可能性は天文学的に低いとされる。これにより、外部からIDを推測することが極めて困難になり、セキュリティが向上する。また、中央で連番を管理する必要がないため、複数のサーバーでデータを生成する分散システムにおいても整合性を保ちやすいという利点がある。
その他にも、ウェブアプリケーションにおいてユーザーの一連の操作(セッション)を管理するためのセッションIDや、スマートフォンなどの個々のデバイスを識別するためのデバイスIDなど、用途に応じた様々なIDが存在する。
システムエンジニアがIDを設計する際には、いくつかの重要な原則を考慮する必要がある。第一に、一意性である。IDはその名の通り、対象を唯一に特定できなければならない。もしシステム内でIDの重複が発生すると、データの整合性が崩壊し、あるユーザーの情報を別のユーザーに表示してしまったり、更新すべきでないデータを上書きしてしまったりといった、深刻な不具合を引き起こす原因となる。データベースでは、主キー制約やユニーク制約といった機能を用いて、IDの重複をシステム的に防止する。
第二に、不変性である。一度割り当てたIDは、原則として変更すべきではない。例えば、ユーザーのメールアドレスをユーザーIDとして利用した場合、ユーザーがメールアドレスを変更するとID自体も変更する必要が生じる。このIDが他のデータと関連付けられていた場合、それらすべての関連情報を探し出して更新する必要があり、処理が複雑化し、データ不整合のリスクを高める。そのため、対象そのものの属性とは無関係な、意味を持たない値をIDとして割り振ることが推奨される。
この「意味を持たせない」という原則も重要である。IDに社員番号や製品型番のような意味のある情報を含めてしまうと、その情報が将来変更された際にIDの不変性が損なわれる。また、IDから内部の組織構造や命名規則といった情報が漏洩する可能性もある。IDはあくまで識別するための記号であると割り切り、意味のある情報は別のデータ項目として管理するのが望ましい設計である。
このように、IDは単なる番号や文字列ではなく、システムのデータの整合性、拡張性、そしてセキュリティを支える設計上の重要な要素である。システムエンジニアは、それぞれのIDが持つ特性と設計原則を深く理解し、構築するシステムの要件に最も適したIDを選択・設計する能力が求められる。