【ITニュース解説】MetaのAIは“違法”か? 「Llama」学習を巡りEU最高裁へ
2025年09月15日に「TechTargetジャパン」が公開したITニュース「MetaのAIは“違法”か? 「Llama」学習を巡りEU最高裁へ」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
MetaのAI「Llama」が、EU居住者の公開データで学習を開始した。これに対しEU当局はプライバシー侵害を問題視し、「違法」として法廷闘争は最高裁へ。データ活用と倫理の境界が問われている。
ITニュース解説
MetaのAI「Llama」の学習データを巡る問題は、現代のIT業界における大きな課題の一つである。この問題は、AI技術の発展と個人のプライバシー保護という二つの重要なテーマが複雑に絡み合っているため、システムエンジニアを目指す皆さんにとって、将来のキャリアを考える上で非常に重要な示唆を与えるものとなるだろう。
まず、問題となっている「Llama」について簡単に説明する。LlamaはMeta社が開発した「大規模言語モデル(LLM)」と呼ばれるAIの一種だ。大規模言語モデルとは、インターネット上の膨大なテキストデータを学習することで、人間のような自然な文章を生成したり、質問に答えたり、翻訳したりする能力を持つAIのことである。最近話題になることが多いChatGPTなどもこの大規模言語モデルの一つで、その性能は学習させるデータの量と質に大きく左右される。より多くの、より多様なデータを学習させることで、AIはより賢く、より自然な応答ができるようになるのだ。
Meta社はLlamaの性能をさらに向上させるため、EU(欧州連合)居住者がインターネット上に公開した個人データを含む様々なデータを学習に利用し始めた。例えば、SNSの投稿、ブログの記事、公開されたフォーラムでの発言などがこれに含まれる可能性がある。しかし、このMeta社の動きに対し、EUのデータ保護当局は「違法である可能性がある」と問題視し、法廷闘争に発展している。最終的にはEUの最高裁判所で決着がつく見通しだという。
なぜ、EUの当局はMeta社のデータ利用を問題視しているのだろうか。その背景には、EUが非常に厳格な個人データ保護の法律「一般データ保護規則(GDPR)」を持っていることがある。GDPRは、EU圏内の個人に関するデータの収集、処理、保管、利用について定めた包括的な規則であり、企業が個人データを扱う際の基準となっている。この規則は、個人のデータがどのように使われるかについて、本人に管理する権利を与え、透明性を確保することを目的としている。
GDPRでは、企業が個人データを処理(利用)する場合、原則として「本人の同意」を得るか、「正当な利益」があることを明確にする必要がある。Meta社は、Llamaの性能向上という目的のために公開データを利用することが「正当な利益」に該当すると主張している。彼らは、データがすでにインターネット上で公開されているものであり、AIの訓練に利用することは技術革新を促進し、社会全体に利益をもたらすと考えたのだ。
しかし、EUのデータ保護当局やプライバシー擁護派は、Meta社のこの主張に強く異議を唱えている。彼らの見解では、データが公開されているからといって、企業が自由にAIの学習に利用できるわけではない。たとえ公開されたデータであっても、それが個人を特定できる情報(個人データ)である限り、GDPRの保護対象となる。当局は、Meta社が個別の同意を得ずに広範な個人データをAI学習に利用することは、GDPRが定める個人の権利を侵害する可能性があると指摘している。
特に問題となるのは、「忘れられる権利」と呼ばれるGDPRの重要な原則だ。これは、個人が自分のデータが不適切に処理されている場合や、利用目的が達成された場合に、そのデータを削除・消去することを企業に要求できる権利である。AIモデルが一度学習してしまったデータの中から、特定の個人の情報を正確に削除することは非常に困難な技術的課題を伴う。仮にAIが学習したデータから個人の情報を完全に「忘れさせる」ことができないとすれば、個人のプライバシーは永続的に侵害されるリスクがあることになる。
また、AIが学習する過程で、公開された個人データの中に差別的な表現や誤った情報が含まれていた場合、AIはその偏りや間違いを学習してしまう可能性がある。これにより、結果としてAIが差別的な発言を生成したり、誤った情報を提供したりするリスクも指摘されている。
今回の法廷闘争は、AI開発におけるデータ活用の範囲と、個人のプライバシー保護のバランスがどこにあるべきかを定める上で、非常に重要な判例となるだろう。もしMeta社が敗訴すれば、AI開発企業はデータ収集と利用の方法を根本的に見直す必要に迫られる可能性もある。一方、Meta社の主張が認められれば、AI開発の自由度が広がる一方で、個人のプライバシー保護に関する新たな議論が巻き起こることも予想される。
システムエンジニアを目指す皆さんにとって、このニュースは単なる法律問題として片付けられるものではない。将来、AI技術やデータ処理に関わるシステムを開発する際、単に技術的な実装ができるだけでなく、データが誰のものであり、どのように利用されるべきか、どのような法的・倫理的な制約があるのかを深く理解する必要があることを示している。データガバナンス、プライバシー・バイ・デザイン、倫理的なAI開発といった概念は、これからのシステムエンジニアにとって不可欠な知識となるだろう。技術の進歩は素晴らしいが、その進歩が個人の権利や社会的な公正を侵害しないよう、常に注意を払い、責任ある開発を行うことが求められる時代になっている。この裁判の行方は、AI時代のデータ利用の新たなルールを形作る重要な一歩となるはずだ。