多重化 (タジュウカ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
多重化 (タジュウカ) の読み方
日本語表記
多重化 (タジュウカ)
英語表記
Redundancy (リダンダンシー)
多重化 (タジュウカ) の意味や用語解説
多重化とは、システムの一部が故障しても、全体としての機能を停止させずに継続稼働させるための設計思想、およびその実現方法を指す。これは、システムやサービスが常に利用可能である状態、すなわち「可用性」を最大限に高めることを目的としている。現代社会において、情報システムは社会インフラやビジネス活動の根幹を支えており、その停止は経済的な損失だけでなく、企業活動や社会生活に深刻な影響を及ぼす可能性がある。このようなリスクを回避し、システムの安定稼働を保証するために、多重化は不可欠な技術要素となっている。 多重化の基本的な考え方は「冗長性の確保」にある。単一の機器やコンポーネントにシステムの稼働を依存させるのではなく、同じ機能を持つ複数の要素を用意し、そのうちの一つが機能不全に陥ったとしても、残りの要素がその役割を引き継ぐことで、システム全体が停止することを防ぐ。これは、一台の機器が故障するだけでシステムがダウンする「単一障害点(SPOF: Single Point Of Failure)」を排除するための戦略でもある。 多重化の対象は、システムの構成要素全般にわたる。具体的には、サーバー本体、ストレージ装置、ネットワーク機器(ルータ、スイッチ)、電源装置、通信回線といった物理的なハードウェアから、OSやアプリケーション、データベースといったソフトウェア、さらにはそれらの間でやり取りされるデータ自体も多重化の対象となる。 多重化の主な方式には、アクティブ/スタンバイ方式とアクティブ/アクティブ方式がある。アクティブ/スタンバイ方式は、通常時に稼働している「アクティブ系」と、待機している「スタンバイ系」の二系統を用意する。アクティブ系に障害が発生した場合、自動的または手動でスタンバイ系に処理を引き継ぐことで、システムの停止時間を最小限に抑える。この方式の利点は、構成が比較的シンプルで管理しやすい点にあるが、スタンバイ系は通常時にリソースが遊んでいる状態になるという側面もある。データベースサーバーの冗長化や、ルータの冗長化プロトコル(VRRPやHSRPなど)などで広く用いられる。障害発生時の切り替えを「フェイルオーバー」と呼ぶ。 一方、アクティブ/アクティブ方式は、複数の機器が同時に稼働し、それぞれの機器が処理の一部を担当することで、全体のパフォーマンス向上と可用性の両立を目指す。例えば、複数のWebサーバーが同時にリクエストを処理し、それらのサーバーへのアクセスを「ロードバランサ」と呼ばれる装置が均等に振り分ける構成などがこれに該当する。この方式は、システムリソースを効率的に利用できるため、高いスループットを要求されるシステムに適している。また、ある機器に障害が発生しても、残りの機器が処理を継続するため、システム全体が停止するリスクが低く、切り替えによるサービス中断もほとんど発生しない。しかし、複数の機器間でデータの整合性を保つための仕組みや、負荷分散の制御が複雑になる傾向がある。ストレージの多重化技術であるRAID(Redundant Array of Independent Disks)も、複数のディスクにデータを分散・複製することで、データの可用性を高めるアクティブ/アクティブ方式の一種と言える。特にRAID 1(ミラーリング)は同じデータを二つのディスクに同時に書き込むことで、片方のディスクが故障してもデータが失われないようにする。 これらの方式の他に、N+1方式やN+M方式といった考え方もある。N+1方式は、N台の現用機に対して1台の予備機を用意するもので、現用機のいずれかが故障した場合に予備機がその役割を代替する。N+M方式は、N台に対してM台の予備機を用意することで、さらに高い可用性を実現する。 多重化を実装する際には、いくつかの重要な考慮点がある。第一に、コストの増大である。機器の台数が増えれば、導入費用、運用費用(電力、保守)、設置スペースなどが比例して増加する。第二に、システムの複雑性が増すことである。多重化されたシステムは、設計、構築、テスト、そして運用管理が単一構成のシステムよりも複雑になる。特に、障害発生時の切り替えロジックや、複数ノード間でのデータ同期の仕組みは慎重に設計する必要がある。第三に、本当に単一障害点を排除できているかという点である。多重化したつもりでも、共通の電源タップやネットワークスイッチ、あるいは特定のソフトウェアコンポーネントが単一障害点として残ってしまうケースがある。徹底した分析が求められる。第四に、データの整合性維持である。特にアクティブ/アクティブ方式では、複数のノードが同時にデータにアクセスし、更新を行うため、データの一貫性を保つための複雑なメカニズム(例えば分散トランザクションやレプリケーション)が必要となる場合が多い。 多重化は、あらゆる種類の障害からシステムを守る万能薬ではない。例えば、アプリケーションのバグによるデータ破壊や、広域停電、自然災害といった大規模な障害に対しては、多重化だけでは十分に対応できない場合がある。これらのリスクに対しては、バックアップからの復元や、遠隔地へのデータ複製(ディザスタリカバリ)といった、多重化とは異なるアプローチが必要となる。 しかし、日常的な機器故障や部分的なシステム障害からサービスを守る上で、多重化は最も効果的かつ基本的な手段の一つである。システムエンジニアにとって、システムの要件に応じた適切な多重化方式を選択し、設計・実装・運用することは、信頼性の高いシステムを構築するための重要なスキルとなる。多重化によって、ユーザーはサービスを中断なく利用できるようになり、企業はビジネス機会の損失を防ぎ、社会的な信頼を維持することが可能になるのである。