【ITニュース解説】YKK AP、顧客・配送データを「Salesforce」に集約し、物流の最適化へ
2025年09月09日に「ZDNet Japan」が公開したITニュース「YKK AP、顧客・配送データを「Salesforce」に集約し、物流の最適化へ」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
YKK APが、物流の効率化とコスト削減のため、データ基盤を構築した。顧客情報や配送データなど、バラバラだった情報を「Salesforce」というシステムに一元化。これにより、情報の形式を統一し、最適な配送計画の立案を目指す。
ITニュース解説
YKK APは、窓やドアといった建材を製造・販売する大手企業である。同社が直面していた課題の一つに、物流の非効率性があった。製品を工場から建設現場や販売店へ届ける過程で、顧客情報や配送に関するデータが、異なるシステムや部署ごとにバラバラに管理されていたのである。このような状態では、会社全体で物流の状況を正確に把握することが難しく、配送ルートの最適化やコスト削減の妨げとなっていた。例えば、同じ届け先であるにもかかわらず、システムごとに住所の表記が異なっていたり、どのトラックにどれだけの荷物が積まれているかをリアルタイムで把握できなかったりといった問題が発生する。これは、無駄な配送コストや人的リソースの浪費につながるだけでなく、昨今問題となっている物流業界の「2024年問題」、すなわちトラックドライバーの労働時間規制強化による輸送能力の低下という社会課題への対応を難しくする要因でもあった。
この課題を解決するために、YKK APは「データ基盤」の構築に乗り出した。データ基盤とは、企業が持つ様々なデータを一箇所に集め、整理し、活用しやすくするための土台となるシステムのことである。今回のプロジェクトの核心は、これまでバラバラだった顧客データや配送データを一つの場所に集約する「データの一元化」にある。具体的には、顧客の名称や住所といった基本情報、製品の注文内容、配送日時、配送トラックの情報、配送状況といった物流に関わるあらゆるデータを、一つのシステム上でまとめて管理することを目指した。これにより、データの重複や表記の揺れといった問題を防ぎ、全社で統一された正確な情報を共有できるようになる。これを「データの標準化」と呼ぶ。情報が標準化され、一元管理されることで、初めてデータに基づいた正確な分析や効率的な計画立案が可能になるのである。
このデータ基盤の中核として採用されたのが「Salesforce」である。Salesforceは、一般的にCRM(顧客関係管理)やSFA(営業支援システム)のツールとして知られているが、その本質は、様々な業務アプリケーションを構築・連携できる柔軟で拡張性の高いクラウドプラットフォームである点にある。今回のYKK APの事例では、Salesforceが本来得意とする顧客データの管理機能に加え、そのプラットフォームとしての能力を活かし、物流に関するデータも取り込んで一元管理することにした。これにより、顧客情報と配送情報を紐付けて管理することが容易になる。例えば、「どの顧客に、いつ、何を、どのトラックで運んでいるのか」といった情報を、一つの画面でシームレスに確認できるようになる。もし別々のシステムで管理していた場合、それぞれのシステムからデータを取り出して手作業で突き合わせる必要があり、多大な手間と時間がかかっていた。Salesforceという一つのプラットフォーム上にデータを集約することで、こうした非効率を解消し、迅速な状況把握と意思決定を支援する仕組みを構築したのである。
こうしたプロジェクトにおいて、システムエンジニアは極めて重要な役割を担う。まず、YKK APの担当者から物流業務の現状や課題を詳しくヒアリングし、どのようなシステムを構築すれば課題を解決できるかを定義する「要件定義」を行う。次に、既存の複数のシステムからデータを抽出し、Salesforceへ連携させるための具体的な仕組みを考える「設計」のフェーズに移る。ここでは、異なるシステム間でデータを正しくやり取りするための技術(API連携など)や、データの形式を統一するためのルール作りが重要となる。設計が固まると、実際にプログラムを開発したり、Salesforceの各種設定を行ったりする「開発・実装」を行う。そして最後に、完成したシステムが要件通りに正しく動作するかを検証する「テスト」を経て、実際の業務で利用が開始される。このように、システムエンジニアは顧客のビジネス課題を深く理解し、それをITの力で解決するための設計図を描き、形にする専門家なのである。
このデータ基盤が完成したことで、YKK APは物流の最適化に向けた大きな一歩を踏み出した。集約された正確なデータを用いることで、AIなどを活用して最も効率的な配送ルートを自動で算出することが可能になる。これにより、走行距離が短縮され、燃料費やドライバーの人件費といったコストを削減できる。また、トラックの荷台の空きスペースを最小限にする「積載率」の向上にもつながる。どの荷物をどのトラックに載せれば最も効率が良いかをデータに基づいて判断できるためだ。これらの取り組みは、単なるコスト削減にとどまらず、CO2排出量の削減といった環境負荷の低減にも貢献する。さらに、これまでは担当者の経験や勘に頼ることが多かった配車計画などを、客観的なデータに基づいて行う「データドリブンな意思決定」が可能となり、属人化からの脱却も期待できる。今回のYKK APの取り組みは、IT技術を用いて企業の業務プロセスを根本から変革する「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の典型的な成功事例と言えるだろう。システムエンジニアを目指す者にとって、技術がどのようにビジネスの現場で活かされ、課題解決に貢献するのかを理解する上で、非常に示唆に富んだニュースである。