基底帯域 (キテイタイイキ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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基底帯域 (キテイタイイキ) の読み方

日本語表記

基底帯域 (キテイタイイキ)

英語表記

baseband (ベースバンド)

基底帯域 (キテイタイイキ) の意味や用語解説

基底帯域(きていたいいき)とは、通信において変調される前の、元の情報を含んだ信号が占める周波数帯域のことである。英語では「ベースバンド(Baseband)」と呼ばれ、IT分野ではこちらの呼称も広く用いられる。デジタル通信における「0」と「1」のパルス信号そのものや、音声、映像などのアナログ信号が、何も加工されていない状態で持つ周波数の範囲を指す。この信号は、直流成分である0Hz(ヘルツ)に近い、非常に低い周波数から始まるという特徴を持つ。通信システムを理解する上で、この基底帯域と、それを伝送に適した形に変換する「変調」という概念、そして変調後の信号が占める「搬送帯域」との違いを把握することは極めて重要である。 基底帯域の信号を、変調などの処理を施さずに直接伝送路に送る通信方式を「基底帯域伝送」または「ベースバンド伝送」と呼ぶ。この方式の最も代表的な例が、オフィスや家庭で広く利用されている有線LAN、すなわちイーサネットである。LANケーブルのような比較的短い距離の通信では、信号の減衰が少なく、複雑な変調・復調の回路が不要なため、シンプルでコスト効率の良いシステムを構築できる。イーサネットの規格名に含まれる「BASE」、例えば「10BASE-T」や「100BASE-TX」、「1000BASE-T」の「BASE」は、このベースバンド伝送方式を採用していることを示している。この方式では、一つの伝送媒体(ケーブル)を一つの信号が占有して通信を行うのが基本となる。つまり、ある瞬間にケーブル全体を使って送信するか受信するかのどちらか一方の動作を行う。これにより、伝送路の帯域幅を最大限に活用できるという利点がある。 一方で、基底帯域信号にはいくつかの制約があるため、すべての通信で利用できるわけではない。特に、長距離伝送や無線通信には不向きである。その理由は、基底帯域信号が持つ周波数特性に起因する。信号は低い周波数成分を多く含んでおり、これらの成分は伝送路を伝わるうちに減衰しやすい性質を持つ。そのため、信号を遠くまで正確に届けることが難しい。また、基底帯域伝送では基本的に一つの伝送路で一つの信号しか扱えないため、複数の異なる信号を同じ伝送路で同時に送る「多重化」を実現することが困難である。 これらの課題を解決するために「変調」という技術が用いられる。変調とは、基底帯域信号を、より高い周波数の波である「搬送波(キャリア)」に乗せる処理のことである。搬送波は、それ自体には情報を含まないが、安定して遠くまで伝わる性質を持つ高周波の波である。この搬送波の振幅、周波数、位相といった特性を、基底帯域信号の変化に応じて変化させることで、情報を搬送波に埋め込む。この変調によって、元の信号が持っていた低い周波数帯域は、搬送波の周波数を中心とした高い周波数帯域へと平行移動する。この変調後の信号が占める周波数帯域を「搬送帯域(はんそうたいいき)」、または「ブロードバンド(Broadband)」と呼ぶ。 搬送帯域伝送を利用する身近な例は数多く存在する。無線LAN(Wi-Fi)や携帯電話、テレビ放送、AM/FMラジオなどは、すべてこの搬送帯域伝送を利用している。例えば、複数のラジオ局が同じ空間で電波を飛ばせるのは、各局が異なる周波数の搬送波を使って変調し、それぞれの放送を異なる搬送帯域に割り当てているからである。受信機側では、聞きたい局の周波数にチューニングすることで、特定の搬送帯域の信号だけを選択的に受信し、「復調」という変調とは逆の処理を行って元の基底帯域信号(音声)を取り出す。このように、搬送帯域伝送は、信号の長距離伝送を可能にすると同時に、周波数分割多重化(FDM)と呼ばれる技術によって、一本の伝送路や空間で多数の通信チャネルを確立することを可能にする。 システムエンジニア、特にネットワーク技術に携わる者にとって、基底帯域の概念を理解することは、物理層の技術仕様を正しく解釈するために不可欠である。通信方式がベースバンドかブロードバンドかによって、その技術の特性、適用範囲、そして限界が大きく異なる。例えば、なぜ有線LANではシンプルなツイストペアケーブルで高速通信ができるのか、なぜ無線通信ではアンテナが必要で、周波数の割り当てが重要になるのか、といった問いに対する答えは、基底帯域と搬送帯域の根本的な違いに起因する。ネットワーク機器の選定や、通信トラブルの原因を調査する際に、その通信がどのような物理的な原理に基づいているかを理解していることは、的確な判断を下すための基礎となる。基底帯域とは、あらゆる通信の出発点となる「生の信号」そのものであり、この信号をいかに効率よく、正確に、遠くまで伝えるかという課題に対し、ベースバンド伝送やブロードバンド伝送といった異なるアプローチが存在することを認識しておくことが重要である。

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