【ITニュース解説】「RPA」では限界に……航空会社が「AIエージェント」への移行を決めた理由

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ITニュース概要

航空会社のエールフランス-KLMは、従来のRPAでは複雑な業務への対応に限界があると判断し、自律的に判断し動くAIエージェントへの移行を決めた。年間20万時間削減というRPAの実績をさらに超え、AIエージェント技術で自動化を高度化。業務の効率が飛躍的に向上する見込みだ。

ITニュース解説

航空会社のエールフランス-KLMが、これまで大きな成果を上げてきたRPA(Robotic Process Automation)からAIエージェントへと自動化の主軸を移そうとしている。この動きは、システムエンジニアを目指す人にとって、これからの自動化技術がどのように進化していくのか、そしてどのような技術が求められるようになるのかを理解する上で非常に重要な示唆を与える。 まず、RPAとは何か。RPAは、人間がコンピューター上で行う定型的な操作をソフトウェアロボットに学習させ、自動で実行させる技術だ。例えば、決められた手順でファイルをダウンロードし、特定のデータをコピーして別のシステムに入力するといった、繰り返し行われる単純な事務作業の自動化に非常に威力を発揮する。航空会社であれば、予約データの処理、顧客情報の更新、運航スケジュールの確認といった業務の一部を自動化することで、年間20万時間もの作業時間を削減できたという実績は、RPAがもたらす効率化の大きな恩恵を示している。人間が手作業で行っていた部分をRPAに置き換えることで、ヒューマンエラーの削減や人件費の最適化にもつながるため、多くの企業で導入が進められてきた。 しかし、RPAには限界がある。RPAはあくまで「ルールベース」の自動化であり、あらかじめ定められた手順や条件に厳密に従って動作する。そのため、予期せぬ状況や例外的な事態が発生すると、適切に対応できない場合が多い。例えば、システム画面のレイアウトが少し変わるだけでRPAボットが停止したり、入力データに不備があった場合に自律的に判断して修正したりすることが難しい。非構造化データ、つまり自由記述のテキストや画像など、明確なパターンがない情報を扱うのも苦手だ。人間であれば常識的な判断や柔軟な対応ができる場面でも、RPAは決められたルールを逸脱できないため、結局は人間の介入が必要となる。エールフランス-KLMがRPAで年間20万時間もの削減を達成しながらも、さらに「限界」を感じているのは、こうしたRPAの特性によるものと考えられる。より複雑で変動の多い業務、特に顧客対応のような状況判断が求められる業務では、RPAだけでは対応しきれない部分が多く残ってしまうのだ。 そこで注目されているのが「AIエージェント」である。AIエージェントは、RPAが持つ定型作業の自動化能力に加え、AI(人工知能)の学習能力や判断能力を組み合わせて、より自律的かつ柔軟に業務を遂行できるシステムを指す。RPAが「台本通りに演じる役者」だとすれば、AIエージェントは「状況を理解し、自分で判断して行動できる監督」のような存在と言えるだろう。AIエージェントは、大量のデータからパターンを学習し、その学習結果に基づいて最適な行動を予測・実行できる。これにより、従来のRPAでは難しかった、以下のようなことが可能になる。 まず、非定型な業務への対応だ。AIエージェントは自然言語処理技術を活用して顧客からの問い合わせ内容を理解し、意図を汲み取って適切な情報を提供できる。例えば、航空券の予約変更を希望する顧客が、様々な表現で質問しても、その本質を理解し、必要な手続きを案内するといったことが可能になる。また、機械学習を用いることで、過去の事例やデータから現在の状況を分析し、最適な解決策を導き出すこともできる。天候の急変や機材トラブルといった予期せぬ事態が発生した場合でも、膨大な運航データや顧客影響を考慮し、最適な代替案を自律的に提案するといった高度な判断が期待される。 エールフランス-KLMがAIエージェントへの移行を決めたのは、単なる業務効率化に留まらず、顧客体験の向上とビジネスの複雑化に対応するためだ。現代の顧客は、よりパーソナライズされたサービスや、迅速かつ柔軟な対応を求めている。RPAだけでは対応しきれない個別の要望や、複雑な状況判断が必要なケースでも、AIエージェントは自律的に対応することで、顧客満足度を高めることができる。また、航空業界のように常に状況が変化し、様々な要素が絡み合う環境では、人間が一つ一つ判断を下すには限界がある。AIエージェントが状況をリアルタイムで分析し、最適な意思決定をサポートあるいは実行することで、運航の最適化やコスト削減、安全性の向上といった側面でも貢献が期待される。 AIエージェントの導入は、自動化の概念そのものを大きく変える可能性を秘めている。これまでの自動化が「人間の手の代わり」であったのに対し、AIエージェントは「人間の脳の代わり」として、より高度な判断や意思決定を担うようになる。これにより、人間は単純な繰り返し作業から解放されるだけでなく、ルーティンではない、より創造的で戦略的な業務に集中できるようになるだろう。 システムエンジニアを目指す上で、このAIエージェントへの移行は非常に重要な意味を持つ。これからのシステム開発では、単に業務フローを自動化するだけでなく、AIを活用して「どのようにすればシステムが自律的に判断し、最適な行動を取れるか」を設計する能力が求められるようになる。データ分析、機械学習、自然言語処理といったAI関連技術の知識はもちろんのこと、ユーザー体験(UX)を考慮したシステム設計や、多様なシステムとAIエージェントを連携させるためのアーキテクチャ設計のスキルも不可欠となるだろう。RPAとAIエージェントは、それぞれが持つ強みを活かしながら、連携することでさらに強力な自動化ソリューションを生み出す。この二つの技術を深く理解し、それらを適切に組み合わせてビジネス課題を解決できるエンジニアが、これからの時代に求められる人材となるに違いない。

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